東京特許許可局というのは存在しないのよ
しいな ここみ様主催の『瞬発力企画』参加作品です。(お題:東京)
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『東京特許許可局は、実際には存在しない。』
暇な時間にインターネットで情報を集めていた私に、こんな文章が飛び込んできた。
「へー、早口言葉で有名なのは架空の建物だったのね」
この情報は雑学として、私の脳にインプットされた。
あくる日、彼氏とデートしていた私は、カフェでコーヒーを飲みながら雑談をしていた。
「俺さあ、早口言葉がすごい苦手なんだよね」
彼が早口言葉を話題にした時、あの時得た知識が脳の引き出しから、ポンと飛び出してきた。
「早口言葉と言えばさ、これ知ってる? とうとっとっときょ……」
「え、なんて?」
「ご、ごめん。とうきょうきょっきょ……」
「東京?」
「きょ、きょきゃきょ……」
「……」
「……ごめん、なんでもない、忘れて」
何これ、罠なの?
せっかく仕入れた雑学なのに、伝わらなければ何の意味もないじゃない!
おまけに彼の前でこんな醜態を晒して……舌足らずな女だと思われたらどうすんのよ!
東京特許許可局! ああ! 頭の中なら簡単に言えるのに!
キイーッ! 許せないわ!
いつかきっと、彼の前で言えるようになってやるから、見てなさいよ!
「夜景がきれいだね」
「ほんとね、こんな素晴らしい夜景、今まで見たこともないわ」
何度目かのデートの後、私は彼に日本有数の夜景が見える場所へ誘われた。
「あのさ、俺、今まで伝えようと思ったけど、伝えられなかったことがあるんだ」
「伝えられなかったこと?」
「うん、でも、今夜は勇気を出して言うよ」
すると彼は小さな白い箱を取り出した。彼が箱を開けると、夜景にも負けないくらい煌びやかな、ダイヤモンドの指輪が姿を見せた。
「俺と結婚してほしい」
「え……ええ! いいです! よろしくお願いします!」
嬉しさと驚きが綯い交ぜになって、自分でもよくわからない返答をしてしまった。
「ありがとう! これからも……ずっと、一緒にいような」
「うん! ……ところで、実は私からも伝えたいことがあるのよ」
「えっ」
「そう、今まで伝えたくても、どうしても伝えられなかったことが」
「いったい、何なんだい?」
「東京特許許可局というのは存在しないのよ」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。