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プロローグ
兵士に両脇をつかまれ、後ろ手で縛られた男は無理やり座らされた。目の前にあるのは断頭台。脇には死刑執行人が巨大な斧を片手に構えている。ここは広場に急遽組み立てられた、舞台の上。まわりには民衆がこの男の死刑をいまか、いまかと待ち受けている。
「…以上の事を持ち、死刑を宣告する。何か最後に言い残す言葉はないか?」
自分の罪状が読み上げられると、男は押さえつけられながらも、顔をスッと上げた。監獄生活で頬は痩け、乱れた髪と髭の風貌には、かつての面影は残されてはいない。けれど瞳の奥に燃える炎は、今、死を目前にしても決して消えることなく静かに燃えていた。男は声を張り上げる。
「俺は!」
まっすぐと通るその声は、広場を瞬時に静まらせた。
「俺は戻ってくる!銀月が輝く夜に、俺は戻ってくるぞぉ!!」
男の声はやがて笑い声と変る。ぞっとするような、身の毛が弥立つような笑い声。
そして、彼の死刑は執行された。