EP42 VS首落沙苗1
工場の出入口から漏れる光はまるで虫を誘い込む街灯のようで妙に気味が悪かった。
ゆっくりと工場内に侵入すると、イメージしていた施設の形とは違いスッキリしていて
機械などは一つも残されてなかった。
その工場内の奥に人影が4つありその中で唯一立っていて、
知らない顔をした奴がこちらにゆらりと振り向いた。
「あー来た来た。最後の一匹、金持ちの犬・・・と、誰ェ?君たち」
「お、おおおお前こそ・・・だ、だだだ誰で、でっ!すかぁ!!!」
大きな斧を”軽々持ち”猟奇的な顔で笑い”汚い”ドレスを着た少女に先ほどまでの普通の喋りから
いつもの弱気な言葉に戻りつつ、その斧を持った女に指を差し身分を問いただした。
「私は、首落沙苗ムカつく金持ちたちを摘まんで殺して回ってるんだ」
少女はやっていることに対して似合わない優しい手つきで斧をゆっくりと慎重に
降ろすとボロボロのドレスの裾を上げお嬢様の様なお辞儀を披露した。
「・・・あれ、拍手喝采は?こんなにも素敵なスポットライトが天井から差しているのに」
俺たちの反応に対し、明るい反応を求めたサナエだったが俺たちは一層彼女に対しての
警戒を強めた。
そんな俺たちに彼女は「そうだ、プレゼント」と言い奥からまるで肥料の詰まった
麻袋を扱うように何かを投げつけてきた。そしてそれがこちらの足元に転がって来た時
それが何者かすぐに分かった。
「こ、心様!?」
足元に転がて来たのは力が脱力しきってもはや人形の様になった心だった。
そして心が人形の様に捉えられた理由には他にもあり。
まったく動かなかったこと、そして感情が死んでいる、読み取れない状態。
目がくり貫かれていたのだ。
「ぁ・・・あ・・・」
「心様、わ、私ですぅ・・・私、貴方の手足ラトです!」
その言葉に応えるように心は抱きかかえているのがラトだというのを確認しようと
腕を伸ばしたが目が目無くなっていて距離感が掴めず空を切るだけで、次第に疲れたのか
腕を降ろしそのまま動かなくなってしまった。
その一連の行動を見届けた後次第に段々とこの地獄みたいな状況が現実味を帯びてきて
急激に俺の中で怒りが湧いてきた。
反動的に怒りを首落にぶちまけようと口を開いた時俺よりも先にラトが首落に問いただした。
「そうだ・・・レフとマナは?あの二人はど、どこにやったんですか!?」
「あぁ、あのワンカス共ね」
「今まで忘れてた」と言わんばかりの態度の首落は月明かりが入らない工場の奥に入ると
しばらくしてゴミ袋みたいな持ち方で二人をこちらに投げつけた。
「ほらよっと」
「ドサッ」と、地につく間一切の力の介入が無く全身むち打ちの形で衝撃を受け止めた
その様子からレフとマナにもう力が残っていないことが伺えた。
二人からの言葉はない。ただ、ラトは感覚で何かを感じ取ったようですぐに理解をした様子で
横たわる二人から首落に向き直った。
「こ、心様を痛めつけ、殺すお!おつもりの様ですが。そうはさせません、そうは・・・させない!」
「へー・・・やっぱり、君もそこのボンボンの子に尻尾降るワンカスの一人なんだね。
でも、それじゃあそこの二人と結末まで同じになっちゃうよ?」
そんな首落の言葉に再び俺の心に怒りを思い出させた。
「居るだろここに、お前にとってイレギュラーな存在が」
「はぁ~?・・・って、何、君たち二人共翼が生えてんじゃん!!!
いいねぇ、私もいつかは始めたかったんだ悪魔狩り!」
ラトに続き首落、そしてそれに続き俺とサタンは戦闘準備に入る。
先ほどまで首落にだけ注がれていた月明かりが二陣営の丁度間に移った時、
そのスポットライト代わりの月明かりを奪い合うようにお互いが同時に前へ飛び出して戦闘が始まった。




