EP2
あの後、俺は屋上から降り講堂に張り出されていたクラス表で自分の教室を確認すると、
今日から一年間を共にする教室である1-Bにある自分の机に腰を下ろしていた。
辺りには付近の中学上がりで元々友達同士だった人たちが久しぶりの再会に喜んでいたり、
早速初日から可愛い女子に片っ端から話しかけている勇者など学生らしく多種多様に富んだ
人たちで溢れかえっていた。
そうでない者たちも居たがその大半は隣の席になった人間に挨拶や他愛もない会話をしたりしていた。
そういう風に学校側が組んでいるようで
必然的に男子と女子が隣合わせに組まれるようになっていたので、
その中にはやけに気合が入った男子も居る。
そんな活発に交流がされている空間で俺は何をしているのかと言うと、
目の黒板をただひたすらに睨み続けていた。
「せっかくのチャンスなんだから隣の女子でもいいから話掛けろよ」と言う気持ちも分かるが
俺はそれをしない。いや、しようとした。そして絶望した。
それは少し前に戻る。俺が席に着きこれからの学校生活に胸をドキドキさせていると、
視界の端の方に女子生徒の制服が映った。
どうやら隣の席に女の子が座ったらしい。
俺は当然この三年間の学校生活をバラ色にするつもりだったので早速勇気を出して話かけた。
「初めまして。俺、星垣圭吾これから一年間よろし・・・」
「おいおい、なーにが初めましてだよオマエ。それを言うならさっき振りだろ?」
横に座っていたのはこの学校の女子制服を着用した悪魔野郎サタンだった。
よく見ると容姿も変わっている。
「・・・は?お前なんで」
「さっき殺した女のこと覚えてるか?」
「いや、そりゃ忘れたくても忘れられないだろ、あんなの」
「実はあの女元々は今日入学する予定の新入生だったらしくてよ。
それもお前の隣のこの席だったらしいんだ。
でよ、このまま死んだ女が初日から登校しないのは不自然だろ?
だからちょ~っと黒魔術を使って色々と弄って俺がなり変わったんだ」
「・・・」
止めどなく耳から脳へと入ってくる非現実的な出来事に思わず頭痛がしてくる。というか、
「何でお前女子生徒枠なんだよ」
いや、まぁ。見た目が女性になっているから正直違和感は全くないけど。
「しょうがないだろ殺したのが女だったんだから、それに似合ってるんだしいいだろ」
「いやまぁ本人がそれでいいならいいんだけど」
俺の出会いの一つが潰されたって考えるとなんか納得がいかない。
と、睨みつけていた黒板の先に一人のスーツ姿の若い女性が割り込んできた。
クラスの他の生徒達も次第に教師が到着したこと気が付くと自然と自分の席に座り出す。
「皆さん、初めまして。私が今日からこの1-Bの担任の新田美来です。
今日から一年間よろしくお願いします」
生徒達もそれぞれ挨拶を返す。
「それじゃあ先生のことはこれくらいにして早速出席番号順に自己紹介をしていこうか」
その言葉を皮切りにこのクラスでの初めての交流が始まる。
テンプレート的な自己紹介をする者が多く、
中には笑いに走る者も居たりと何だか賑やかなクラスになりそうな雰囲気がする。
そうして進んでいく中ある一人の女子生徒の自己紹介の番になった瞬間クラスが無音になった。
「初めまして、境内美華です。
少し遠い所から越して来たばかりでまだ辺りの事などに詳しくないので良ければ教えてください。
今年一年よろしくお願いします。」
境内さんが自己紹介を終えた瞬間先ほどの無音が嵐の前の静けさの様なモノだったと
気づかされるほどの割れんばかりん歓迎の拍手と男子生徒たちの猛烈なラブコールが発生した。
「け、境内さん!俺生まれてからずっとここら辺で、滅茶苦茶詳しいんで放課後案内しますよ!」
一人の男子生徒が申し出ると他の男子生徒も「俺も俺も」と申し出た。
それを新田先生が何とか静止し場が落ちつきやっと次の生徒の番が回った。
見ている限りだと次の子はかなり気まずそうだ。
何人かが終わり俺の番が回ってきた。
「は、初めまして。星垣圭吾です。
越して来たばかりで周辺の地理に疎いんで良ければ教えてください。よろしく」
程よい拍手がなるだけで当然境内さんの時の様な熱烈なお誘いは0だった。
(ま、そうだよな。美少女と野郎なんかじゃ当然の差だよな)
俺の高校生活は平坦でそこそこのスタートになりそうだ。
「・・・フフフ」
自己紹介が終わり俺が席に座ろうとしたとき静かだった教室に一人の笑い声が聞こえ皆の注目が移った。
クラスの注目の的になったのはまたしても境内さんだった。
「あ、いえ。ごめんなさい”圭吾”さんが私と全く同じような
境遇の方で仲間の様に感じられたのが嬉しくて・・・つい。
