EP55
(暇だなぁ・・・)
先日の心のご両親が保有するプライベートビーチから数日経ったある日。
俺はクラーケンこと巨大イカとの戦いの後に過ごしていた夏休みの刺激の無さに少々飽きを感じてきており
夏休み半ばで既に怠惰な日々を過ごし始めていた。
同居人のサタンが居ればこんな事にもならなかっただろうに、アイツは
「スマン、夏恒例の地獄帰りに行くからオレはしばらくこっちを離れるぞ」と、
地獄帰りとか言う悪魔特有であろう謎の行事の説明も無しに家を出て行ってしまった。
悪魔には「地獄帰り」があるなら、天使のミカエルにもあるのだろうかそういう帰省イベントが。
そう思い俺は布団に寝転がったままミカエルにアプリからチャットを送った。
『なぁ、天使にもあるのか?地獄帰りみたいなの』
『地獄帰りってなに?』
あ、人間の俺だけがご存知じゃないワケじゃなくて。天使も知らないイベントなんだなコレ。
『分かんない。けど、サタンがそう言って家出て行ったから多分帰省的なやつ』
『待って、今アイツ貴方の傍に居ないの?』
『そうだけど』
(・・・既読が付いて以降返信が来ないな)
先ほどまで比較的すぐに来ていた返信がそのやり取りを最後に途絶えてしまった。
既読は確認できるので気づいていないワケではなさそうだ。
何かあったのだろうかと少し心配していると、
インターホンがミカエルの返信が途絶えてから1分程経った頃に鳴った。
今の時間は14:00頃、夏休み期間なので不規則な生活を送っており
今日も14時を回る前頃のついさっき起きたばかりでまだ布団から一度も出ていなかった俺は
ぼさぼさの髪でムクんだ顔のまま玄関を出た。
「はーい、どなた様でしょうか・・」
玄関を開けると寝起きの俺よりもぼさぼさなヒドイ髪をし「ゼーハーゼーハー」と
呼吸を乱したミカエルが膝に手を当てギリギリの状態で立っていた。
「どうしたんだよ、急に家まで来て」
「貴方ね、何度も言うけれど自分が今重要な存在なことを理解しなさい。
貴方は天使と悪魔、両者の平和の為重要な役割をゼウス様に与えられた者でしょう?
それに何度も命だって狙われてきたはず、それなのにサタンを傍に置いていないでどうするのよ!」
「いやでも、見ての通りアイツが家を出て数日たったが俺はこの通りピンピンだぞ?」
「それは今まで運がよかったことに誰も来なかっただけでしょう?
自信を持ってそんなことを言うなら、
直接サタン様の意向に反する者達を一人で返り討ちにしてから言いなさい」
確かに、一般的な人より丈夫でサタンから悪魔の力を貰っていて戦闘も多少こなせるが。
もし、タイマンで異能の者と立ち向かわなくなってしまったら恐らく負けてしまうはずだ。
とは、言え居なくなってしまったものはしょうがない気もする。
電波の概念が無いのだろうかここ数日サタンからチャットの返事は来ていない、
この状態でサタンを呼び戻すことは不可能なのだから。
そう伝えるとミカエルは頭を抱えた。
「確かに、あっちにも電波は無いハズ。少なくとも天界にもなかったわ」
以前に天界にはコンビニがあると言っていたが電波は無いらしい。
「しょうがないわね」
頭を抱えしばらくミカエルは頭に当てていた両手を腰に下ろす。
「アイツが帰ってくるまでの間は私が傍に居て貴方を護るわ」
「その護るって言うのは?」
「アイツの代わり、つまりは貴方の家にお世話になるってことよ」
そういうと俺の了承関係無しにミカエルは俺を退かして
「お邪魔するわ」と家の中へと入って行ってしまった。
(サタンの代わりってつまり・・・)
同じ屋根の下で過ごすということになる。
普段はあまり意識していないがミカエルは超絶美貌の持ち主だ。
学校内では学校イチの美人の認識で通っており。
放課後皆で街を歩くとかなりの確率でナンパとスカウト目的の人間にミカエルだけが話しかけられる。
俺よりもミカエルと普段からスイーツ巡りをしている数多先輩も
その場面に何度も出くわしているみたいで、
『僕の方には何故誰一人話しかけないんだ。
この僕をスルーだなんて世の男どもの目は腐っているのではないだろうか?
勿論、圭吾君。君にも言っているのだよ?』と、
数多先輩は不貞腐れてると思えば笑いながらいかにも冗談を言う様な口調で話していた。
因みに同じく顔が良いサタンだが。
ミカエルが綺麗系な顔に対しサタンは可愛い系な顔つきで尚且つ、
制服以外に普段着用している外着が
地雷系のフリフリワンピに丈の短いミニスカートの為かスカウトは一切来ず。
代わりにナンパとパパ活の誘いしか来ないらしく以前にはパパ活の意味をよく知らないサタンが
パパ活の誘いを受けそうになっており俺と数多先輩の二人で止めたこともあった。
因みにミカエルもその時は意味がよく分かっておらず、後から知った際には嫌悪感マックスな顔で
『あの人間の耳元でラッパを勢いよく吹き散らかしたい気分だわ』と言っていた。
勿論そんなことされてはパパ活おじさんだけではなく、
他の我々人類も滅んでしまう為必死で落ちつかせた。
そんな美人なミカエルとの言わば同棲。
普段どれだけ一緒に居ても大丈夫なのだが、
変に意識してしまった為か考えただけでも緊張で心臓がうるさく鳴る。
自分の家のドアだと言うのに俺はミカエルが家に入っていった後しばらく自宅ドアの前で
突っ立っているだけだった。
(落ち着け、俺。これは天使と悪魔の未来の為に一緒に住むだけで変な事を目的とはしていないんだ。
だからこれは決して美人なクラスメイトとの同棲ではない、よし!)
俺はそう言い聞かせるとドアを開け自宅へ戻った。
「ちょっと圭吾、貴方ねぇ!どんだけアイツと一緒に部屋を汚しているのよ!」
いつの間にか家の掃除機持ち。
どこから持ち込んだか分からないエプロンを着たミカエルが部屋の掃除を始めていた。
さっきまで高鳴っていた胸が一瞬で落ち着き、
俺の瞳のフィルターから映るミカエルは一人の異性から母親へと捉え方を変化させていた。
(少し、ミカエルとの同棲を楽しみにしていたのに)と露骨にガッカリした俺は、
部屋の汚さを嘆くミカエルの甲高い怒鳴り声がご近所さんの耳に入らない様に自宅のドアを閉めた。




