斥候の帰還と最初のリザルト
森に沈む静寂が、枝葉を揺らす風に細く裂かれる。
その音に気づいたのは、戦士だけではなかった。
「戻ってきたな……」
主人公の言葉に、戦士が頷く。
すぐに茂みがわずかに動き、まず一人目の斥候が現れる。木陰から滑るように姿を見せた男は、地面にしゃがみこんで地図を描き始めた。
「東側は斜面になっていて、沢があります。獣の足跡多数。ただし、大型はいません。飲用水として使えるでしょう」
彼は乾いた草を割って、地面に簡単な地図を描く。
その数秒後、もう一人の斥候が戻ってくる。息も切らさず、草葉に血の匂いをまとっていた。
「南に遺跡らしき石造りの構造物を確認。入口が半壊していて中には入っていません。……帰り際、誰かに見られていました」
主人公の背筋がぞわりと冷える。
思わず戦士と視線を交わす。彼はすでに腰を低くし、周囲に目を光らせていた。
「追跡されてはいない。戻るルートは変えた。気配は一人分、距離もあった」
斥候が淡々と告げる。
とはいえ、この世界が「無人」ではないことは確かになった。
主人公は思考を切り替える。
探索結果を確認する――
【探索リザルト】
斥候A(樹上移動持ち)
【探索成功:森の地形把握度+20%】
【スキル成長:潜伏Lv2 → Lv3】
【入手アイテム:薬草(癒し)×2】
斥候B(毒識別持ち)
【探索成功:南遺跡マッピング中(未完)】
【スキル成長:追跡Lv2 → Lv3】
【入手アイテム:奇妙な花弁×1(※未鑑定)】
【イベント:不明な視線】
リザルトが“頭の中”に浮かぶ。斥候たちは報告以上の情報を、それぞれ“成果”として持ち帰ってくれている。
「薬草……助かる。応急手当に使えるな」
斥候Aが軽く笑い、手渡してくる。
斥候Bは掌の上に、不気味な黒紫の花弁を乗せた。
「こいつはまだ分からない。けど、毒じゃなさそうだ」
主人公はそれを丁寧に包み、脳裏のウィンドウにメモを残す。
スキルも微かに成長しているのが分かる。キャラたちは“育つ”。だから、無駄死にはさせられない。
「……ありがとう、二人とも。しばらくはここを拠点にして様子を見よう」
主人公は木々の間から、日が傾きかけた空を見上げた。
夜はもうすぐ来る。
焚き火をどうするか、音や光をどう扱うか。考えることは多い。
そして、心の奥にもう一つの思いが芽生え始めていた。
――自分にしかできない「キャラ作成」の力。
これを使って、どうやって生き延びるか。どうやって、この世界の“ルール”を暴いていくか。
森の奥で、何かが蠢いている。
斥候が見た「視線」は、ただの通りすがりではない気がした。
主人公はそっと、右手を開いた。
新たなキャラクターを生み出すことができるコストが、2つ残っている――。