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王女ではなくなりますが ‥‥‥   作者: ゆきちゃん
第2章 魔王との戦い
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4-2 魔蝶はささやく

 グネビアは母親の教えを守り、魔王軍の侵攻を防いだ後も、ランスロが生き続ける未来が訪れるよう毎日祈り続けた。


 そして、

 10年前に戻ってから、既に半分の5年が経過していた。


(18歳の心で、それより若い時を過ごすのは辛いけど、生きているランスロが馬上で、家の前を毎日通り挨拶してくれる。この幸せが永遠に続きますように。)


 森の中にグネビアのお気に入りの場所があった。木々に囲まれた空間の中に、1年中花々が咲いていた。今日もそこに座っていた。


(なんて素敵な場所かしら。ここに咲いている花々は、地味で自分のことを咲き誇らない。宮殿の庭園に咲いていた花々を美しいと思っていたけれど、ここの花々の方が数倍美しいわ。)


 グネビアは花々に見とれていたが、ふと我に返った。今日の朝、町の市場で聞いたことを想い出した。なぜかランスロに災いが降りかかるような気がして、不吉な予感がしていた。



「聞いたか、マギー王女様の発案で、剣技を競う御前試合が開催されるそうだ。なんでも、これから我が国を背負う15歳から18歳までの貴族の若者を対象に、一番強いのは誰かを決めるそうだ。」


「おい、公爵様の御子息のランスロ様は今何歳だ。」


「もう15歳になられているぞ。」


「マギー王女様は5年前の謁見から、ランスロ様が大嫌い。ことあるごとにランスロ様の悪口を言い続け、国王様が心配されているくらいだ。マギー王女様の発案ならばランスロ様は出たくないんじゃないかな。」


「だけど、公爵家は国の軍務を司るから出なくてもいいのかな。」


「ところがだよ。不思議なことにマギー王女様はランスロ様の出場を一番に願っているそうだ。なんでも、『ランスロが出なければ大会をやる意味がありません。』と国王様に言ったそうだ。」


 宮殿の庭園で、マギー王女は言葉を話す蝶と密談をしていた。普通に考えると、蝶が人と話し5年も生きていることは異常だが、彼女の唯一の相談相手になっておりそれが普通になっていた。


「王女様、御前試合には必ずランスロを出場させるのですよ。」


「ランスロが出なければ大会をやる意味がないとお父様には伝えてあるわ。これ以上、何が必要ですか。」


「どうしても出なければならない理由を作るのです。そこで考えました。今年、この国は天候不順で作物があまりとれていません。」


「そうですか。私は毎日、おいしいお食事を食べることができているので全く感じなかったわ。」


「御前試合で優勝した者への褒美として、優勝者の貴族の家から国王に治める税金を半分減らすのです。反対に、その他の家からは、もちろん試合に参加しない家からも、税金を1割増やすのです。」

「優勝者は1人だけで、それ以外は200人ぐらいになるから、当然国王に入ってくる税金は増えるのね。」


「貴族は自分の領民から作物を年貢として徴収し、それを売って貨幣にしています。国王に治める税金を1割増やすためには、領民からの年貢も1割増やさなければなりません。」


「それでは、臣民の怒りの矛先は、国王と御前試合を開催した私に向けられてしまうのではないですか。」


「そうならないように、ランスロが優勝して父親の公爵が税金を半分減らされたことを多いに宣伝して、苦しい生活の中で年貢を増やされた国中の怒りの矛先をそちらに向けてしまうのです。年齢に関係なく、ランスロは既にこの国最強の剣士ですから、必ず優勝するでしょう。」


「いやいやながら出場したランスロが優勝すれば、公爵家が国中の怨嗟のまとになるわけね。ただ、臣民を苦しめる増税は、臣民思いのお父様が決してお許しにならないわ。」


「王女様に私の力をお見せしましょう。国王様に謁見されて、御前試合の褒美について御進言ください。その場に私をお連れください。」


 そう言うと蝶は、マギー王女の髪飾りの中に隠れた。




 マギー王女が国王の前に出て、御前試合の褒美について進言すると、国王は臣民を大変苦しめることにすぐに気づき却下しようとした。


「今、国内は作物があまりとれず、飢饉が起きる恐れがある。それなのに国王が増税すれば、我が臣民を苦しめることになる。マギー、それはできないな。」


 その時、マギー王女の髪飾りの中から蝶が飛び出し羽ばたいた。その羽ばたきは人間の判断を支配し、正しくあるべきことを反対にさせてしまう魔の波動を起こした。


「今、私はおかしなことを言ってしまったな。マギー、とてもすばらしいことを提案してくれたな。御前試合の褒美はそのようにしよう。」


 蝶は魔王軍の参謀ラモンが放った幻惑の魔物だった。




 公爵の城で、ランスロが父親と話し合っていた。


 公爵が言った。


「国王様はいったいどうなされたのだろう。作物がとれず飢饉寸前で国中の臣民が苦しんでいるのに、貴族達から徴収する税金を増やし、領民からの年貢を上げさせようとするとは。」


 ランスロが心配した顔で言った。


「御前試合に私が出なければ、我が家の領民の年貢を上げざるを得ません。反対に、私が御前試合に出て優勝すれば、我が家の領民だけ年貢を大幅に減らすことになります。けれども、我が家のことだけを考えてはいけないと思います。いずれも国中の臣民が苦しみます。」


「そうだな。ランスロよ、御前試合への出場申込みの期限は明日だ。それまでに良い答えがせるかどうかわからないが、どうすればいいのか考えてみよう。」





 その夜、ランスロは城下を馬上で進みながら、人々を苦しめることになる御前試合について考えていた。いつもの習慣でグネビアの家の前を通りかかると、彼女が待っていた。


「レディ、こんな遅い時間になんでここに。」


「ランスロ様がお通りになるような気がして持っておりました。何か悩み事があるのでは。」


 それから、ランスロはグネビアに御前試合について話した。グネビアはランスロを見つめて真剣な顔で言った。


「私は困難に遭っても決して逃げださず、責任を全うするため自らの命を投げ出した方のことを心の底から尊敬しています。ランスロ様も同じことができると信じています。やり遂げてください。」

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 ランスロは、グネビアの美しい青い瞳を見つめ静かにうなずいた。



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