観察される側──“正体”を隠す選択
焚き火の明かりがゆらめく。
その向こうには、斥候たちが描いた“見張り小屋”の簡易地図が広げられている。
保存食の干し肉は粗雑な加工だが、明らかに「技術」がある。
鍛冶、保存法、見張り体制、ジェスチャーによる非言語の意思表示――
現地の人間は、野蛮ではない。むしろ“体系化された文化”を持っている。
主人公は、ノートに淡々と記録を書き足していく。
そして、自身の方針を定めた。
【基本方針:存在の隠蔽】
主人公は一切姿を見せない。
接触はあくまで“代表者たち”によるものと見せる。
作成キャラクターたちは、独立した探索者集団のように振る舞うこと。
「拠点は移動式」「指揮官は療養中」など柔軟に設定を変えて、真相の核心から遠ざける。
翌日、再びレーネ・斥候D・斥候Eの三人が北東の監視小屋を訪れる。
森の入り口付近、昨日と同じ場所に干し肉が1束、吊り下げられていた。
これは明確な“交換”の合図だ。
「こちらの出方を、試している。敵意なし。ただし、観察は続いている」
レーネの報告を受けて、主人公は即座に次の策を立てた。
【交渉第二段階:仮想設定の構築】
レーネへの命令:
「次回の接触で、“我々は他所から来た放浪の探索隊”という説明を伝えてくれ。
隊長は療養中、直接の交渉は控えている――ということにする。
地図を求めている、と」
現地語は未習得のため、レーネの“魔物言語”と“自然交感”を通じた断片的伝達に頼る。
三人は再び森へと向かい、干し肉の下に以下の物を交換として吊るす。
香り草(防虫)
甘味のある根茎(試食可)
染料になる樹皮(赤)
その場で待機していた現地人二名は、今回も即座に攻撃することなく、物々交換を受け入れる。
そして――
【現地人からの応答】
話し合いはできないが、「何かを書いて渡す」文化がある
木の皮に炭で書かれた文字らしき模様を渡される(※レーネが持ち帰り)
表情は警戒から“理解を試す目”に変化
「マスター、これが……彼らの言葉です」
レーネが差し出したのは、粗く削られた木の皮。
そこには幾何学的な連続線と、点や波のような符号が並んでいた。
一見、意味は読み取れない。だが、構造的であり、“言語”として機能しているのは明らかだった。
主人公はそれをノートに丁寧に貼り付け、つぶやいた。
「彼らは“観察される側”ではなく、“観察する側”でもある」
【状況整理:接触段階】
こちらの存在は把握されているが、個体情報(指揮官の正体)は秘匿中
小屋には二人以上が常駐しているようだ。時折物資を持った交代要員がやってきている
現地人は“会話”ではなく“交換”を重視する文化を持つ可能性あり
書字文化あり=教育または伝達体系の存在
キャラクターたちもまた、自らが“作られた存在”であることは語らない。
彼らは生まれた瞬間から「命令されてきた」記憶を持ち、
だがそれを「当たり前」のこととして受け止めていた。
レーネが焚き火の向こうで静かに語る。
「私たちは“指揮官の命で動く旅団”として、彼らにそう見せている。……今のところ、違和感は生まれていません」
主人公はうなずく。
「よし。引き続き、観察される側として“見せたい情報だけ”を見せていく」
――この世界で、真の力とは、“力そのもの”ではない。
自らの情報を“隠し通す”意志と手段こそが、支配と生存を分ける。
▶ 次章:「偽りの旗──“旅団”の名と、はじまる噂」へ続く。