EP32
「だ、大丈夫でしたか・・・?」
身体能力が上がれど痛いモノは痛いので今も弱音を吐きたいところなのだが、
目の前の気弱そうな女の子にこれ以上心配をさせたくないので強がる。
「俺の方はなんとか、それよりも君は?
悪魔の奴が突然倒れたみたいだけど。怪我とかしてない?」
「はい、大丈夫です。あの悪魔の人が何かしてくる前に”お願い”したので」
「お願い?」
やっぱり先ほどの悪魔は彼女の力にやられたようだ。
もしかして彼女もまた人間ではないのか?
「あなたになら、お話してもいいかも。だってあなたも人間なのにそういうのを持ってるから」
女の子の指差した先には俺の背中から生えている禍々しい悪魔の翼があった。
それに彼女の口ぶりからどうやら特異体質ではあるけど人間みたいだ。
(なんかちょっとホッとしたな。
周りは悪魔と天使に頭のおかしくて初対面で襲って来た人だし、
初めて平和な普通じゃない人間との邂逅だ)
「ここで話すのもなんですし私、見晴らしがよくて綺麗な良い公園知っているんです。
よかったら込み入ったお話はそこでしませんか?」
女の子のそんなセリフに歳の割にしっかりしているなと思いつつ提案先が、
喫茶店や人気のない怪しい場所などではなく公園なのが微笑ましい。
「分かったよ。そしたらぜひその公園にお兄さんを案内してくれるかな?」
「はい!あ、その前に自己紹介がまだでしたね。私、温良心って言います!」
「僕は、星垣圭吾って言います。心ちゃんさっきは助けてくれてありがとう」
「礼には及びません!・・・それじゃあ行きましょう、圭吾お兄さん」
「圭吾お兄さん」か・・・。
妹居たことないから今まで「お兄さん」なんて呼ばれたことなかったけど滅茶苦茶良いな!
加護欲がそそられるというか、何でも買ってあげたくなってきちゃった。
ーーーーー
心ちゃんが案内してくれた公園は心ちゃんの言っていた通り
綺麗な印象の公園だった。都会から少し離れた場所とは言え緑が多く、
高い場所に位置している為住宅街が一望でき、こんなにも素敵な場所なのに
少し上る為か人が全く居ない。
公園に設置されたベンチに二人して座り、俺は学校指定の鞄を膝の上に
心ちゃんはランドセルを降ろしベンチに座らせると目的である自身の特異体質について話し始めた。
「・・・そう、そして。それがさっきの悪魔の人を倒した私の能力。
願った相手を自由に殺せる力、「死願」です」
こわ・・・。
心ちゃんが話してくれた能力はとんでもない恐ろしいモノだった。
「え、それって何か条件とかってないの?例えば相手に触れてなきゃいけないとか」
「あ、画面越し。例えばテレビに映ってる悪い人をお願いして殺すことは出来ません。
実際に対面して視界に捉えている人にしかお願いは効かないんです。
後、一度にお願い出来るのは一人だけなので。
そのお願いした相手の生命活動が完全に終了してからじゃないと次の対象に移れません。
でも、逆に言えばそれ以外は無条件で発動できます」
「じゃあ、例えばさっきみたいな悪魔が突然今現れても
心ちゃんの視界に入っていたら一瞬で殺せるの?」
「はい、不意打ちとかでなければ」
「なら、やろうと思えば今この瞬間俺のことも?」
「・・・はい」
(しまった。つい、気になっていた質問を口から出してしまった)
俺の質問を聞いた瞬間心ちゃんはさっきまで合わせていた視線を地面に落とし。
スカートの端を小さな手で「ギュッ」と力強く握った。
「・・・やっぱり。恐い、ですよね」
何とも言えない気まずい空気に飲まれてしまい言葉を選んでいると
今にも泣きそうな表情と震えた声で心ちゃんが口を開いた。
「そんなことはない」と言ってあげたのだが幼い見た目に反して賢いこの子の前では、
そんな嘘は嘘だと切り捨てられてしまいそうで気の利いた言葉が言えない。
「いいんです。今までもそうでしたので。
お母さんとお父さんも私の能力が恐くて二人で私を置いて海外にお仕事に行くと言ってから、
お金だけ振込んで一向に帰ってこないんです。
小学校でも私が・・・私が、喧嘩した友達に向かって「居なくなっちゃえ」って
願ちゃったから死んじゃって、友達を作るのが恐くなって・・・」
小学生には相応ではない強力な能力のせいで今まで辛い経験を幾度も重ねてきたようだ。
それらを思い出してしまったようで心ちゃんは、
歯を食いしばって必死に抑えていた大粒の涙を顔をくしゃくしゃにしてポロポロと零し始めた。
ひとしきり泣いた後心ちゃんはゆっくりと下を向いたまま立ち上がった。
「・・・恐がらせちゃいましたよね、ごめんなさい。でも、大丈夫です。
そんな私はもうあなたを視界に捉えられない場所まで行くので。だからもう、大丈夫です・・・」
隣に座らせていたランドセルを背負い離れようとしている。
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんですか?」
「確かに、恐かったこの公園でさっき話を聞いた時俺は怯えてた」
「・・・だったらもう引き止めない方が」
「でも、それは心ちゃんの能力に限った話で心ちゃん自信を恐れたり嫌悪したりなんかしてないんだ!
だって出会ってすぐに心ちゃんは俺の命を助けてくれたじゃないか。
心ちゃんの能力は命を奪うものであっても、
心ちゃん自身にはその能力以上に命を救える可能性と優しさを持っているんだ。
例えそんな能力があってもあの状況で声を掛けて相手の素性を見極めてから判断した心ちゃん自身には
マイナスな感情なんてないよ」
「本当ですか・・・?」
「あぁ、これだけは言い切れる。神様に誓って」
こんなところで大胆に嘘を付ける程強い人間でもないからなこれは本音だ。
その証拠と言わんばかりに心ちゃんの目を真っすぐに見つめ続ける。
「その・・・そんなに見つめられると、恥ずかしいんですが」
さっきとは違い今度は恥ずかしさから心ちゃんに目を背けられてしまった。




