EP64
「・・・よし、やっぱりナポリタンにするか」
食事メニューを見て悩んでいた数多が頼むメニューを決めれたみたいなので
私はページを捲る手を再開した。
次のページにはお待ちかねスイーツが並んでおり、
私は自分が座っている側の椅子を少しテーブルへと前に寄せた。
こちらもコーヒー、食事メニューと続いて手描きのイラストが用意されていた。
どれも美味しそうに表現されており特にパンケーキなんかは、
メープルシロップの照りの表現が堪らなく美味しそうだ。
少し視線を落とすとケーキも何種類か提供しているようでそれらに私は目を奪われた。
ふと、先日圭吾にケーキをご馳走されたことを思い出す。
あの時は、ザラによる襲撃でフルーツタルト最後まで楽しめず終わった。
何よりせっかく圭吾が厚意で買て来てくれた物だったのに無駄にしてしまい、
申し訳ない気持ちが心の中で残ってしまっていた。
(そうだわ。今度ここに圭吾を連れこようかしら。アイツ確かコーヒーが好きだったはず。
それにケーキもあるし、日頃のお礼や前回奢ってくれたお礼にピッタリな場所よね)
そうともなれば今日は下見の意味も込めてケーキを選ぶことにしよう。
(アイツ確かあの時、苺のショートケーキを食べてたわよね。
ということは苺のショートケーキが一番好きなのかしら?)
そいうことなら決めた。苺のショートケーキにしよう。
メニュー表にイラストが描かれていることを見る限りこのお店は苺のショートケーキを
推しているみたいだし、かなり期待が出来る。
「私は決まったわ。数多貴方は?」
「僕も、OKだ」
「そう。あの、すみませんー」
数多からの了承も得たので私はレジカウンター付近の席に座り休憩中の様子の
学生のアルバイト店員に向かって声を掛けた。
「あ、はーい!」とすぐに元気な声と共に駆け寄ると店員はペンとメモを取り出す。
「何になさりますか?」
「僕は、ナポリタンとメロンソーダで頼むよ」
意気揚々とメニューを読み上げた数多の声を聞くと、
先ほどまでハツラツだった店員の動きが止まりジッと数多を見つめている。
「ぼ、僕・・・?」
「何か僕の顔に付いているかい?」
「す、すいませんでした!お客様に対して失礼でしたよね・・・」
数多に視線を指摘された店員はすぐにお詫びを入れ綺麗なお辞儀を披露してみせた。
しっかりとしているな。恐らく、目の前に居る数多や圭吾よりも歳の割にしっかりしている様に見える。
「10歳の弟と背が同じくらいで、一人称が僕っだったのでびっくりしてしまって・・・。
抱っこしてもいいですか?」
先ほどまで申し訳無さMAXの表情をしていた店員の顔が一転し輝いた表情で数多に
詰め寄った。
「良いわけ無いだろう!き、君は僕を愛玩動物と同じ括りにしてしまっていないか?」
「店員さん、この子抱っこしてもいいですよ」
「おい!美香君?君は君で僕を散歩中の犬と勘違いしていないか?」
「飼い主さんにも許可が出たので失礼します!」
「ちょわーっ!?」
流石貧相な身体をしているだけあってか数多はそれこそ子犬を抱きかかえるみたいに
一般的な女子高校生の細い腕を持つアルバイ店員にすら簡単に持ち上げられそこから
しばらく数多は客の立場から一転し愛玩動物として店員に可愛がられ続けた。
散々数多を可愛いがった店員は静かに、ふと我に返ると再び数多に対し何度も頭を下げた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「君、本当に失礼じゃないか?」
流石の扱いに数多も先ほどまでとは違い不快感を顔に出して腕を組んでいた。
「本当ッに!ごめんなさい!
