表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女ではなくなりますが ‥‥‥   作者: ゆきちゃん
第2章 魔王との戦い
9/33

8 魔王の刺客、暗黒騎士

暗黒騎士のすさまじい剣戟が心臓の部分をつらぬく寸前、


1000分の1秒の間の出来事だった。ランスロが持っている杖が黄金色に光った。


そしてランスロは感じた。


(手を動かすことができる。体が動く。)


 切り裂かれた空間は修復され元に戻っていた。


 ランスロは杖を振るった。同時に、黄金に輝いた杖は神々しい剣の姿に変化していた。その剣が暗黒騎士の剣と真正面からぶつかつたが、暗黒騎士の剣を押し返し、暗黒騎士に強い打撃を与えた。


 暗黒騎士はかなりの距離を飛ばされて倒れたが、よろよろと立ち上がった。西洋兜がはずれて顔がむき出しになっていたが、決勝の相手である貴族の若者のものではなく、年配の別人のものになっていた。


 国王と公爵は思った。


「ランスロが持っているのは宝剣プライラス。何重にも鍵がかけられ封印されている宝物庫にあるはずなのに。」


 グネビアは別のことに気が付いた。


「相手の顔、どこかで見たことが………。」


 ‥‥


 既に終わった未来で、その過去に起きたこと。


 グネビア王女が3歳であった時、古くからの王族の習慣として聖地の神殿に報告をするため巡礼に行った。聖地は隣国とのほぼ中間の山岳にあったが、王女の行列は帰り道、強烈な嵐に遭遇して隣国の領土に迷い込んでしまった。


 隣国の領主は侵攻されたと誤って判断し、王女の行列に軍を差し向けた。隣国の軍から騎士達の攻撃が始まり、やがて乱戦になった。


 王女の行列を守る騎士は極めて少なかったが勇敢に戦った。その中で、王女の馬車の前に立ちふさがり、相手を完全に防いだ護衛の騎士がいた。その騎士は大きな声で何回も叫んでいた。


「侵攻ではありません。我が国のグネビア王女様が3歳になられて聖地に巡礼した後、強烈な嵐に遭い迷ってしまったのです。」


 やがて、その騎士の恐るべき強さと懸命な叫びが、隣国の軍に誤りを気づかせ、攻撃していた隣国の軍は剣を置いて王女の馬車の回りに平伏した。


 馬車の中でおびえていた王女に、その騎士が優しい声で言った。


「我がプリンセス、誤りで始まった戦いは終わりました。外に出られて、隣国の軍にもお顔をお見せいただけませんでしょうか。」


 まだ3歳であったが、グネビア王女は決心して場所の扉を開けて外に出た。


 王女を守り抜いた護衛の騎士が、ひざまづいてお辞儀をした。そして、小さな優しい声で言った。


「誤りから始まってしまったとはいえ、勇敢に正々堂々と戦った騎士達に是非お言葉を。」


「私の巡礼のおかげで不幸な戦いが始まってしまったことに、心の底からお詫び致します。今日戦った者達は永遠の名誉を受けるでしょう。」


 3歳のグネビア王女は護衛の騎士に訪ねた。


「勇敢な騎士の名前を問う。」


「アルトリウスと申します。」


 その後数年たって、王女はアルトリウスが反逆罪で騎士の地位を剥奪され通報されたことを聞いた。しかし、王女にはどうしてもアルトリウスが反逆したとは信じられなかった。



 ‥‥


 よろよろと立ち上がった暗黒騎士は、最後の力を振り絞って剣をランスロに向かって振るおうとした。自分の命を捨ててわざと大きな隙を作ることで、攻撃一辺倒になるようランスロを誘い、相打ちを狙った。


 ランスロも宝剣プライラスを構えて、暗黒騎士の剣戟に対応しようとしていた。


 グネビアは暗黒騎士の名前を想い出した。そして、気づかないうちにその場で立ち上がり、必死になって叫んだ。


()()()()()()()()()()()()()。」


 平民の少女とは思えない、王が号令するような強い声だった。


 アルトリウスは直感で、声の主に従わなければならないと思った。振るおうとした剣から手を離し、剣はその場に落ちた。そして、立ち上がっていた観覧席のグネビアを見た。



‥‥



 「アルトリウス」という名前を聞き、ランスロも鮮明に想い出した。


 ランスロは5歳で本格的に剣技の稽古を始めた。最初は騎士のマスターである父親から基本を習ったが、その後、真に実力があり気高き騎士の心をもつと言われたアルトリウスが家庭教師についた。


 家庭教師の初めの日にアルトリウスが言った。


「ランスロ、騎士に必要なものは、なんだと思いますか。」


「自分が一番強いという自信ではないですか。」


 それを聞いてアルトリウスは笑った。


「強くなるために、誰よりも精一杯努力することです。そして運良く世界で一番強い騎士になったら、その力を世界中の人々のために使うことです。そのように決意することが、騎士にとってなにより必要です。」


 ランスロは今でも、その言葉を強く覚えていた。ただ、アルトリウスがランスロの家庭教師だったのはわずか1週間だけだった。


 アルトリウスは急にランスロの前から姿を消し、父親に聞いても険しい顔をして答えてくれなかった。



 ‥‥



 試合会場でランスロが言った。


「アルトリウス先生。」


 グネビアを見ていたアルトリウスは振り返り、ランスロを見た。そして、2人の顔を見たアルトリウスは、人間だった時の記憶を取り戻した。暗黒騎士であるアルトリウスは魔界の力で、過去と未来の全てを理解した。


(グネビア王女、悲しくて辛い2度目の異なる10年を過ごされているのか。世界最強の騎士になるランスロが魔王軍を撃退した今度の未来で、その後も、お2人で幸せになられることを心よりお祈りしています。)


 魔界の力を得るために、代償として人間だった時の記憶を捨てた人間は、人間だった時の記憶を想い出すと消滅する呪いがかけられていた。アルトリウスは少しずつきれいな光りの点に変わり、そした消滅し始めた。


 その時、試合会場に駆け上がり、アルトリウスのそばに向かう3人がいた。


アルトリウスの妻子だった。数年ぶりに妻子と対面できたが、アルトリウスは妻子に笑いながら消えてしまった。




 御前試合の決勝は、どのような理由があったにせよ、ランスロの相手が試合に出なかったことで、ランスロの不戦勝となった。


 不戦勝が決定される前に、マギー王女が抗議した。


「『剣以外の物で戦うこと』がハンデであったはずです。今ランスロは宝剣プライラスを手に持っています。ハンデで戦ったとは言えないじゃないですか。ランスロの負けとすべきです。」


 それを聞いて王が言った。


「一瞬、集団幻覚を見たのかな。マギーよ、今ランスロが持っているものを見るがいい。」


「‥‥‥‥杖です。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