27 強い気持ちでローブを編む
ローブを編み始めるため、アラクネの蜘蛛の糸を十分に集める必要があった。ランスロの馬に相乗りして湖に行った夜、グネビアは魔女からもらった2つの鏡を持って森に行った。
その日はちょうど満月だった。花々の前で2つの鏡を置く最適な場所を捜しながら、グネビアは考えていた。
(魔女様が実はアラクネ様。鏡に反射された月の光に誘われて、天空から降りてくる蜘蛛は、アラクネ様から分離された蜘蛛の要素なんだ。)
ちょうどいい角度がわかったので、グネビアは月の光を反射させた。
すると、いつもの何倍もの多くの白い蜘蛛が天空から降りてきて、反射させて映し出された月の光道に銀の糸を吐いて多くの巣を作り始めた。
糸を巻いて集めると、必要な量を十分に満たしていた。
グネビアは思った。
(明日から、機織り機でローブを織り始めよう。)
次の日の朝、グネビアがとまどいながら機織り木に糸をセットしようとしていると、家のドアがノックされ、母親のエリザベスがドアを開けて客を迎えた。すぐに声がした。
「グネビア、あなたにお客様よ。ロッテさんという方よ。」
「ロッテさん。知り合いはいるけれど、人間ではないのだけれど。」
グネビアが家の入口までいって確認すると、そこには可愛い少女がにこにこしながら立っていた。少女が言った。
「グネビア様、お久しぶりです。」
直感的にグネビアにはわかった。
「ロッテ。ロッテなのね。だけど…。」
「精霊の姿ではありません。それには理由があります。」
その後、人間の姿のロッテは話し始めた。
永遠の荒れ地からグネビアが機織り機を持ち帰った後、精霊剣ロッテは返還され再び宮殿の武器庫に保管されていた。ある夜、精霊を呼ぶ声がした。
「精霊剣ロッテの精霊よ、私の前に姿を見せるがいい。アクシオ。アパレシウム。」
呪文で呼び出された精霊が武器庫に姿を見せると、そこには、どこからか入った魔法使いが宙に浮いていた。そして、その魔女が言った。
「私は魔女のアラクネという者さ。最初におまえさんにお礼をいわなくちゃね。あの娘が永遠の荒れ地にある私の昔の家に行き、機織り機を取ってくるために、あの娘を良く助けてくれたね。」
精霊は言った。
「あなたがアラクネ様ですか。永遠の荒れ地でグネビア様といっしょに、ゴブリンの長老から悲しい事件についてお聞きしました。私はグネビア様とずっと一緒にいたかったのですが、国の決まりでここに返されました。今日はいったいどのような御用件で、私を呼び出されたのですか。」
「もう1回、あの娘を助けてあげてほしいんだ。機織り機に私と動かした時と同じ動きをするよう魔法をかけたのだけれど、それだけではだめなことに気がついたのさ。娘が機織り機と意識を通わせながら、動かさなければいけないんんだ。」
魔女は続けた。
「良い織物は、人と機織り機が一体になって動いてできるものさ。あの娘は機織り機と話すことができない。だが、剣の精霊であるおまえさんなら、機織り機とあの娘との橋渡し役ができる。やってくれるかね。」
「はい、ぜひやりたいのですが。剣の精霊である私は、剣の近くから離れることができません。くやしいですが。
」
「そんなことは問題にならないよ。一時的におまえさんを人間にしてしまえばいいだけだ。明日の朝やるよ。」
朝になって、魔女は精霊を宮殿の上の空中で人間の少女にして、グネビアの家の前まで転移魔法で連れてきた。魔女は精霊に告げて去った。
「あの娘によろしく伝えておくれ。もう少しだから、がんばるようにと。」
グネビアが言った。
「ロッテが機織り機との橋渡しをしてくれるのね。頼んだわ。」
グネビアはロッテを、機織り機とアラクネの糸が置いてある部屋に連れていった。
「機織り機が言っていることがわかります。アラクネの糸の束ね方、糸のセットの仕方には十分に注意してほしいそうです。やって見てください。」
「そうではなく、このようにしてほしいそうです。」
その後も、ロッテが機織り機の意識を呼んで、具体的に示しながらグネビアに教えた。大変な手間がかかったが、数時間が経つとグネビアは機織り機を動かすことができるようになった。
少しずつ織り上がったローブを見ると、素人のグネビアが織ったとはとても思えないほど精巧で美しいものになって言った。
グネビアが言った。
「アラクネ様の織り方を再現するように動いて、機織り機が私をリードしてくれているわ。」
ロッテが言った。
「機織り機が言っています。グネビア様とアラクネ様は織物の技術では雲泥の差がありますが、愛する人の命を守りたい真剣な気持ちが織り込まれている点がとても似ているそうです。」
その後、グネビアはロッテに助けてもらいながら、だんだんスムーズにローブを編むことができるようになったが、完成するまでに6か月かかった。
最後の仕上げが完了した瞬間、グネビアが言った。
「ふう。やっと終わった。ロッテ、ありがとう。」
ロッテが驚いた口調で言った。
「グネビア様、織り上がったローブを見てください。」
もう既に夜になっていて明りをともしていないのにかかわらず、部屋の中は大変明るかった。
銀色のローブが月のように光っていた。それは、ランスロの命を絶対に守りたいグネビアの強い気持ちが織り込まれた不思議な力を秘めていた。
グネビアがローブを編んでいた6か月間、ランスロは国中を転戦していた。
きたるべき全軍侵攻に向けて、魔王ゲールが魔物を各地に出没させ、前哨戦で
ランスロの力を少しずつ削ごうとしていた。
今日は山岳地での戦いだったが、数日前に海岸地方から転戦してきたばかりだった。飛竜魔物がさまざまな方向から襲いかかってきたが、ランスロは兵士達と協力して撃退していた。
ランスロが兵士達に言った。
「みなさん、よく戦いました。飛竜魔物をほとんど倒すことができました。もうこの地域は安心です。王都イスタンに帰還しましょう。」
兵士達から歓声が上がった。行軍の最中、ある兵士がランスロに聞いた。
「騎士様はなんでそんなに強いのですか。今日の戦いでも、何匹もの飛竜魔物が騎士様に何回も突撃をかけたのに、剣で全て倒してしまいました。」
ランスロは答えた。
「私は決して強くありません。心の中では恐れの嵐が吹き荒れています。だけど、いつも、私のことを大切に思ってくれている方の気持ちを強く感じることができ、それが勇気の楯となって嵐を防いでくれます。」




