EP63
放課後の教室。やる気の感じられない一部の部活動が既に活動を終了させ帰宅した今の時間。
残っている生徒は全国を目指せるレベルの運動部か、
遅い時間にも生徒たちの為に解放されている図書室に残り。
学生の本分である学習に勤勉にも励む生徒くらいでほとんどの生徒は既に帰宅を済ましている。
そんな校舎内の教室の一つで私は机に突っ伏していた。
先日、敵対する天使によって割かれた腹の傷のせいでここ数日は何の気力も湧かずにいた。
そのせいかしばらくは趣味のスイーツ巡りも行っておらずSNS投稿の方も止まりご無沙汰だ。
とはいえ、天使。腹を割かれたが日常生活に大きな支障は今のところ無い。
むしろ割かれた箇所が腹で良かったまである。
箇所が腹ではなく後ろから背中と共に翼なんかを斬られていたら今頃、
不便極まりなかっただろう。それこそあの日の帰宅も遅れたはずだ。
だが、まぁ私は天使であってゼウス様の意向を尊重し責務を与えられた立場。
戦いなんて対悪魔との戦いで慣れこっだ。
(それよりも・・・)
悲惨なのは、星野圭吾。
彼は幸運にも人間の存在で天使と悪魔、両者の命運を握る運命に立たされ。
不幸にもその結果争いに巻き込まれた。
それにザラとの戦いや全くの別件で狙われ対峙した回転巡流との戦いで
圭吾にはかなり危険な目に合わせてしまっている。
本当だったら、私やアイツが守り切ってあげるべきなのだが。
(圭吾も人間だ。きっとこれまでの戦いで心身共に癒え切れない傷を負ってしまっているはず)
そう思うと、申し訳ないし情けない。
今度、最近まで行きつけだったお気に入りの豪華なパフェを出している店にでもお詫びや例と称して
連れまわしてやろうか。
そんなことを考えていると何者かに頭を小突かれた。
この教室には私しか居ないし運動部の他のクラスメイトや自習に励んでいるクラスメイトも
この教室に一度戻る理由が無いはずだ。
忘れ物があったとしても意味も無く私の頭を小突くことも無いはずだし。
頭を上げて見てみると私の学習机の上に小さなゴーレムが立って居た。
私はそのゴーレムにではなくゴーレムの生みの親に対してイラっとすると、
教室の後ろに位置する扉に向かって腹部の傷口があくびの如く大きく開く勢いで投げつけた。
「痛っいねぇ!?」
この小さなゴーレムの持ち主件生みの親である数多唯は、
小さく悲壮な身体を隠す様に上から身に着けた白衣を大きくなびかせ後頭部から「どっしーん!」
なんて効果音と共に、
最後にワックスをかけてから幾分と経っている事が見て取れる少し埃の拭き切れていない床に倒れた。
倒れ込んだ矢先にまるで瀕死の虫の様に手足をバタつかせ「なんてことをすんだー」と
暴れていた。全くこれが自称天才だと言うのだから笑わせる。
ただおかげで退屈とオサラバする気になれた。
「それよりも数多、貴方この後も暇?」
「暇だがその『この後”も”』なんて、
まるで今日の今まで暇だった様な棘のある言い方は止めてくれないか。まったく」
私は自分の体温で熱のこもった学習机と椅子から腰を上げ数時間振りに立ち上がると、
数多を連れ街へと向かった。
ーーーーー
久しぶりの趣味のスイーツ巡りに選んだのは普段の煌びやかな外装をしたお店とは少し違う、
路地裏に店を構える昔ながらの喫茶店だった。
扉を開けると出迎えの音が聞こえた「カランコロン」という音が心地良い。
女性店員に「お好きな席にどうぞ」と案内されると、
数多が店の奥に位置する席を進んで選んだ。
にしても、昔ながらのお店の雰囲気とは違い女性店員さんは若く、
エプロンの下には普段見慣れない学生服が見える。少し離れた学校に通う学生のアルバイトのようだ。
白衣を脱ぎたたみ、年季の入ったソーファーに自身の尻と共に置くと。
数多は我先にとメニューを取り何を食べるかを選び始めた。
「と、とと。すまない、これじゃあ美香君が見れないね」
気を使ってか数多両手に抱え文庫本を読むように見ていたメニュー表を
私にも見やすいようにテーブル上に広げた。
「気が利くのね」
「天才だからね」
関係あるか?とも思ったが指摘する気も起きないので聞かなかったフリをし、
私は数多の発した言葉をコーヒー豆の匂いが充満する店内の空気へと流した。
これが初めて言うなら私も「関係ないじゃない」なんて相手をしてやることもないが、
数多がこれを言うのは初めてではなく最近では一発屋のお笑い芸人の様にチャンスがあれば
ここぞとばかりに言って来る為、最近はもう反応をしないようにしている。
私からの反応がなく少し寂しそうな数多からメニュー表に視線を落とす。
喫茶店だけあってかやはりコーヒーにこだわっているらしく、
メニュー表には可愛らしい絵柄で描かれた手描きのコーヒーのイラストと
『オススメ!』の文字があった。
ページを捲ると食事メニューが出てきた。
私は甘い物を目的として来たので今回はパスするが美味しそうな
ナポリタンやオムライス、ピザトーストにピラフと言った豊富な食事メニューが記されてる。
因みにこちらの食事メニューにも可愛らしい手描きイラストが用意されていて恐らく
先ほどのコーヒーと同一人物が描いたモノだろうと温かみのある絵柄から伺える。
ページを捲ろうと思ったが数多が「な、ナポリタンか・・・」と呟いていたので、
私はページを捲れないしばらくの間幸せそうに苦悩する数多表情を見ながら、
さっきの若いアルバイト店員に配膳してもらった水を飲み暇を潰した。




