22 精霊剣
城に帰って、ランスロは公爵に相談していた。騎士のマスターとして、数多くの若者に剣技を教えている父の意見を聞きたいと思ったからだ。
「父上、男性に比べて筋力が劣る女性が剣技を取得して、自分の身を守ることができるようになるのでしょうか。」
「そうだな。最も破壊力のあるロングソードは、剣自体にかなりの重さがあるから、女性が振り回すには不向きだと思う。一方、短剣のファルシオンだったら女性にも使えるかもしれない。」
「私が知っているある女性が、魔物も出ると噂される永遠の荒れ地に、できるだけ早く行って大切なものを取りに行かなければならないそうです。いったいどれくらいの期間があれば、護身のための十分な剣技を習得できるのでしょうか。」
「個人差があるかも知れないが、優れた騎士に教わったとしても、半年くらいは必要だな。」
「半年ですか。」
「ランスロ。もしかしてその女性とは、国王様の前で私達を弁明してくれたグネビアさん、あのお嬢さんなのか。」
「はい。」
「おまえが愛する人なのだな。」
「いいえ、ただの親しい知り合いです。」
ランスロは父親の目を見つめながら言った。その顔はとても赤らんでいた。公爵には全てわかった。
(子供のころからの癖だな。私にうそを悟られたくない時は、私の目を見つめて顔を極端に赤らめながら話す。愛しているのか。)
「私は国の軍務を司り、宮殿の武器庫にある剣のことは全て知っている。その剣の中には、精霊が宿る剣ロッテがある。短剣のファルシオンだから女性にも使いやすい。さらに、その精霊をしもべにすることができれば、その瞬間から神わざに等しい剣技を使うことが可能だと言われている。」
「精霊剣ロッテですか。」
「明日宮殿に行き、精霊剣をお貸しいただくよう国王様にお願いしよう。」
「父上、ありがとうございます。私も御一緒させてください。」
翌日、公爵とランスロは宮殿で国王と謁見していた。公爵が言った。
「国王様、本日はお願い事があり謁見させていただきました。」
「公爵から願い事とは、めずらしいな。申してみよ。」
「宮殿の武器庫にある精霊剣ロッテを、我が息子ランスロにしばらくの間、お貸しいただきたいのですが。」
「世界最強の騎士ランスロであれは、どの剣を貸しても構わないが、既に宝剣プライラスを身に帯びているランスロに、さらなる剣が必要か。」
ランスロが言った。
「正直に申し上げなければなりません。お貸しいただいた精霊剣ロッテを使わせていただくのは私ではありません。」
「では、誰が使うのだ。」
公爵が答えた。
「国王様に謁見したことがある我が領地の平民の娘でございます。」
国王が驚いて言った。
「エリザベスの娘のグネビアか。なんで精霊剣ロッテが必要なのか。あの娘が剣など。」
ランスロが答えた。
「詳細な理由はお聞きしていません。ただ、とてもとても大切なものを、ある場所に取りに行かなければならないそうです。」
「その場所はどこか。」
「永遠の荒れ地です。」
「永遠の荒れ地に行かなければならないのか。あそこには魔物が出るそうではないか。そうか、ランスロも一緒に行くのだな。念のための護身用に使おうとしているのか。」
ランスロが苦しそうな顔をして応えた。
「私は行けません。レディは1人で行かなければならないそうです。」
それを聞いた途端、周囲が大変驚くような強い口調で国王が言った。
「そのような危険な場所に、グネビアが1人で行くのは絶対にだめだ!!!」
公爵がなだめた。
「国王様。ですので精霊剣ロッテが必要なのです。精霊剣ロッテに宿る精霊をしもべにすることができれば、使い手は神わざに等しい剣技を使うことができるようになるのです。」
「神わざとはどれくらいか。」
公爵が答えた。
「伝説だと、ある国の王女が暗黒空間に重なっていた深い山に迷い込んでしまった時、襲ってきた魔物達を、精霊剣ロッテを使って退けたことがあるそうです。」
「そうであれば安心できるな。精霊剣ロッテを貸すことにしよう。グネビアが真剣に求めるものが永遠の荒れ地にあるのであれば、私も精一杯助力してあげたい。ただし条件がある。グネビアが精霊をしもべにすることができないのであれば、直ちに精霊剣ロッテを返却し、公爵の城に閉じ込めて永遠の荒れ地に行くことを諦めさせるのだ。」
「ありがとうございます。御意のままに。」
公爵とランスロは国王にお礼を言った。
国王は心の中で大変心配していた。
(精霊をしもべにすることができなくても、グネビアは永遠の荒れ地に行くことを絶対に諦めないだろうな。エリザベスの娘だから。)
国王は謁見の時、自分を見上げたグネビアの青く美しい瞳に映された、強い意思を想い出していた。
それから数日後、宮殿の武器庫から精霊剣ロッテがランスロに貸し出された。直ちにランスロは、グネビアに公爵の城へ来てもらい修練場に案内していた。
グネビアが真剣な眼差しをしてランスロに言った。
「ランスロ様。いよいよ今日から私に剣技を教えていただけるのですね。ただ、私は剣技がどんなに下手のままでも、ある方のためにとてもとても大切なものを取りに、永遠の荒れ地にできるだけ早く行くつもりです。」
自分のためだとは気づかないままランスロが言った。
「レディ。剣技を覚えていただく必要はなくなりました。この剣を見てください。」
ランスロはそう言うと、精霊剣ロッテをグネビアの前に置いた。
「この精霊剣ロッテに宿る精霊をしもべにすることができれば、神わざに等しい剣技を使うことができるようになります。」
「そんなにすごい剣なのですか。」
「ある国の王女が暗黒空間に重なっていた深い山に迷い込んでしまった時、襲ってきた魔物達を精霊剣ロッテを使って退けた伝説があるそうです。」
「そうですか、そんなにすごい王女様がいたのですか。」
「精霊を呼び出す呪文を宮廷魔術師から聞いてきました。この紙に書いてあります。精霊と対面なさって、しもべになることをお命じください。念のため、私はこの修練場の隅で待機しています。」
グネビアは少しほっとした表情になって言った。
「ランスロ様。いろいろありがとうございました。精霊にお願いして、なんとかしもべになってもらいます。」