私も辺りには疎いので機会があれば是非、ご一緒に探訪しに行きましょうね」
境内さんのその言葉を皮切りにさっきまで俺に一切の興味を示していなかった男子たちが声を上げた。
「星垣よろしくな!もし探訪に行くとき案内する奴が欲しかったら是非、言ってくれ。
お前と境内をしっかり案内してやるからさ!」
「俺も俺も」と再び続きビックリした顔で新田先生が落ち着かせる。
こいつら・・・。本当は俺なんて微塵も眼中になく、ただ境内さんと一緒になりたいからだろ。
まぁ、確かにもし境内さんと一緒に巡ることになっても越して来たばかりの
俺なんかじゃ目新しかったり面白い所に案内すること出来ないだろうけどさ。
でも、理由は不順であれ受け入れられてはいるようなので結果オーライだ。
「あぁ、その時はよろしく」
自己紹介前の迎え拍手よりも若干密度の増えた拍手に包まれながら席に座り直す。
「よかったなケイゴ。お前あのベッピンな女と他の男子より一抜けて接点持てたじゃんか。
これはお買い物デートの後に・・・一発ヤレんじゃねぇか」
「ば、バカお前ッ!」
コイツは急に何を言ってるんだ。
「だって滅茶苦茶笑顔だったぞ」
「ああ言う子は誰にだって優しいんだよ。だからここで勘違いしちゃいけない」
「へー、そういうモンなんだな」
「そういうモンなんだ。後、お前出会った時の姿ならともかく。
今のその恰好で「一発ヤレる」とか、その、あ、あんま言わない方がいいぞ」
「え、なんでだ?」
「それは自分の胸に聞いてみろ」
俺の言葉にサタンは自分の胸に手を当てる。そしてその胸を揉み一言。
「そうか、今の俺は女か!」
どうやら答えに辿りつけたようだ。
というか、胸に手を当てろとは言ったがそんなに激しく揉むな。
今の動きのせいで境内さんに釘付けだったクラスの男子の一部の視線が境内さんからお前に移ったぞ。
と、そんな性に盛んな男子高校生たちの注目が集まっているタイミングに
サタンの自己紹介の番が回ってきた。
「それじゃ次は、山田佐丹さん」
「あ、俺だわ。よっこらせ、あ。ドーモ山田佐丹です。あー・・・よろしくな!」
そこでサタンの自己紹介が終わった。みじかっ、というか。
「お前なんだよその名前」
「え、何か変だった?」
「変だよ、かなり変だよ。大変だよ。
なんだよ佐丹って今流行りのキラキラネームを付ける親でも不吉すぎて普通避けるわ」
「マジか。でもさ、それっだたらさっき居た有坂 栖展度硝子ちゃんはどうなのさ。
あの子、俺より重症じゃない?」
そう言ってサタンが指さしたのは5番目に自己紹介をした女子の有坂栖展度硝子さんだ。
「いやあの子の自己紹介覚えてないのか?名前言うとき坂本さん恥ずかしそうに話し始めてたし、
俺とお前含めたクラス全員が「え、今なんて?」みたいな顔してただろ」
「スマン、正直名前のインパクトが強すぎてそれ以外のこと全部飛んだわ」
それも仕方ないか、なんせ栖展度硝子だもんな。
てか、キラキラネームの人に対して重症呼びはやめて差し上げろ。
「というかさ、さっきからなーんか複数の視線が飛んで来てんだけど。何でだ?」
確かに、もはや隠しきれてないほどにサタンへと注目してる男子が多い。
「お前、境内さんと山田さんのどっち派?」
「えー、山田さんかな」
「わっかるー!境内さんも可愛いけど何か硬派すぎるというか完璧美少女過ぎるんだよな。
それに比べて山田さんは気だるさとかだらしなさがあって・・・エロいよな。
後、境内さんよりおっぱい大きいくて着崩してる制服の胸元からブラ見えそうだし。
それに、さっきも滅茶苦茶胸揉んでたから絶対エッチだぞ」
聞き耳立てて損した気分だ。入学初日から話の中身がゲスすぎるだろ。
これほどまでに下卑た目を向けられてるのに当の本人は、
「あ、なんだ?」
幸いにもあまり気にしてる様子はなさそうだ。
まぁ元は男だもんな。
「・・・お前、もしクラスの男子に変なことされたらすぐに言えよな」
「変な事って?何の話だ」
「いや、お前今女なんだから色々あるだろ」
「ん?・・・あー、なるほどな。
心配ご無用、そもそもそんなことされそうになったらすぐに殺せるから」
そうだった。コイツ悪魔だった。
「あんな感じしてるけど以外に押しに弱いかもな」
「な!仲良くなってお願いしたらワンチャンありそうだよな」
どうやら俺が心配するべきなのはアイツらの方のようだな。
頼むからこれ以上この学校で死人を出さないでくれよ。
そんなサタンとサタンに釘付けにされている男子生徒に呆れつつ、
俺自身も少し離れた席に座る境内さんを眺めている。
それにさっき境内さん、俺の事を下の名前で呼んでたよな気が。
もしかしてこれは本当に”ワンチャン”ヤレるんじゃ・・・。