第20話 カロリー量
お久しぶりです。更新遅めでごめんなさい…!
突然の提案に俺だけでなく、冬夜も驚きのあまり大声が出る。
「突然なに言ってんですか!」
『いやぁ、この間冬夜君から紹介されたとき、ほんの一言挨拶交わしただけだったけど中々なイケメン面だったのを思い出してね。こうして話してみて再度実感したんだけど、絶対素質あると思うのよ! ペアコーデのついでに、友達同士のコーデなんかも有りじゃない!?』
「サラッと仕事量増やさないでください! ……というか、蒼真はモデルとかファッションとかには疎いんで、どれだけせがまれてもやらないと思いますよ」
間違っては無いが、サラッとディスられたな。
というより、軽率に素人をモデルにスカウトするとか、大丈夫なのかこの人……。仕事面においては冬夜の言動を見る限り信頼できる人なんだろうが。
『んん……それじゃあ仕方ないかぁ。いい案だと思ったんだけど』
「臼井さんの妄想にこいつを巻き込まないでください」
……そういうことか。冬夜の発言で意図が解けたかもしれない。
『でもでも! 見学は来てくれるってことでいいかしら……?』
「だとさ。オレからは特に口出す権利は無いし、蒼真に用事が無けりゃあ来てもいいぜ」
「……それじゃあ、行きます」
『了解! 後のことはこっちで進めておくから、とりあえずいつも通り駅前で待ってて頂戴。出来れば静華ちゃんも一緒に拾ってもらえると助かるって、さっき静華ちゃんのマネージャーにも言われたんだけど、どう?』
「一応連絡取ってみますけど、あいつ今日は委員会だって言ってたんでわかりませんよ?」
『紅内静華』――冬夜同様、ファッション誌『BLOOM』で活躍している読書モデル。モデルとしての名前はシズとなっていて、ヨルこと、冬夜とのツーペアの写真が女子高生を中心に人気を博しているらしい。
当の本人は、眼鏡にお下げのヘアスタイルと陰キャな印象を持たれやすいが、雑誌に掲載されている彼女はまるで別人。天界から降りてきた天女のようで、どこか儚げな表情を魅せる。――髪型もお下げからハーフアップやストレートのセミロングへと変え、眼鏡を外し、コンタクトを入れているそう。
どうしてモデル活動をしているかはわからないが、十中八九、冬夜絡みであることは間違いない。
『わかった! それじゃあ、連絡ついたら私の方に連絡よこして! ……あ、それと。くれぐれも今朝みたいな単独行動はしないようにすること! その辺、お願いね水無月君』
「首根っこ掴んで連れてくんで安心してください」
「もっと丁重に扱ってくれ……」
『それじゃあ、また放課後に!』という言葉を最後に通話が切れ、冬夜は自分のスマホをズボンのポケットへと仕舞う。
「悪いな、変な話に付き合わせちまったみたいで」
「いや、現場の見学も面白そうだなと思ったのは本当だし、臼井さんと話をする機会が作れたことも純粋に良かった。お陰で、また1つお前の弱みを握れたからな」
「おいこら!」
中学1年生の春――偶然出会ったことで始まった奇妙な輪。それ以前の彼がどんなだったのかはわからないし、今後も冬夜の人生の半分をも、俺は知ることなど無いだろう。
気の合う友人ができたとしても。
たとえ、俺という親友ができたとしても埋められないピースがこいつにはある。
無論、それを埋めるのは俺ではない。だからこそ、お礼を言われる筋合いも無いのだ。きっかけなぞ所詮はきっかけ。先を紡ぐのは物語の主人公とヒロインで、俺はこいつの人生においては始まりの存在に過ぎない。
「……そういえば、静華ってあいつと一緒の委員会だったよな。ほら、咲良優花!」
「あぁ、図書委員だったな」
2年の教室へと向かう中、ふと冬夜の口から幼馴染の名が飛び出す。
ちなみに、俺と優花は同じクラスだが、冬夜と紅内さんに関しては別のクラス。普通他クラスの組織図など把握しないが、両者は互いの幼馴染、故に自然と把握してしまう。
「お前が今日、オレたちのロケ撮の見学に来ることも伝える必要があるけど。折角だし、咲良も見学に誘ってみないか?」
「優花も?」
「あぁ。静華とは何度もロケ地で撮影してるけど、同級生に見守られながら撮影に臨むっていうのは、オレもあいつも初めてなんだ。オレには同性の知り合いがいるからいいが、静華はそこまで蒼真と話したことも無いし、どうせだったら同級生でかつ同性の方が休憩時間とかもリラックスできると思うんだよ。……な?」
スマホでメールを打ち込みつつ説明する冬夜。
幼馴染であり同僚。更には元恋人同士とかいう気まずい関係ではあるものの、決して離れない彼女への配慮。引っ込み思案気味な紅内さんにとって、慣れ親しんだ咲良優花がいるというのは想像以上に大切なことなんだろう。
(……なんで別れたんだろ。雑誌の中の写真でも、あんなに良い表情ができるほど未練たらたらなくせに)
まるで――遠くへと離れていってしまった想い人へ向けるような。
近くに居るはずなのに、遠い存在を想うような――矛盾した、けれど、適切な表情をしていたと俺は思う。少なくとも、昨日見かけたページに載っていた彼らの表情は……、
