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王女ではなくなりますが ‥‥‥   作者: ゆきちゃん
第3章 あなたの命は必ず守る
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26 機織り機2

魔女はグネビアの前から姿を消そうとしたが、大事なことを忘れていたことに気がついた。


「そうそう大切なことを忘れてしまったよ。その機織り機は私のような名人には使いやすいけど、素人が普通に動かせるようになるまでにはかなりの時間が必要だよ。急いでローブを編み上げなければいけないんだろう。」


 グネビアが応えた。


「はい。できるだけ早く編み上げたいです。」


「それじゃ、おまえさんが私と同じように動かせるように魔法をかけておこうかね。」


 そう言うと魔女は機織り機に向けて杖を振り呪文を唱えた。


「いにしえに我がなんじを動かした時と同じように、グネビアの動きを助けて自ら動け、ジェミニオ。」


 その呪文に、機織り機は応えるようにカタカタと音を立てた。


「今、おまえさんのために、機織り機がうまく動くように呪文をかけた。ほんとうに申し訳ないけれど、代償をもらわなければならない。おまえさんが機織り機でローブを織っている間は、あの愛する騎士と会ってはいけないよ。顔を合わせてはいけないし、話してもいけない。もし、破った場合には機織り機は永遠に動かなくなるからね。」


「はい、大丈夫です。」


「ほんとうに強くなったね、おまえさんも、あの騎士との絆も。ははは…」


 魔女は姿を消した。





 翌日すぐに、グネビアはランスロに会いに公爵の城に行った。朝の鍛錬のために、ランスロが乗馬して出かける時間を知っていたので、その少し前に城の門の側で待っていた。


 時間どおりランスロが出て来て、すぐにグネビアに気づいた。


「レディ。無事にお帰りになったのですね!!!」


 ランスロは下馬してグネビアに近づいた。とてもあわてて馬から降りたので、落馬しそうになった。

「ランスロ様、あぶない。気をつけて。」


 照れ隠しと少し心配な顔をしてランスロが行った。


「レディ、永遠の荒れ地で、とてもとても大切なものは見つかりましたか。持ち帰ることはできましたか。」


 グネビアが満面の笑顔で応えた。


「はい。御心配をおかけしましたが、無事に持ち帰ることができました。」


「よかった!!!」


 ランスロは満面の笑顔で喜んだ後、おずおずとした顔で言った。


「レディをあんなに悩ませていたことが解決してうまくいったことのお祝いということで、今から景色の良い場所に御案内したいのですが………。」


「はい、喜んで。ただし、私は馬に乗れませんか。」


「問題ありません。私の馬に一緒に乗っていただけませんか。私の背中につかまればいいのです。」


「それならば、連れて行ってください。私は剣技を少し極めましたので、ランスロ様にしがみつく力は強いですよ。」


「そうでしたね。でも、安全のため少しスピードは落とします。」


 ランスロは初めににグネビアを馬に乗せると、続けて自分も馬にまたがった。2人にとっては最初の相乗りだった。


 ランスロは馬を走らせた。



 グネビアが言った。


「風が気持ちいいですね。」


 ランスロも言った。


「私も馬に乗ると、風を切って走ることが好きです。でも今から御紹介する場所に行くことの方がもっと好きです。」


「そうですか。楽しみですね。」



 ランスロは馬を止めた。そして、腰掛けるにはちょうどいい岩にグネビアを案内した。


「レディ。ここです。」


 目の前の風景を見て、グネビアは言葉をつまらせた。


「ここは、………」



 青色の湖面が見えた。そして湖からは、遠く離れた高い山脈が雪をかぶり真っ白で、この平野を取り囲んでいるのが見えた。



 ランスロが言った。


「ここに来て、青い湖面と遠くの山脈を見ると心が大変落ち着くのです。不思議なことに、とても幸せな気持ちになれるのです。そして前々からレディと一緒にこの景色を見たいと思っていました。…その御様子は、いらっしゃったことがあるのですか。」


 グネビアが答えた。


「いえ、初めて参りました。すばらしい景色ですね。」


(ランスロ、私と同じように時間を戻っても、あなたの心には強く残っているのね。)


 グネビアは続けた。


「ランスロ様にお伝えしなければないことがあります。私が永遠の荒れ地に行き、持ち帰ったとてもとても大切ものは機織り機です。そして、できるだけ早く、月の光が溶けこんだアラクネという蜘蛛の糸で、ローブを編み上げなければなりません。これから起きる戦いの時、ランスロ様をお守りするため、是非着ていただきたいのです。」


 ランスロは少し驚いたが、グネビアの気持ちをしっかりと受け取った。


「私のために、レディが大変なことをしていただいたとは、そして身を守るローブを編み上げていただくとは、心の底から感謝致します。」


 そう言ってから、ランスロはグネビアの前にひざまずいて頭を下げた。


「ランスロ様、平民の娘にそのようなことはお止めください。」


「レディ。不思議なことに私はレディのお心に触れると、自然にこのような姿勢をとってしまうのです。少しこのままで。」


 グネビアが言った。


「もう一つ、ランスロ様にお伝えしなければならないことがあります。ローブを編み上げる期間、私はランスロ様にお会いすることはできないのです。魔女様に、特別な魔法で機織り機をうまく動くようにしていただいた代償です。」


 ランスロが満面の笑顔で言った。


「はい。私のためにレディがローブを織っていただいているのですから、たとえ会えなくても、私は穏やかに毎日を過ごすことができるでしょう。」


 グネビアは冗談を言った。


「私に会えなくても、少しも心を乱さないとはがっかりしました。」


 ランスロがあわてて弁解した。


「申し訳ありません。レディに心置きなくローブを織っていただこうと思い嘘をつきました。心は乱れると思います。しかしがまんします。」


 グネビアが言った。


「ランスロ様が生まれた時、町ではお祭りがあったそうです。母親から教えてもらいました。ランスロ様と私は年が2つ違いですが、私と誕生日が同じだと思いますが、3月13日ですね。」


「そうです。」


「それでは、私に切なるお願いがあります。私が19歳、ランスロ様が21歳になる誕生日の日に、この湖にボートを浮かべて私のためのために漕いでいただけますか。」


「その日を待たなくても、もうすぐやってくるレディが17歳、私が19歳になる誕生日の日ではだめですか。」


「私が19歳、ランスロ様が21歳でなければだめなのです。」


「レディがそう望まれるのなら、そのようにします。」


 グネビアは心の中で思った。

(絶対にその日が迎えられるように、私は全力でがんばろう。)




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