EP60
「ふざけた事抜かしてんじゃないわよ・・・!」
大きな傷口を作った腹部を抑えながら立ち上がったミカエルは怒り心頭といった様子だった。
ザラの見ている景色や、態度もだが。
なにより『神に祝福されている』や自分が正しいという発言、
現在進行で対峙している俺たちが間違っているという主張周りに対して
ミカエルは特に激怒しているようだ。
腹部を抑えていた手を退け短剣を持つ。
防御の体勢から攻撃へと転じたミカエルは痛みに感覚を侵されながらも慣れて手つきで
ザラへと向かって短剣を飛ばした。
そんな中ミカエルは気が付いていないようだが俺には見えていた。
森の奥から作業服とヘルメットをた着用した林業関係者であろう見られる一人の男性が、
俺達を不審に思ったのかこちらへ向かって来ていた。
ザラは足元に転がっていた石ころの中から無差別に一つを手に取ると、
適当に向かって来ている短剣に向かって迎撃する形で投げつけた。
幸運にもザラが投げた石ころは短剣へと当たると
短剣は方向を変えこちらへと近づいてきていた男性に向かい始めた。
今になって気が付いたミカエルは「待って、止まってッ!」と叫ぶが短剣は構わず宙を飛び
男性の喉元へと突き刺さった。
一連の流れを他人事のように見ていたザラは口笛を「ひゅ~♪」と鳴らし、「ナイスヒット」と一言。
「ね、言ったでしょう?私の幸運により不幸にも無関係のこの人間は、私の盾となったのです。
貴方がたがお二人がどんなに足掻こうが私の幸運の前には無力なんです」
まだ勝負は決着いないのに勝ち誇った顔をし俺たちへ語り掛けるザラに、
ミカエルだけではなく俺も無性に腹が立ち油断しているであろうザラへと向かい
絶賛無駄だと言われている足掻きをしてみせる。
身体を大きく撓らせザラの顔面へと目標を置き勢いよく弾丸の如く拳を突き出す。
俺が向ている限りではやはりザラは避けようとしない。
普通ならこのままザラが吹っ飛ぶはずなのだが、
次の瞬間俺の目の前には突如姿を現した猪が猪突猛進という言葉のまま物凄い勢いで向かって来て
俺の身体は宙を浮いていた。
体感で15秒程、世界が物凄くゆっくり流れ森林の中で見上げる青空はなんて綺麗なんだろうと
考えていると身体が変な体制で地面へと着地し衝撃が全身を駆け巡った。
「ぃってぇ!!!」
相当辺り所が悪かったらしく我慢しようがない痛みに俺は恥も外聞なしに
痛みを少しでも発散させようと転がり回りながら大声で叫んだ。
そんな転がる俺を見下ろす形でザラは口元を上品に手元で隠しながら侮蔑している。
「だから言っているでしょうに、性懲りもない方ですね。
幸運にも神に祝福された私の前では無駄なんですよ、努力何て物は」
本当にそうなのだろうか?目の前に居るコイツの言う通り俺達はコイツに勝つすべがないのだろうか?
そんなはずはない。今まで、「もし神様が居たら~」なんて妄想にふけることが幾度もあったが。
神様を目の前で肉眼を通して見て存在を確認できた今なら言える。
「神様がそんなつまらないチートキャラを生み出すわけない」と。
それと同時に俺は頭の中で引っかかっていたザラの言葉を思い出す。
『私の幸運により不幸にも無関係のこの人間は、私の盾となったのです』
この言葉通りなら、確証はないがもしかしたらザラに対して攻撃を通せるかもしれない。』
(やけっぱちの賭けだけど・・・これしかない)
俺は覚悟を決め未だ痛みが全身を駆け巡る身体をよろよろとさせながら立ち上がる。
「・・・言っているはずです。私の幸運の前では人間如きの努力なんて無駄だと。
分かっているのでしょう?貴方も。それなのに何故、人間如きの貴方は立ち上がるのですか?」
俺の家にザラが来る直前にミカエルにも同じようなことを聞かれたことを思い出す。
あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、死の淵に立って居る今なら少し口ごもるかもしれない。
けど、言える。
サタンに初めて会い殺されかけた時から今の今まで変わってない。
「・・・ただのカッコつけだよ」
「ふむ?信じられませんね。たかがそんな事で命を懸けるのですか?」
「俺だって、お盛んな男子高校生なんだ。
いつも傍にいる美少女たちに良いトコ見せる為に見栄を張れる為なら命だって懸けるさ」
俺が顔を真っ赤にさせ言い切った直後「バカな奴・・・」と後ろでミカエルが呟いた声が聞こえた。
「異性に対してのその感情は、性欲から来るモノ。
そんな性欲なんかで脅威に立ち向かえるハズがない。到底打ち勝つことも」
「なら、覚えとけ。今からお前はそんな男子高校生の性欲なんかに負けるんだよ」
先ほどまでずっと涼しい顔をしていたザラが初めて表情を歪ませた。
「汚らわしい性欲に、この私が?」
相当不快だったようで声が震えているだがそれでも動こうとしない。
俺は足元に転がっていた、ミカエルの短剣を一本手に取るとそれを手に構え走り出す。
殺傷能力のある刃物を持っているというのにザラはそれでも動かない。
それが自信か、意地かは俺には読み取れなかった。
確証もないまま俺は目標へ向かって勢いよくナイフを突き刺した。




