特殊個体
焚き火は、湿らせた葉をかぶせて煙だけを立てるように抑えた。
斥候が用意した即席の罠を周囲に仕掛け、戦士は腰に太い枝を削った“棍棒”を携えている。
夜が来る。
その前に、主人公は決断を下していた。
コスト2、どう使うべきか。
探索の効率を考えれば斥候をもう一人。戦力としてなら戦士を追加してもいい。
だが、斥候たちの報告にある“視線”。この先の展開に、より柔軟な対応が必要になる。
ふと、主人公の中に別の職種が浮かんだ。
「魔物使い」――彼らの力を借りて、未知の領域を進む者。
「……作れるのか?」
意識の中に浮かぶ、キャラ作成画面に触れる。
「コスト:3」と赤字で表示されていた。今の自分が使える枠の上限はコスト合計5まで。
斥候1+斥候1+戦士1=3。
つまり、現状では魔物使いは作れない。
「じゃあ……他の選択肢か」
視線を森に向ける。
昼間の探索で明らかになった情報を整理し、主人公は思案した。
遺跡がある。敵か味方か不明な“視線”がある。そして、この世界に生きる存在は人間とは限らない。
――次に必要なのは、「会話できる誰か」かもしれない。
その時だった。
焚き火の煙が一瞬、風に逆なでした。
ピチッ。
音がした。
斥候が即座に反応する。
「罠に……何かかかった」
戦士が棒を構えて前に出る。斥候のひとりが主人公の指示を待たずに、闇の中へ滑るように走った。
数分――
戻ってきた斥候は、片手に何かをぶら下げていた。
「……獣だ。小さいが、異様な目をしてる」
見せられたのは、小型の獣――しかし、明らかに“普通ではない”瞳を持つ個体だった。
獣の目はまっすぐ主人公を見つめ、カタカタと牙を鳴らしている。
「こいつ、ただの動物じゃない。知性がある」
戦士が警告のように言う。
だが、主人公は妙な感覚に囚われていた。
――目の前のこの獣に、「力」を感じる。
そして、頭の中に“通知”が浮かぶ。
【特別イベント発生】
特殊個体を使役しよう
条件:
特殊個体の捕獲成功
魔物使い(コスト3)が味方にいる
※既存キャラの一時凍結・削除することでメンバーの入れ替え可能
「……!」
つまり、今いる三人のうち、一人を“眠らせる”ことで、コストを空けられるということか。
選択肢が提示されていた。
誰かを退かせ、新たな可能性を作り出す。
リスクはある――しかし、情報を得る手段が広がる。
主人公は、目の前の獣を見つめた。
「君を……使役するには、誰を眠らせるべきだ?」
焚き火の煙が揺れるなか、斥候と戦士が静かに待っていた。
主の選択を、迷いなく。
次の一手が、夜を越える鍵となる――。