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王女ではなくなりますが ‥‥‥   作者: ゆきちゃん
第3章 あなたの命は必ず守る
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10 蜘蛛アラクネの糸

大魔法使いクレストの残留思念は言った。


「これからの未来に魔王軍の侵攻がある時、ランスロ様は世界最強の騎士であるとともに高潔な心をもっていますから、自分の命を捨てても、この国の臣民みんなの命を守ろうとするのは当然です。しかし、戦っている時に、ランスロ様のお体を守る物がないことが一番問題です。」


 グネビアがうなずいて言った。


「卑怯なゲールが魔王の剣を避難民に向けて何回も振るい、ランスロはその魔風を防ごうとして、隙を見せざるを得なかったのです。その時、魔法ゲールは確実に、深手の傷をランスロに何回も与えました。」


 2人の会話が続いた。


いにしえより、戦士の体を守ることができる物があります。盾もそうですが、もっと完全に守ることができます。それは、月の光が溶けた蜘蛛の糸で編んだローブです。」


「月の光が溶けた蜘蛛の糸はどこで手に入れることができるのでしょうか。」


「神との縁が強い『アラクネ』という蜘蛛がいます。『アラクネ』は満月の夜だけ、その光りを吸って糸を吐き巣を作ります。」


「『アラクネ』という蜘蛛はどこにいるのでしょうか。」


「どこにいるのか誰もわかりません。しかし、一人だけ、どうすれば『アラクネ』を捜すことができるのか、知っている魔女がいます。その魔女は、ここからはとても遠い場所にある地の果ての崖に住んでいます。」


「すぐにその魔女に会いに行きたいのですが、私は馬に乗れません。歩いて行ったら何日かかるのでしょう。」


「グネビア様、歩いて行って着ける所ではありません。私は空間を短縮する魔法を使えますので、その場所に直接通じる扉をお作りします。ただ、先にお伝えしておかなければならないことは、その魔女は偏屈でかなり性格が悪いことです。お気を悪くなされるかもしれませんがご辛抱を。」



 大魔法使いクレストの残留思念がその腕で大きな輪を描くと、そこには黄金に輝く扉が現われた。


「グネビア様、どうぞ。扉を開けると、そこは地の果ての崖のそばです。少し不気味な道が続いています。」


 グネビアは黄金の扉を開いた。すぐに波の音が聞こえ海のにおいがした。


 その道の両側が枯れ木ばかりで、その間を強い風が吹き抜けて、魔物の叫び声のような恐ろしい音が絶え間なく聞こえていた。けれど、自分の気持ちを強くもち、雰囲気に負けないで歩き始めた。


 だんだん海に近づくと岩だらけになり、断崖絶壁の近くに丸太で組んだ小屋が建っていた。入口にはどくろがかけられており、魔女のすみかであることが直ぐにわかった。


 最大の勇気を出して、グネビアはドアを開けて中に入った。水晶が机に置かれ、その前には魔女が座っていた。


 魔女が言った。


「ようやく来たかね。クレストが水晶に連絡してきたから、おまえさんの目的はもうわかっているよ。」


 グネビアが言った。

「はい、魔女様から『アラクネ』がいる場所がわかる方法を教えていただきたいのです。」


「おまえさんは『アラクネ』が吐いた月の光りが溶けた糸で、愛する人が戦う時、その体を守るローブを編みたいんだろう。」


「そうです。魔王の剣で切られても傷つけられない強いローブを、愛する人の身にまとってほしいのです。」


「止めときな。止めときな。ローブを編むためには、糸がほんの少ししかとれない『アラクネ』の巣を、何十年も捜す必要があるよ。きっと、戦いに間に合わないよ。」


「他の全てのことを捨てても、絶対に間に合わせます。」


「普通の方法では、巣を作る満月の夜に『アラクネ』がどこにいるのか、運が良くても、せいぜい1年に1回見つけることができるだけだ。ただし、私は特別な方法を知っているよ。それだと、毎日見つけられるさ。」


「特別な方法について、教えてください。」


 魔女は不気味に、にやりと笑い、ある物をグネビアに見せた。


「この鏡を使うのさ。この鏡で月の光りを反射させれば、満月の夜ではなくても、どこにいても『アラクネ』を呼び寄せることができるんだよ。おまえさんは絶対ほしいだろ。あげてもいいけどね。」 


 魔女はそこで意識的に話を切ったが、再び続けた。


「ただし、ただでという訳にはいかないよ。私になにか、この鏡に見合う価値のある物をいただかなくっちゃね。おまえさんがもっている最高の宝は何かね、今水晶に聞いてみるとするかね。」


 それから魔女は水晶に向かってなにか呪文をつぶやき、そこに写し出された映像を確認した。

「そうかい、わかったよ。おまえさんが助けようとしている愛する人とおまえさんとの間には、強く引きつけられる運命の糸があるんだね。ちょっと私にはうらやましいがね。それではこうしよう。おまえさんがローブを作るために『アラクネ』が吐いた月の光をとるたびに、それと同じ長さの運命の糸をいただこうかね。」


 グネビアの顔が不安で青ざめた。


「運命の糸を魔女様にとられるとどうなるのでしょうか。」


「おまえさんたちの運命の糸が、どれくらい長く巻かれ強く引きつけられている知らないが、私が完全にとってしまえば、おまえさんと愛する人は決して結ばれないだろうよ。」


 そう言って、魔女は強い声で続けた。


「せっかく、愛する人を守るローブを編み上げたとしても、その時には決して結ばれない人になってしまうかもしれないが、いいかね。」


 グネビアは一旦、目を伏せたが、再び魔女の方をしっかりとした視線で見つめた。青ざめた顔はそこになく、赤みをおびた決意を秘めた顔がそこにあった。グネビアは魔女の何倍も強い声で言った。


「心から愛するランスロが、魔王軍の侵攻を防いだ後も生き続けるのが、私の一番の望みです。代償を払います。!!」


 魔女はグネビアの決意を聞くと、感心したように言った。


「そう思うならそれでいい。この鏡を持っていくがいいよ。それから、その扉に空間を短縮する魔法をかけたから、扉を開けばおまえさんの家には直ぐに帰れるよ。」


 魔女から鏡を渡され扉を開く前に、グネビアは頭を下げて言った。

「魔女様、ほんとうにありがとうございました。」


 扉からグネビアが出て行った後、魔女は言った。

「いい娘だね。がんばりなよ。」


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