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『高嶺の花』だってくだけたい。~憧れの的な幼馴染がボクっ娘なオタク気質なのを俺だけが知っている~  作者: 四乃森ゆいな
第2章 友人

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第22話 理解者の縁

「それじゃあ、当日はずっとベンチで応援係ってことか……?」


「必然的にそうなるだろうな。まぁ、球技に限らず運動系の種目にはトコトン嫌われてる俺が出るような事態にならなければ、話は別だけどな」


「それ死亡フラグって言うんじゃねぇの」


「んなもんは空想上に起き得るものだろ。現実世界に変換されてたまるか」


 ふと、小さい頃に思い描いていた理想が脳内を過った。


 今にして思えば、周りの同性と比べても頭脳は飛び抜けて高くとも運動に関してはからっきし駄目で、体力測定などでは天性の運動音痴ぶりが遺憾なく発揮されてしまっていた。全国の同年代が出す平均数値を余裕で下回り、運悪く同じチームとなってしまった子たちには、せめて迷惑をかけまいと影ながら努力していたりもした。


 不幸中の幸いというべきか、運が悪かったともいうべきか。


 偶々同じクラスの子に、体育の授業でやる球技の練習をしているところを見られてしまい、俺の運動音痴ぶりを目撃されてしまった。ただ、その必死さをバカにするような者は何処にもおらず、本番のテストまでに少しでも上達しようぜと、むしろ特訓に付き合ってもらったりもした。


 結果として、練習する前と比べると若干上達したようにも思えたが、総合的な結果はそれほど伸びることはなかった。


 ただいつの日か、努力し続ければ改善されるはずだと。


 ……そう本気で信じていた自分が青く見えてしまったと同時に、羞恥心で顔に熱が籠ってしまった。


「ん、どした?」


「…………いや、少し過去の自分から大ダメージを引き継いだというか。自分の前に立ち塞がる最大の敵をゲージ引き継ぎの状態で押し付けられた感覚に陥ってるというか、そんな感じ」


「悪ぃ、()かなかったことにしてくれ」


 頼むからそのまま無かったことにしてくれ。


 ……と、心の中で思いつつも、あの頃の、運動音痴の自分は努力で改善できると信じて止まなかった自分に感謝していることもある。それは、今のクラスにおける人間関係について。


「――おーい、水無月ぃ! 折角(せっかく)だし、今のうちにチーム組んで試合しようぜ!」


「ワンセットだけならいいぞ」


 ふと、俺の名前を呼ぶ声がコートの方から聞こえてくる。


 運が良いのか、小学校時代に頭の良い私立校へと入学した縁か。中学受験を控えた中、この学校を選ぶ子も少なくなく、あの頃のクラスメイトの何名かは、現在今も同じクラスとして在籍していたりする。


 だから俺から宣言しなくとも運動音痴であることは知られているし、俺が体育の時間、基本誰ともチームを組もうとしないことへの意図も知る当時の友人達は、俺のことを気遣ってかスポーツ大会への参加についても積極的に声をかけてきてくれた。


 無論、嬉しかった。あの頃と違って完全に現実的な思考へと切り替わってしまったが、努力しようとしていた過去は裏切らず、俺に理解者の友人を得る機会を作ってくれた。


 ……ならどうして、彼女には()()を作ってくれなかったのだとも思うが。


「なんだ、ちゃんと誘ってくれる友達居るじゃんか」


「別にコミュ障ってわけじゃないからな? ……運動に対しては意識が下に向くだけだ」


「お前の場合、下に向きすぎだけどな?」


 誰だって苦手なことには意欲が下がるもんだろ。


 渋々(しぶしぶ)、俺は(なまり)のように重たい腰を上げてコートの方へと駆け寄る。


 俺の運動音痴ぶりを知っていても尚チームに誘ってくれる友人達には、頭が上がらない。少しだけでもやってみないかと、俺の運動意欲を向上させようと取り組んでくれる。


 半ば諦めの心を持ちつつ、それでも彼らからの誘いを断れないのも、断れば良心が傷ついたように思えるのも……多分俺は、まだ、彼らと同じように諦めたくないと、どこかで理想を描いているのかもしれない。今すぐには出来なくとも。


 いつの日か、彼らの気持ちに応えたいのだと。


「できる限りお前にたくさんボール回せるようにするから、水無月がやりたいように、とりあえず動いてみようぜ!」


「そそ、何事も挑戦だしな! やる前から諦めてちゃしょうがねぇだろ!」


「……あぁ、そうだな」


 そして、3VS3のミニゲームがスタートするホイッスルが鳴る。


 制限時間10分という短い試合時間の中でも、彼らは積極的にボールを回してくれた。


 挑戦する前から諦めているようでは、確かになんの根拠も生まれない。否定するにも、肯定するにも材料が必要になる。


 手に入れる機会を逃した俺を、せめて体育の授業のミニゲームで会得させようと立ち回ってくれる友人達にはやはり頭が上がらない。縁とは実に不思議なものだ。


「いっけぇ水無月!」


「そう、そこで思いっきりシュートだ!」


「……っ、ここだ!」




 ――理想とは、現実を知らしめる要因に過ぎないようだ。




 何度も俺の元へと運ばれてきた重みを感じるバスケットボール。


 勿論、冬夜のようにカッコいいフォームからの3Pシュートなんぞ打てるはずもなく、俺の手から離れて空中で放られたボールは、ゴールに入る気配も示さず床へと落ちていった。


 そんな俺の試合の様子を見ていた冬夜はというと、なにやら口許(くちもと)を両手で押さえて(うずくま)っていた。


 具合が悪くなったのかと一瞬思ったが、目を凝らせば肩を震わせ、目元には小粒の涙が見えた。そして、そのどさくさに紛れて同じような笑い方をしつつ、俺に向かって親指を向けてくるクラスメイト。なにがグッジョブだこの野郎共。


 その授業が終わった直後、信頼を置く友人達の溝内に拳を一発ずつ入れたことは、言うまでもない。


 男子の友情関係は、バトル漫画のような熱い友情でなどできていない。




 ――その実の10割がふざけ合いで構成されている。

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