私、可愛いモノに目が無くて・・・。お客様をつい・・・」
「・・・全く。褒めておけば何でも許されるなんて世の中甘くなんてないんだからな。
まぁ、今回は水に流してあげなくもないが」
『褒めておけば』なんて言っておきながら数多は自分を『可愛い』と言われ、
気づいた時には顔も緩め組んでいた腕も解いていた。
(普段から言われ慣れていないのだろうな・・・)
そうだ、今度圭吾に数多へ『可愛い』と言うように仕向けてみよう。
きっと今よりも面白い数多の表情が見えれるはずだ。
「そういえばお二人共このお店の付近の学生さんですよね?
私、ここから少し離れた安住高校二年。青空奈乃って言います!」
「ご丁寧にどうも。僕は君と同じ二年生、数多唯だ」
「私は、境内美香。コイツの一個下よ」
「美香君。この世の自己紹介で目の前の人物が自分よりも目上である事の説明と、
その人物を『コイツ』と称す言葉が同じ文面に入る事なんて基本あり得ないぞ?」
「ふふっ。仲いいんですねお二人共、羨ましいです」
「貴方見ている限りじゃ対人に関する欠点なんて見当たらなそうだけど、友達居ないの?」
「み、美香君!言い方って物がもう少しあるだろうに・・・」
「あはは。でも、いいんです数多ちゃん」
「ふむ、そうかい?でも・・・ん?あ、数多ちゃん?」
数多ちゃん、傑作ね。今度から私もそう呼んでやろうかしら。
「美香ちゃんが言う通り、私が友達居ないの事実ですから・・・」
「み、美香ちゃん?」
「くッくく・・・『美香ちゃん』これは傑作だな。キシシ!」
「え、可愛くないですか?美香ちゃん」
「・・・好きに呼びなさい」
「やったー!」
まぁ、数多の事を笑った罰かしら・・・。神は平等、とはよく言ったものね。
「私いつも放課後はアルバイトが入ってるから友達と遊んだことが昔から無くって・・・」
「ふむ、それなら単純に入れる時間を減らせばいいのではないのかい?
所詮我々は学生の身、稼いでも然程使う機会が無いだろうに。
それとも見た目に反して実は結構ブランド品につぎ込んで手が回らないのかい?」
確かに、それなら驚くかもしれない。
実際目の前に立つ彼女は髪型、髪色から靴先までかなり控えめな印象を持っている。
「お恥ずかしい話ながら、家が貧乏でして。
今はもう両親二人共居ないから私が弟の為にも稼がなくちゃいけないの。
だから空いてる時間は勉強とアルバイトをしなくちゃ」
「なるほどね」
数多が事情も知らずに勝手な妄想で適当な事を言ったのを公開したのか黙ってしまい、
途端にヘンな空気が満ち始めたので柄にもなくこの話題に前のめりに相づちを打つ。
「あはは、恥ずかしい・・・。ごめんね、急にこんな暗めな話題出してしまって。
そうだ、美香ちゃんはメニューどうしますか?」
「・・・恥じることは無いわ」
「え?」
「人間にしてはよくやってる方よ、貴方は」
私は誤魔化す気のない言い方で奈乃へと告げた。
奈乃は私のおかしな口調なんて一切気にも留めず「ありがとう、美香ちゃん!」と言った。
先ほどの自分の言葉を否定する。『神は平等』なんて大嘘だ。
こんな素晴らしい人間が苦しんで、他のおぞましい人間が生を謳歌しているなんて・・・。
神は不平等だ。
「あ、そうそう!
ごめんね、メニューを取るのが遅くなちゃって。美香ちゃんどれにする?」
「そうね・・・。
それじゃあ私はこのオススメのアイスコーヒーをブラックで、それと苺のショートケーキを頼むわ。
あと、貴方・・・奈乃先輩はその、苦いのは苦手だったりするかしら?」
「苦いの?ブラックコーヒーとかかな?
うん、実はカフェオレくらい甘いのじゃないと飲めなくて・・・。でも、なんで?」
「それじゃ、アイスカフェオレと苺のショートケーキをもう一つ追加で」




