EP57
買ってきてケーキの種類は三つ。
一つは無難なショートケーキ、客人にケーキを出す場合必ずと言っていい程、
一つは考慮に入るであろう無難な選択だ。
人生でショートケーキが嫌いだなんて言う人間なんて一度もあったことが無いからな。
次はチョコケーキ。生クリームは一切使われてなく。
たまに居る牛乳等の味が苦手な人間に配慮してよくこういう場で選んで入れている。
最後にフルーツタルト。
タルト生地の上に生クリームとフルーツたっぷりな見ても食べても楽しめる一品だ。
因みに俺は客をもてなす際にケーキを選ぶとき必ずと言っていい程チーズケーキは外す。
別に俺自身はチーズケーキが大好きなのだが、先述の生クリーム以上にチーズは苦手な人が多く
ヘタすれば場に数人チーズが苦手な人間が集まり一人は人数的に
チーズケーキ選ばなきゃいけなくなってしまうなんてことも出てくるので、
こういう場ではそもそもの選択肢から外すようにしている。
「掃除のお礼も兼ねてるからミカエルが好きなモノ選んでくれ」
「ホント?貴方、ご機嫌取りが上手なのね」
「・・・バレてたか」
「当然よ。それじゃあフルーツタルトを頂こうかしら」
「お、ビンゴー」
「ビンゴ?」
「あぁ、以前からお前のスイーツ巡りに付き合ってるとフルーツが沢山乗っているようなモノとか、
生クリームが沢山使われてるモノをよく選ぶなって思ってたから。
今回もそのフルーツタルト気に入ってくれるだろうなと思って」
ミカエルは見ている限り嫌いな物はあまり無さそうだったから、
きっと何選んでも美味しく食べてくれるはずだが。
せっかく選択肢の中に大正解があるならそれをあげたかった。そして結果は正解だった模様。
「・・・ふぅん」
「あれ?あんまり嬉しそうじゃない?」
ミカエルのスカした表情に不安になってしまう。
「いえ、そうじゃなくて。意外に貴方私の事見てるのね、
てっきりサタンばかりと思って。それに貴方に対してあんまり気が使える印象が無かったから、
意外と思ったの。まぁ、ありがとう。」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「・・・次、そんな俗世な呼称で私の事を呼んだら二度と助けないわよ?」
「す、すんませんでした」
「分かればいいの、素直な人間は好きよ私」
「ミカエルさんは常にツンツンで凛々しい素敵な方ですデレなんてしないのでツンデレは不適切でした」
「あ、あのね?私はツンデレ呼びを止めろって言ってるんじゃなくてね。
そのタイプの呼称自体を止めろと言ってるのよ」
「スマン、スマン。たちの悪い冗談だよ。そういえば気が使えるで思ったんだけど」
「ん、何よ?」
俺の言葉にミカエルはフォークにカットされたキウイフルーツを刺したまま、食す手を止めた。
「サタンはいっつも何かと俺の前に現れるとき窓ガラスを割って入ってくるからさ。
今回お前が家に来た時まさか丁寧にインターホンまで鳴らしてくれたのが驚いて」
「ちょ、貴方。私をあんな奴と同じ土俵に立たせて比べないでくれない?」
「い、いやでも。やっぱり俺の中では悪魔や天使って、
窓ガラスを割って豪快に侵入してくるモノだと思ってたからさ」
「あー、でも確かに。学校で貴方を呼び出した時もそういえば割ってたわねアイツ」
先ほどまでフルーツタルトを食べてご機嫌よさげだったミカエルの表情が
サタンの過去の荒事を思い出し明らかに嫌そうな顔を浮かべていた。
やっぱり、悪魔のサタンと天使のミカエルには種族に限らない深い溝があるみたいだ。
「はぁ、貴方のせいでせっかくこの場に居ないのに嫌な事思い出しちゃったわ。
お詫びに貴方のそのショートケーキに乗っている苺を寄こしなさい。
どうせ私のご機嫌取りの為に買ったんだからいいでしょう?」
「はいはい、どうぞ」
「そうそう、従順で素敵よ。あーあー、貴方が悪魔のなんかの力を持ってなければ。
私の強力な力を少し譲渡してあげて高校三年間が終わる間ずっと護ってあげたのに」
俺から半ば略奪する形で苺を取って頬張りご機嫌なミカエルはそんなことを零した。
「え、俺ってもしかしてそんなにミカエルに嫌われてないのか」
「えぇ、むしろ人間の中では気に入ってる方よ。
元がただの人間なのに勇敢にも敵に立ち向かってみせる心意気は結構気に入ってるわ。
にしても、よく人外相手にビビらず行けるわね。なにか、こう・・・理由とかはあるの?」
相当気になるようで普段礼儀の良いミカエルが訪ねたすぎてか、
俺に尋ねると同時に「ビシッ!」とフォークを向けた。
(理由かぁ・・・)
まぁ、一つ明確な理由があるんだけど。ちょっと恥ずかしいんだよな。
「何?もしかしてやましい理由があって言いづらいとか?」
「やましい理由はないけど、言いづらくはあるかな」
「気になること言ってくれるじゃない、ますます聞きたいわ」
「・・・笑わないでくれるか?」
「勿論」
俺の少し真剣な口調に普段の凛々しい顔に戻るミカエル。
(信用しても良さそう、だな)
「それは・・・」
俺がミカエルに少し恥ずかしい理由を打ち明けようとした時。
「・・・ガチャ」
玄関のドアノブが回る音がした。
思わず、照れて合わせていなかった目をミカエルと見合わせる。
「ねぇ、貴方玄関のドアしっかり施錠した?」
その言葉に俺が先ほどケーキ屋から帰ってきた時を思い出す。
「・・・閉めてないわ。というか普段から」
「貴方どこまでだらしないのよ!
アイツと契約しちゃったせいで悪魔みたいに堕落しきっちゃてるんじゃないの!?」
現在進行形で向かって来ている何者よりも先に目の前の味方に殺されるじゃないのかと思える程の
力で俺はミカエルに胸元を掴まれどやされた。




