EP62
自宅へと戻ると中には「地獄帰り」からサタンが帰ってきていた。
サタンはザラから襲われたドタバタしていたときに床へと落下した俺とミカエルの食べかけを
四つん這いになり美味しそうに貪っていた。
「お!お帰りケイゴ!!!」
床と自分の口の周りに着いたクリームやチョコレートを綺麗に舐めとりピカピカにすると。
その自身の下で磨かれた、床に負けないくらいの明るい笑顔で死戦から戻って来た俺達二人を
迎え入れた。
「と、ミカエル」
「何、おまけ扱いしてくれちゃってるの貴方。
貴方がしっかり圭吾を見てあげていないから大変な目に会ってたのよ?」
ミカエルは血で濡れた手をサタンの目の前に突き出しその悲惨さをアピールして見せた。
サタンはその血がべったりと付いた手ミカエルの手をしばらく見つめて黙っていると何を思ったのか
突然舌を突き出し舐めた。
「ちょっ、貴方いきなり何をして!?」
「おぇ・・・。オマエこれ、苺ペーストじゃなくて血じゃねえかよ!」
「そりゃそうよ。さっきまで敵対する天使と戦ってきたんだから!
というか、一体この世のどこに苺ペーストを手にべっとりと付着させた状態で外から戻ってくるのよ!」
その言い方だと血で手をべったりと濡らした状態はまぁまぁあり得なくはないみたいにも取られないか?
「確かに、血ならともかく苺ペーストはあり得ないか!」
え、待て。もしかして、悪魔と天使の世界では普通にあり得ることなのか・・・?
どんだけ物騒な世界なんだよ、そちらさんは。
一先ずは、俺とミカエルは手に着いた血を綺麗に落としサタンには割れたままの窓をガムテープや
段ボールで補給してもらうことにした。
ミカエルに至っては腹部に大きな傷を負っていた為サタンに治療をしてもらったらいいのではないかと
言ったのだが。
「悪魔に癒してもらうモノなんて何一つ無い」と言いながら窓の補強に使用したガムテープで
傷を負った腹部をグルグル巻きにしていた。
医療が発達し身近に医療を感じられるこのご時世に根性でどうにかしすぎだろ。
ーーーーー
ザラとので身体中のあちこちに土埃が付着し室内を汚すのが嫌だったので、
帰宅したばかりだと言うサタンには申し訳なかったが先にシャワーを浴びさせてもらうことにした。
吹き飛ばされたり強い衝撃を受け服を脱ぎ脱衣所の前で裸になると結構な数の傷口が出来ていた。
(自分の身体に申し訳無さを覚えるくらいには痛めつけてしまったな・・・)
俺はなるべく傷口の箇所を刺激物で刺激しないように普段よりも丁寧に身体を洗浄すると、
優しくタオルで拭き上げ脱衣所内で衣服を着終える。
実家に住んで居た頃なら何も気にせずパンツ一丁でリビングに戻り、
テレビを見ながら髪を拭き上げていたんだけど。
サタンと一緒に住むようになってからはそんなだらしない姿を見せるわけにもいかず、
脱衣所内で全てを完結させる様に癖付けた。
リビングに戻るとテレビで可愛らしい動物番組を観ているミカエルにサタンがひたすら一方的に
話しかけている構図が繰り広げられていた。
因みにミカエルは俺がその光景を見てから一度もサタンの事を気に掛けていない様子だった。
「終わったぞ、サタン。先に風呂貰っちゃって悪かったな」
「気にしなくていいぞ、それよりオレも汗かいちゃって気になるからとっとと入って来る」
そう言うと俺やミカエルの目を気にせずリビングから服を脱ぎながら脱衣所へ歩いて行った。
先ほどまでサタンを見ないようにしていたミカエルも流石に突然服を脱いだサタンには
ビックリしたようで唖然とした表情をして目で追っていた。
「本当にアイツには恥じることが無いのかしら」
「まぁ、少なくとも落ちたケーキを犬食いする奴だから無いんだろうな」
「貴方もあんな奴と一緒に暮らしていて本当に大変ね」
俺は、なんとも答えずらいミカエルの言葉に「ははは・・・」と渇いた笑いで返す。
「・・・ところで、さ」
いつも通りのサタンに呆れていたミカエルが、
少し黙った後にテレビの音量を下げながら小さな声でそう呟いた。
普段、家のテレビの音量は22~25の間に設定しているのだが。
今テレビの画面に映し出されている音量設定には7の数字が表記されていた。
「ザラと戦っている時に言ってたただのカッコつけの為だけに命を張ってるって話があったじゃない。
あれって理由とかあるの?」
まさか触れられると思わなかったことを掘り返され思わず口ごもる。
「え、えっと。何でそんなこと聞くんだ?」
「だってただカッコつけたいんじゃなくて多分、そういう思想になった理由があるハズでしょ?
人外相手にあそこまで命を懸けて戦える理由。それが何なんだろうなーって気になったの」
「別に話してもいいけど、先に言っておく。
面白くないからそれを聞いてコケにして笑いたいならオススメはしないぞ」
「嫌なこと言うわね・・・。そんなことしないから良ければ教えてくれない?」
「昔によく面倒見てもらった親戚のカッコイイおじさんが居たんだけどさ。
そのおじさんある日車に引かれそうな小さい女の子を助ける為に
無茶して道路に飛び込んで重傷を負ったんだ。
端折ると、結局おじさんは死んじゃったんだけど死ぬ間際にお見舞いに来ていた俺に
『あのままだとあの子は轢かれていた。
それを見届けて生きていくよりも俺は、俺を看取る死神が惚れちゃう様な死に方を選びたかった』
そう言ってすぐに息を引き取ったんだ。それが時期も良くなかったのかな、やけに格好よくて。
だから俺も例え死んでしまうかもしれなくても、いや、むしろ。
死んでしまうかもしれない状況だからこそカッコつけて死ぬその時まで生きていきたいんだ」
俺が言い終えるとミカエルは一言、「人間。それも性別が男になるとこうも理解しがたいのね」と。
笑いながら呆れていた。




