始まり
第一章 森の目覚めと最初の命令
目を覚ました瞬間、風の匂いが違った。
土と葉の混じる湿った空気が鼻をつき、見上げた空は木々の枝葉に覆われていた。
「……森?」
どう考えても見覚えのない風景。記憶はある。昨日は確かに自宅で寝た。けれど、気がつけばここ。森の中。
体は無傷。服装も日常のまま。けれど、スマホは圏外、通信不能。
そして――脳裏に浮かぶ、一つの“力”。
キャラ作成。
理解している。自分はこの世界で、人を創造することができる。
使えるコストは合計5つ。慎重に使う必要がある。
死ねば終わり。自分は一般人で、戦闘も探索もできない。だからこそ――
「よし……まずは、調査と護衛だ」
目を閉じ、力を使う。意識の中に“生成画面”のような領域が浮かぶ。
「探索役、斥候……二人にしよう」
青年の言葉に応じて、空間がわずかに歪み、二つの影が立ち現れる。
二人の斥候は青年を見て、軽く顎を引いて敬意を示した。
彼らは生まれたばかりだが、自我があり、命令を理解する。
【斥候:男】(コスト1)
スキル:【追跡】【潜伏】【罠作成】+【樹上移動】【遠視】
【斥候:男】(コスト1)
スキル:【追跡】【潜伏】【罠作成】+【気配察知】【毒識別】
青年は、最後の1枠を使って戦士を作成する。
【戦士:男】(コスト1)
スキル:【剣術】【防御姿勢】【威嚇】+【野生耐性】【重心制御】
現れた戦士は大柄で無口だった。素手だったが、腕と背に筋が浮き、ただそこに立つだけで威圧感があった。
彼らはいずれも簡素な麻の服をまとっていた。武器も道具もない。だが、それは追々補えばいい。
肌は日に焼け、粗末な麻の服を着ているが、目の奥に確かな“自我”がある。
一人の斥候が主人公に軽く会釈をした。
「マスター、ご命令を」
主人公はごくりと唾を飲み、心を決めた。
「あなたたちは周囲を偵察してほしい。交戦はできるだけ避けて状況を報告して。
戦士は、ここに残って。俺の護衛と、ここを仮拠点とする」
「了解。三十分で戻る」
二人の斥候が音もなく森の奥へと姿を消した。
残った戦士が主人公の隣に立ち、重々しい声で告げる。
「マスター。森は静かすぎる……何かが潜んでいるかもしれん」
不安が胸をよぎる。けれど、今は前に進むしかない。
――石橋を叩いて渡るように。死なないために。
深く息を吐くと、地面にしゃがみ、枝を払いながら考えた。
彼は静かに、自らの「力」を見つめ直す。
この世界で、自分が生き残る唯一の武器。
キャラ作成能力。
それが、すべての始まりだった――。
───次回:斥候の帰還と、最初のリザルト