「ん、どうかしたか?」
「……なんでもねぇよ。話の方だけど、とりあえず優花の方には俺から訊いてみる。どうせクラス一緒だし」
「了解! んじゃ、今日お前が見学に来るってことと、もしかしたら咲良も来てくれるかも的な内容でメールしとくな。臼井さんの方にはこっちが決まってからメールするわ」
そう言うと、一通りの内容を打ち込んだメールを紅内さんのスマホへと転送し終えたのか、電源を落としてスマホを仕舞う。
階段を昇り、高等部2学年の教室がある3階へと着くと、まだHRまで時間があるのかほとんどの生徒が廊下で談笑している。どうやら遅刻せずに済みそうだ。
「あぁ~。全員同じクラスだったら、こうやってメールでの伝言も最小限で済んだのにな。同じになるタイミングも他クラス合同の音楽と体育だけだし。そういや意外だよな、お前が咲良と一緒の委員に入らないなんてさ」
ふと思い出したように冬夜は俺に訊ねる。
俺は今日の放課後の予定を訊くため、優花宛のメールを打ち込みながら応答する。
「まぁ、昼休みの当番は邪魔されることなく本を読めるから得ではあるんだが……それは教室でも一緒だしな。俺は文化祭実行委員の方が務まるんだよ」
「そういや去年もそうだったな。結構長期の委員になるのに、よくやる気になるな」
「活動時期だけみれば面倒かもしれないけど、長期である分、急にクラス内で案を募るなんて役回りも起きにくいし、意外と活動する時間も少なめなんだよ。ちょっとずつ進めていけば尚良し。――それに生徒会とか、学級委員とかも参加が義務付けられてるから、委員会っていう単体の括りでみるなら1番人数多いからな。責任を感じる負担が減る分にも助かるんだよ」
「へぇ~、ちゃんと考えてんだな」
「後はそうだな。内申にも大きいから入ってるのもある」
「意外にも黒いよなお前……」
委員会に積極的に入りたがる人ほど考えてるだろ。なにも俺だけに限った話でもあるまい。
それに、去年と同じ委員会に所属するメリットは他にもある。経験上、どのような役回りをすればいいのかも頭に入ってるし、そういった意味でも同じ委員に所属する利点は大きい。
と、ポケットに仕舞っていたスマホにメールが届く。
「優花からだ。……『今日の放課後だったら空いてる』、だってさ」
「オッケー! そしたら見学人数の変更については俺から臼井さんに伝えとくわ。多分3時間目の体育までには返事が来ると思うし、そんときにでもメールの内容伝えるな」
「わかった」
教室へ向かいながら会話する内、朝のHR5分前を伝えるチャイムが廊下に鳴り響く。
そのチャイムを聞き、廊下に出ていたほとんどの生徒が解散し、自身が所属するクラスへと戻って行く。
「あちゃあ~、もうそんな時間か」
「早朝からあれだけの騒ぎが立て続けば、そりゃ自然と時間の流れだって早くなるだろ」
「……次からは変装して電車乗るか!」
こいつ全然反省してないんだが?
改善するどころか、次の行動に移すために考え出す冬夜の姿にため息がこぼれる。雑誌を読む女子高生たちが描く理想の彼氏という図から遠ざかっていく〝大槻冬夜〟という男の本来の姿に、思わず口許が緩んでしまう。
――現実はこんなものだ。と、どこかの誰かに重なる感情を抱く。
ただ悲観はしない。表面だけでは人間という生き物は語れない。あるべき姿があってこそ、理想の姿も形成される。
この男の面倒を見るのも大変だなと、臼井さんの影ながらな努力をしみじみと受け止める。
「そんじゃ、また後でな!」
「おう」
隣の教室へと入って行った冬夜の背中を見送り、俺は電源を落としていたスマホを開く。
点けた途端に出てきたのは、仕舞うことも怠った幼馴染からのメールだった。
『なぁああぬぅ~!? クローゼットの中身はユ○クロで購入したようなTシャツやジーパンだらけといった、ド・平凡! みたいな〝お前、そのシャツ何枚同じの持ってんねん!〟ってツッコまれてもおかしくないぐらいファッションにはまっったく興味もヘッタクレも無いキミが撮影の見学だぁあああ~~!? なんだ、天変地異か!? 明日は何、槍でも降ってくるってか!? どうしたよ兄者!! 一体どんな心境の変化だ、このお姉さんの胸の中(Bカップだろとか言ったらはっ倒すぞ)に頭を埋めるような勢いで飛び込んで来い! そしてそのまま、キミにかかった謎を解し、解き明かしてやろうではないか! よしっ、今日はキミの部屋でゴロゴロと寛ごうと思ったが予定変更だ! 放課後になったら尋問の時間だ青少年よ! 好奇心には人間、逆らえないものだからな!――8:42』
この長ったらしく方向が意味不明な文章をすぐさま直訳できた俺を誰か褒めてほしい。
というかさっきからすげぇ失礼なんだが。俺どんだけファッションに興味無いと思われてんだよ。……いやまぁ、その通りですけども。
「……はぁああ」
今日はカロリー量が実に高い1日になりそうだ。そう思わずにはいられなかった。




