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王女ではなくなりますが ‥‥‥   作者: ゆきちゃん
第3章 あなたの命は必ず守る
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14 ローブを編む代償4

 ランスロが魔物の大軍を殲滅させ、さらに城を建設し町をヘクサグラムの結界で囲むことで、辺境デザートには平和が訪れ繁栄が約束された。


 新しい城の領主には別の騎士が任命され、ランスロは1年ぶりに王都イスタンに帰還した。


 その日の夜もグネビアはアラクネの糸を集めるために、森のお気に入りの場所に向かった。花々の前に人影が見えた時に、グネビアの心臓はどきどきして壊れそうになった。


(ランスロ、帰ってきたのね。)


 近づくと、ランスロがにっこりと笑って話し始めた。


「ここで待っていれば、レディに必ず会えると思いました。お約束したとおり、1年以内に帰ってくることができました。」


 グネビアはうれしさのあまり何から話そうと思ったが、ランスロの姿を見て気が付いた。


「砂まみれの甲冑を着込んで、宝剣プライラスを背負っている。ランスロ様、辺境デザートからいつお帰りにになられたのですか。」


「たった今です。最初にレディに会いたくて、父の城に帰る前にここで待っていました。」


 それを聞いてグネビアは心の底からうれしかった。


「この1年、遠く遠く離れていたとはいえ、ランスロ様の御活躍は全てこの地にも伝わってきました。」


 前々からグネビアには、ランスロ本人から是非聞きたいと思っていたことがあり、それが口に出た。


「ランスロ様、魔物の大軍に向かって宝剣プライスラスを振り下ろした時、『グロリーブルーアイ』と叫んで剣の最大の力を引き出したと聞いています。みんなが青竜の目のことだと言っていますが、ほんとうですか。」


 そのことを問われた時、ランスロは下を向いて数秒間無言だったが、やがて決心して顔を上げて言った。


「レディのこの世に2つとない美しい青い瞳を讃えました。それは自分を励まし、自分の勝利を確信できる言葉なんです。」


(やはりそうだったんだ。ほんとうにうれしい。)


 その夜は花々の前で、時間を忘れて2人はいろいろなことを話し込んだ。グネビアがアラクネの糸を集めなくてはいけないことに気づいた時には、もう朝日が照らし始め月はとっくに沈んでいた。




 ランスロが帰還して数日後、宮殿の謁見の間において、ランスロの名誉を讃える式が行われようとしていた。


 奏上役の家臣が大きな声で告げた。


「ランスロ様、ナイト・コマンダーがお戻りになられました。」


 絨毯の両側には多くの王族、貴族、家臣が控えていた。入口の扉が開けられた瞬間、謁見の間には割れんばかりの大きな歓声と拍手が沸いた。背筋が伸びた姿勢が良い姿で、ランスロは玉座に向かって一歩一歩進んでいた。


 そして、王の前でひざまづいた。


「ランスロ、ただいま帰還いたしました。王命により、辺境デザートの多くの臣民が安心して幸せに暮らせるよう力を尽くし、魔物を平らげ、騎士としての指命を果たすことができました。」


 王が言った。


「ランスロよ、まだ17歳になったばかりというのに見事な働きである。今回の功績を称えるため、騎士としての爵位を、ナイト・コマンダーから最高位ナイト・グランドクロスに昇格させるものとする。」


 大きな歓声と拍手が沸いた。国王がさらに続けた。


「今回のランスロの功績は、我が国歴史の中でも空前絶後のものである。最高位ナイト・グランドクロスへの昇格だけではとても見合うことができない。私は先に、繁栄が約束された辺境デザートの領主になることを示したが、残念なことにランスロに辞退されてしまった。そこで、別の栄誉を与えることで、功績に報いることとする。」


 国王の言葉を聞いて、謁見の間が静まりかった。その場にいた誰もが、国の英雄になった若者にどれだけすばらしい栄誉が与えられるのかと、大きな期待をもって次の言葉を待った。


「我が娘、王女マギーの許嫁としてランスロが20歳になったら結婚することとし、王族に迎える。ランスロよ、受けてくれるか。」


 謁見の間の雰囲気が凍り付いた。


 王女マギーがランスロを毛嫌いしていることは有名であり、辺境デザートに命を落としに行くと思われた騎士に、ランスロを推薦したのは王女だったからだった。


 最善列に控えていた父の公爵が発言した。


「国王様、大変な栄誉であると息子も私も思いますが、突然のお話でとまどっております。」

 国王が言った。


「王女マギーからランスロを許嫁にしてほしいという話を聞いた時、私も心底驚いた。これまでランスロの悪口をいろいろ言ってきたが、自分の考えが間違っていたことに気がついたそうだ。事前に根回しをせす、今日サプライズで発表したのも王女の考えだ。」


 そう言うと王座の隣に座っている王女マギーの方を見た。王女はぎこちない笑い顔で何回もうなづいていた。


 ランスロはひざまづいたまま顔を伏せて、一言も言葉を発しないでその場で固まっていた。父親の公爵は息子の気持ちを全て悟って、国王に願い出た。


「国王様、ランスロは辺境デザートから帰還したばかりです。心も体も大変消耗した状態で、今日の式に臨んでいます。我が家にとっても大変名誉あるお話ですが、後日公爵家として正式にお返事したいのですが。」


「そうか、当然、受けてくれると思っているが、返事を聞かせてもらう場を後日、大々的に設けるとするか。」


 その夜は、グネビアが鏡で月の光を反射させると、これまでで最も多い数の蜘蛛が天から降りてきて、多くの銀色の糸を集めることができた。


(こんなに多くのアラクネの糸がとれるなんて。)


 数日前にランスロと長い時間話して、気持ちを確かめ合うことができたことで安心していたが、心の片隅の不安をぬぐうことはできなかった。


 家に帰ると、いつもはもう寝ているはずの母親のエリザベスが起きて待っていた。


「グネビア、お帰りなさい。今日町で大変なことを聞いたわ。」


「母様、どういうこと。」


「国王様が、辺境デザートでのランスロ様の働きに対して、王女マギー様の許嫁になる栄誉を与えるそうよ。それを受けるかどうか公爵家はまだ返事をしていないそうだけど。」


「‥‥‥‥‥‥‥‥ 」


 グネビアは一瞬、手に持っていた籠の中にあるアラクネの糸を見た後、目の前が真っ暗になってしまい涙を必死にこらえ、何も言えなくなってしまった。

 


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