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高嶺の花な幼馴染が、俺の前だけボクっ娘でいる件  作者: 四乃森ゆいな
第1章 4月20日

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第10話 嫉妬

  ◇


 部屋の天井付近にまで届くほど大きい木材色の本棚が二つに、抽選で当たった作家さんや絵師さんの直筆サイン入りのラノベや色紙を飾る棚が1つ。


 学生には必要不可欠となる学習机に、教科書や参考資料、ノートを収納する棚が1つ。

 そして、男性用の大きさのベッドが1つ。


 必要最低限のものだけを集めたつもりが、部屋の半分が本棚と大量の小説と漫画で溢れかえった部屋となってしまった、俺――『水無月蒼真』の自室。


 衣類を仕舞う収納棚は元々この部屋に備え付けされているため、新しく用意する必要はない。その点に関しては、この部屋を割り当ててくれた父さんに感謝している。


 同業の者からすれば理想的で落ち着く空間。

 本という文化の1つから遠ざかる生活をしている者からすればオタク部屋と誤解されてしまうであろうこの空間。


 時刻は既に夜10時を回り、本格的に就寝の準備を始める必要があるのだが……そんなものには目もくれず、今日も今日とて、俺のベッドを占領する幼馴染の姿がそこにはあった。


「……今日ぐらい、用意してもらった布団の上で読んだらどうなんだよ。ベッドの端に追いやられてる(あるじ)が可哀想だとは思わないのか?」


「ん~、だって蒼真が使ってるベッドってふかふかなんだもん! そりゃあこっちでゴロゴロと本を読みたくなるもんでしょ~よ! あ、せっかくならこのまま一緒に寝ちゃう!?」


「ワクワクしてんな、頼まれても分けるからな」


「……キミ、モテないタイプだな?」


「残念ながら、こう見えてもどっかの高嶺の花と一緒で頭脳だけは一丁前なんでね。小さい頃なんて近所に住んでる人やら同級生の女の子からだって、そりゃあモテてたもんよ! 残念だったな、お前が描いた理想の駄目人間じゃn――」


「――けどその後、大抵運動音痴なことが露呈して一気に好感度下がってたよね~。あの時期の女子って、夢見がちで理想高めだからねぇ~! 理想で言えば、お金持ちで頭も良くて顔も良い――まさに少女漫画に出てくる『学園の王子様』みたいな感じが1番なわけ! 頭が良くたって、スポーツが苦手な中途半端な若王子には誰も(なび)かんってもんよ!」


 こいつ、なんで俺の小学校時代まで知ってたんだよ! 学校別々だったろうが!


 というか貴女様、仮にも俺の恋人(カノジョ)ですよね? 彼氏に対してのいい文句が完成されすぎてて寧ろ嫌われてるまであるんだが……?


「おっと、変な誤解はしないでくれたまえよ。ボクは別に、キミの唯一の短所を揶揄(からか)い尽くして赤っ恥を()かせたいと目論(もくろ)んでるわけじゃあない。せいぜい5割ぐらいだ!」


「半数占めてんじゃねぇか!」


「ボクが述べたい『着地点』はそこじゃないってだけだ。単にボクは、キミが過去色々な女子達に愛想を振り撒いていたことに対し、説教したいと言いたいのだよ!」


「人のことを悪名高い非道な奴みたいに言うなよ。……つーか、そんなことした記憶は無い」


 俺は読んでいたラノベのページを捲りながら、彼女の証言を否定する。


 すると、いつの間に起き上がったのか、優花は俺の側まで四つん這いの状態で近寄り、いつもよりも鋭い()()()()()を向けてくる。


「……んだよ」


「自覚が無い(いや)らしい男の子に、ボク自ら説教を下しに来た!」


「意味不明な上に、それを言うならお前だって同罪だろ。今日贈られた大量の誕生日プレゼントがその証拠だ」


「義理チョコだぞ?」


「バレンタインオアホワイトデーはとっくに過ぎてるんだが?」


 現在は4月20日。入学式など2週間前にとっくに過ぎ去り、新入生や新社会人の新たな門出(かどで)を祝うかのように満開に咲き誇った桜は、風の流れに乗り、緑色の葉へと徐々にその姿を変えていっている。


 夜間はまだ冷え込むため衣替えにはまだ早いが、季節外れの雪が降り積もることもない。


 コンビニやデパートの飲食店売り場にて、数ヵ月飾られていたバレンタイン、ホワイトデー用の看板やチョコレート売り場もとっくに姿を消し、現在は5月に控えた子供の日に向け、装飾品や食べ物が季節(その)棚を占拠している状態だ。


 告白の一大イベントと呼ばれた季節が過ぎ去る頃――今から17年前の4月20日に生まれた『咲良優花』に、義理という単語は不似合いだ。


 季節外れにも程がある。


「キミ、今日はいつにもまして生意気じゃないか。なぁに? そんなにボクが今日学校中から注目されてたのが気に入らなかったのかなぁ~?」


 つんつん、と俺の頬をつっついてくる優花。


「……今更お前の注目度に一々反応しててもキリ無いだろ。ただの幼馴染だった頃からそうなんだし、そんなのに過剰反応してたら、昼休み逆に俺の方が倒れてたわ」


「ま、その場合はボクの方からキミに、プレミアム価値がつくと噂の『特等席』に頭を預けられる権利を分け合たようじゃないか! 無論、キミにはサービスとして〝半永久〟という特典をつけるとしよう!」


「小さい頃から散々その膝にはお世話になってる気がするから、今更プレミアム価値を見出されても、俺には中古店で購入した製造中止の神ゲーぐらいの価値な気がするけどな」


「製造中止の時点で相当プレミアムなお値段つくってことで、オケですかぁ?」


「……、うっさい。ニヤニヤすんなっ」


 にしし、と口角を上げて笑う彼女を横目に、俺はラノベを閉じてベッドから立ち上がる。


 …………本当のことを言えば、ほんの少しだけ嫉妬した。


 本人が広めたわけでもない誕生日が、いつの間にか、当たり前のように認知されていて。登校すれば、一方的な(ふみ)と有名ブランドのお菓子が綺麗にラッピングされた箱が大量に積み上げられていた。


 彼女には既に心に決めた『異性の相手』がいる。――その(じじつ)を受け入れつつも、彼女への想いを一方通行に伝える者は多い。そんなことは百も承知だ。



 すれ違った皆が『あの子綺麗じゃない?』と目を向けて。


 横を通っただけで自然と意識を向けてしまうほど彼女は魅力的な人間で。



 そんなことはわかっていても、昔から〝彼女自身(さくらゆうか)〟に惹かれていた俺はどうしたって彼女に好意を向ける者に嫉妬する。彼氏だから? 否、幼馴染だから? 否――彼女が『咲良優花』だからだ。


 出会ったのは偶然。


 偶々隣同士に住んでいて、偶々同年齢で、偶々趣味が重なっただけかもしれない。幼馴染でもなければ俺は、こんな才色兼備な彼女と親しくなれなかっただろう。でも今日ぐらいは、この出会いに素直になってもいいだろうか。


 必然ではなく、偶然がもたらした出会いに――。

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