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『高嶺の花』だってくだけたい。~憧れの的な幼馴染がボクっ娘なオタク気質なのを俺だけが知っている~  作者: 四乃森ゆいな
第2章 友人

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第21話 憎き体育

  ◇


 床を踏みきる音。


 ボールがネットをくぐる音。


 得点を得たことに歓喜の声をあげる同級生の男子達。


 現在の時刻は午前11時過ぎ。3時間目である体育は男女別に分かれ、男子は体育館でバスケットボール、女子は外のグラウンドでサッカーの試合をしている。


 ひたすらゲームを回していくシンプルな授業内容だが、正直なところ、俺はこの体育という時間がとてつもなく苦手だ。理由なぞ単純明快――極度の運動音痴だからだ。以下も無い。


「うっしゃ! 冬夜、ナイスシュート!」


「お前もナイスパスだったぜ!」


 目の前のハーフコートで行われている試合の風景に、大槻冬夜の姿があった。


 容姿端麗でスポーツ万能、更には大企業の御曹司であり現役モデルとかいう、前世はどこの国の王子だったのかと疑問を(てい)したくなるほどのスペックを併せ持つ冬夜。


 あいつの抜けている部分を知ってしまっているだけに、劣等感を抱くことなど無いだろうと鷹を括っていたが、どうやら俺の勘違いだったらしい。


 あんな表面上を知れば、誰だって彼に注目の視線を集めるに決まってる。


 今朝のことを思えば自然と行きつく考えかもしれないが、どうにも俺の場合、彼の『友人』であるが故の“見えていない壁”があったのだと。初めて理解したかもしれない。


「よっ! さっきのオレの3Pシュート見たかよ……って。どうした、今にも人を(あや)めそうな顔つきになってるぞ!?」


「…………なんでもねぇ。ただ、ハイスペック主人公は運動神経に(めぐ)まれてこそなのかと嫉妬してただけだ。今すぐお前を殺めようとは思ってねぇから顔合わせんな」


「しかも『標的(ターゲット)』オレかよ……っ!?」


 褒めてほしさに駆け寄ってきたこいつの輝きに目がやられ、再びスペックの違いに心が揺れ動かされる。思わず目を細めるが、意識としては彼に嫌悪感を抱いているわけじゃない。


 これは単に持つ者に対する、持たざる者の最大限の抵抗。言わば嫉妬。


 すると、俺の言動にため息を吐く冬夜は、流れるように俺の隣へと腰を落とす。


「ったく……。どうせ、オレとお前の運動能力の違いを比較してたんだろ。体育の授業となるとすぐこれだ。いい加減、同じ人間でも持つものと持たないものがあるっていうのを理解しろよ」


「……自分には無いものを持ってる奴を見て『いいなぁ』って思うことぐらいあるだろ、お前にだって。それと一緒だ」


「出会った頃からそうだよな、お前って」


 何故か口許(くちもと)を緩めてクスッと笑みをこぼす冬夜。


 なにが可笑しかったのかなど皆目見当もつかないが、敢えて心境の内側は()かない。


「前も言ったろ。オレが運動できるのと同じように、蒼真は勉強が得意だ。逆に、蒼真が運動音痴なように、オレだって勉強や芸術には滅法弱い。人間って生き物は完全じゃない。どこかに必ず補えない欠点がある。それを補い合うのが『友達』だろ?」


「…………」


 欠点がある生き物が人間。一言で『完璧』と呼べる人間など存在しない。


 表向きには完璧超人のように見える冬夜だってそう、人は誰しも弱点を持っている弱い生き物だと述べる者がいる。俺や冬夜、そして紅内さん、優花だって――、


「……よく恥ずかしげもなくそういうことが言えるもんだな」


「公開告白を嚙ましたお前に言われたくないんだが?」


「~~~~~っ!? い、いや、あれは偶々、状況的にそうなっただけだし、別に周りには誰も居なかったんだから、公開告白ってわけじゃ……」


「いやいや。下校中といえど、人目がつきやすい通学路の中での突然の告白は、もう公開告白と同等の価値があんだろ。しかもシチュエーションまで味方してたしな!」


「……なに、今度は俺の方がせがまれてんの?」


「んなことねぇし、ただの八つ当たりだよ」


 してんじゃねぇか。と心の中で呟く。


 1年前――俺と優花はほぼ同時、タイミングなど合わせてもいなかったのに。


 長年、胸の奥底に秘めていた『恋心』と呼べる独占欲(おもい)を自覚してしまい、特別な雰囲気を作り出すようなことも無いまま、同時に告白を交わしてしまった。それも、いつも使う通学路の帰り道。――家の隙間から射し込む、夕焼けの眩しさを顔に浴びながら。


「……んま、オレのことはどうでもいいとしてさ。お前、そんな調子で今週末のスポーツ大会どうすんだよ。今日の授業って、それに向けての練習でもあるんだが?」


「無論、見学一択だ。運動音痴なところを曝すぐらいなら、見学した代償としてスポーツ大会のレポート(原稿用紙2枚分:総800文字)書く方がマシだ」


「どんだけ嫌なんだよ……」


 月ノ宮学院高等部に在籍する全学年が、あらゆるスポーツで順位を競うスポーツ大会。


 10月末に行われる体育祭とは別にある言わば前哨戦のようなものだが、スポーツ大会という名目通り、サッカー、バスケ、バレー、ベースボール、卓球等の様々な球技を対象としたクラス対抗戦の行事となっている。


 どの種目に参加するかはクラスごとに自由となっているため、学活の時間などを使い、クラス全員の意見をまとめ決める必要がある。


 ちなみに個人戦、団体戦問わず既に欠場が決まっている。正確に言うならベンチ組だが。


 個人戦はともかくとして、団体戦の場合は1人のミスがクラス全員の総合点を下げることになってしまうからな。


 それでも俺のクラスの男子たちは優しくて、俺の運動音痴を知っていても尚〝チームに入らないか〟と誘ってくれたが、その気遣いに胸が痛くなるのを感じながらも断ることにした。

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