EP66
その後も食事中ずっと機嫌の良さそうな顔をした奈乃を見て不思議に思う。
人の身でさらに困窮に立たされている中生きるこの世に果たして生きる価値などあるのだろうか。
もし私なら耐えられない。きっと奥の厨房にある包丁を手に取り今すぐこの場でで自害してしまうはず。
「へぇ~そうなんだ、数多ちゃんは発明家なんだね!」
「あぁ、そうだとも!特に以前作り上げた巨大ロボットは、
そこに居る美香君含めた皆のピンチを救う程の傑作品だったんだ!・・・だったんだが、
その後すぐに身体がバラバラに崩壊してしまってね今じゃスクラップ。ゴミ同然さ」
あの時回転巡流の糸竜と戦った巨大ロボをその後見ることがなく、
気になってはいたがゴミになっていたのか。
数多のことだ、もうすでに他の発明品に再利用しているのだろうな。
残り少ないケーキを食べ終え木の実を頬張るリスの様にカフェオレの入ったコップを
両手で掴み傾けると奈乃はふと呟いた。
「私、最近になって悩むことが多かったんだ。
高校に通ってるよりももっと働く時間を増やした方がいいんじゃないのかなって、
でも今日すっごく楽しかったよ。ありがとう」
「・・・そう」
「困った事があればいつでも僕に頼ればいいさ、なんたって天才なんだから」
「ありがとう、数多ちゃん。あ、数多ちゃん口にケチャップ付いてるよ」
少し俯き気味だった奈乃が顔を上げた際に数多の口についていたナポリタンのケチャップに
気が付くと慣れた手つきで手拭きを使い数多本人の代わりにケチャップを拭い取る。
それが今さっき自分に頼れなんて言った奴に対してされる扱いなのか・・・。
そんなで数多もよくそんなことを言っておいて自分から口を預けられるな、甘えっぱなしではないか。
「俺からも礼を言わせてくれ」
声に反応し振り向くと後ろには店主がいつの間にか立って居た。
「奈乃がここに来てから親の居ない奈乃の一番近くに居る大人としてしっかり面倒を見てやろうと
頑張って来たつもりだ。だが、俺にも出来ない事ってのが当然ある。
その一つが今日の君たちの様な存在を与えてあげる事だ。
当然神様でもなければそんな存在を無から生み出す事なんて不可能だ。
一度、何とかしてやりたくて髭やすね毛を剃りウィッグと制服をネットで買って
それらを着た俺が別人と称して奈乃に近づいて友達になろうとしたんだが
俺を目にした通行人が不審者と勘違いして通報してしまって失敗に終わったんだ」
何が『不審者と勘違いして』だ。それは紛れもなく不審者だろ。
圭吾や奈乃で少し上がっていた私の人間への評価が目の前の変態女装野郎のせいで
更地に化したのだけど。
「けど、君たちのおかげでその願いが叶ったよ。ありがとう二人とも」
「・・・いえ」
涙ぐんで言う店主の姿を見て更地になったばかりの人間への評価を更に少し改める事にとなった。
ーーーーー
「普段はまだ仕事中だからなんだか落ち着かないよぉ」
「まぁまぁ、奈乃君。店主さんが気を使ってくれたのだからここは甘えようじゃあないか」
「それに奈乃先輩がいくら申し訳ないと思っていても、
店主さんに何かが還元されるわけじゃありませんからね」
「あれ、もしかして美香ちゃんって結構言うビシバシ系・・・?」
あの後、店主さんはせっかく仲良くなれたのだからこの後の時間は三人で遊んでくるといい。
だが収入が減るのは酷だから今日は特別に普段の勤務時間まで時給を発生させておいてやると言って、
申し訳ないと言う奈乃先輩を仕事から上がらせたのだ。
「でも本当に大丈夫かな、マスター・・・」
「店主さんも、あぁ言っていたんですからこれ以上気にしても無駄ですって」
「でもね、マスタービックリするくらい接客が苦手なの。
私が客として初めてあのお店に入った時なんて、
接客がおざなりすぎて他のお客さんとヒドイ言い争いをしてたんだよぉ」
「そ、そうだったんですか。それは確かに事情を知ると心配ですね。
でも、奈乃先輩よく初めて入った時にその現場を見てあのお店で働こうと思いましたね。
私なら二度とその店に足を運びませんよ」
「それがね。その時このまま行くと殴り合いになっちゃう!ってところまで発展してたから、
思わず私が止めに入ったの」
「へぇ~、奈乃君意外に勇気があるんだねぇ」
「えへへ、ありがとう。その時はマスターもお客さんも一時的に熱くなちゃってただけだったから、
私が間に入って二人を落ち着かせたらすぐに収まったの。
それで自分の用も済んだからお会計しようとしたらマスターが『・・・君に、話がある』なんて言って、
店の奥に来てくれって言うから最初は余計な事しちゃったのかな?お、怒られる!?って
怯えて付いて行ったの。そしたら『君が良ければ、ここで働かないか?』って誘ってもらえたの」
「でも、奈乃先輩からしたらあのお店で働くメリットなんてありますか?」
「さっきもマスター話しの流れで言ってけど、当時私まだ中学生だったんだ。
だから家に余裕が無くても当然働けなくて、マスターにもそれを理由で断ったんだけど。
マスターは『それなら尚の事ここで働いて行ってくれ』って引き止められて、
次の日から今日までお世話になってるの」
あの店主、女装COを聞いた時はろくでもないと思ったが彼女の顔を見るとどうやら
本当に恩人で感謝しているようだ。
「しっかし、その歳からアルバイトとは奈乃君はしっかり者だねぇ。
私も一度はどこかで接客の経験しておいた方が良いのかもねぇ」
「貴方が、接客ねぇ・・・」
私はそう呟いて少し黙って数多が働いている姿を想像してみる。
「・・・うん、ダメそうね。やめときなさい」
その言葉に数多は、やいのやいのと文句を言いながら両手両足を暴れさせる。
私はそれをスルーしつつも足を止めない。
奈乃先輩はそんな私たちを見て、ずっと楽しそうに笑っていた。




