テイム
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「という訳だ。一条さん、わかってくれたか?」
「何一つわからないわよ。むしろ謎は深まったわ」
近付いてきた陽太に、一条は身構えるように一歩離れた。
その対応に少し傷つく陽太だが、一条の反応も致し方ないところがあった。
エリアキングに頬擦りされて舐められた陽太は、甘い香りを放っているのに加えてぬめついておりちょっと近寄りがたい。
現状、陽太が意味不明な存在で一条は一見平静を保ってはいるが内心では軽いパニック状態だった。
今エリアキングはクロとシロと戯れあっているので、尚更頭には疑念の雪が積もっていく。
「陽太。後で一から説明はするにしても、先ずは一条さんの疑念を解いてやろうよ」
そこに助け舟を出したのは恭介だった。
「1番の疑念は何故エリアキングと仲が良いのか、だろう?」
「…えぇ、そうよ。どういうことなの?アレは人類の敵。そうでしょう?」
恭介に内心を当てられたことを不服に思いながらも、溢れ出した疑念は口から止まらなくなっていく。
「魔石狩りという職業において、到達点の一つがエリアキングの討伐のはずよ。倒して魔石樹を得て、エリアを解放する。元の世界を取り戻す。それが全人類の共通目標じゃないの?貴方達、一体何がしたいの?」
止まらなくなった口は、最終的に陽太達を攻める言い方に帰結した。
それは一条の不安の表れでもあった。
「君の言うことは全て正しいよ。一般的にはね」
恭介の奥歯に物が挟まった物言いに、一条は眉を伏せる。
「しかしそれは、一般市民の価値観だ」
「どういうこと?」
「このエリアのように、人類に良い影響がありそうなエリアは残ってるっていうことだよ。日本だけでなく、世界的にね」
まだ理解が追いつかないのか、一条は難しい顔のまま固まっている。
「先に言っておくと、僕は世界中のシンボルエリアに行ったことある。その中でもこのエリアの若返りの実のように人類に価値のあるエリアは無数にある。貴重な鉱石が大量に生成されるエリア、魔石生物でも治せない病を治す花々が存在するエリア、新元素と思しき物が存在し現在研究中のエリアなんて所もあるんだ」
「……」
「魔石狩りの目標は奪われたエリアを取り戻すことにある。しかし、それだけでなくシンボルエリアの探求にもあるんだ」
「それはわかっているわよ」
「じゃあ納得してないのはエリアキングと仲良くしてるって所かな?」
「……」
無言でジト目で睨んでくる一条に、恭介は軽く微笑んで見せる。
「エリアキングって一括りに言うのは簡単だけど、相手は生物だ。高い知能を有し、そして感情を持っている。僕らと同じ人間の様に」
「さっきテイムしたっていうのは否定したけど、あながち間違いではないよ」
陽太が恭介の言葉を引き継ぐ。
「当たり前のことだけど、彼をテイムはしてない。俺は彼を魔石化出来ないし、赤子形態にも出来ない。俺を友人のように思ってはくれてるけど、エリア外まで着いてきたりはしない」
「友人のように思われている時点でテイムに成功しているじゃない」
「それは懐柔であってテイムではないよ。彼は俺のお願いは聞いてくれる可能性はあるけど、命令は出来ない」
「それにそういうエリアがあるのは知っているだろう?この前陽太に連れて行って貰ったんだから」
ハッと思い出したような顔をした一条はそのエリアの名を口にする。
「鎌倉、ね」
一条は記憶を遡る。
♦︎♢♦︎♢
「“百鬼横丁”鎌倉は、変なエリアなんだよ」
「逆に変じゃないエリアなんてあるのかしら」
陽太の言葉に一条は少し尖った反応をする。
それもそのはずで、彼女は今から初めてのエリアに入るのだ。その緊張感はあって然るべきだと、陽太は柔和に笑う。
「じゃあ一条さん、このエリアについてどれくらい調べてきた」
「はいはい、ちゃんと準備はしてきたわよ」
不満そうに鼻を鳴らしながら一条は続ける。
「色のエリアではなく種族のエリア。鬼形の種族で統一されている。その癖小鬼レベルは殆どいなくて、最低でも大鬼以上の鬼が出没。鬼らしく好戦的で、見かけたら襲いかかってくるから長時間の滞在は推奨されない」
どうかしら、と自信ありげに軽く髪をかきあげる。
しかしそれでは物足りない。
「それで?」
「…エリアキングは猿鬼。体長は150cmから2m。自由に体格を変えられる能力を持っているけど、人と遜色ない身体つきで人外レベルではない」
「他には?」
「それ以外の情報は載ってなかったわよ。あるなら言いなさい」
有無を言わさない口調は少しいじけているようでもあり、可愛らしいところがあるな思わず微笑みそうになるが、そんな顔を見せたら今日は口を聞いてくれなくなるだろうと思いなんとか真面目な顔を繕って見せる陽太だった。
「なら目と肌で感じてみてくれ。高尾山、新宿と続いて3個目のエリアだけど、どうだい?相違点はないか?」
陽太に言われ目を細めて辺り一体を見回して、一条はあ、と声を出した。
「建物が完全に残ってる」
「正解」
♦︎♢♦︎♢
そのエリアは、鎌倉の大仏を含め多くの神社仏閣を飲み込んでいた。
昔から伝わる文化遺産。
日本の歴史を伝えて来た建造物や仏像。
その多くがシンボルエリアに飲み込まれた。
しかも乱暴者で短絡的と評判の鬼の種族に。
価値など測れない貴重な歴史的建造物は、破壊の限りを尽くされ再興は不可能だろうと誰もが思っていた。
しかし、その予想は裏切られた。
そのエリアキングは、破壊を行おうとする鬼達をねじ伏せた。
理性のなく暴れる鬼を忽ちに粛清して回った。
その街はたった1人の王によって護られていた。
その名を守護王猿鬼。
ことこの鎌倉において、エリアキングは敵ではなく明らかに人類の味方だった。
♦︎♢♦︎♢
「そんな情報聞いたことないんだけど」
「そりゃそうさ。俺も魔石狩りになってから知ったけど、世間に出回る情報は制限されている物が圧倒的に多い。情報を減らして盗人を減らす意味もあるけど、こういうのもある」
「人類に友好的なエリアキングなんて存在は矛盾しているからってこと?その程度なら公表しても問題はないでしょう」
「あるよ。さっきも言ったけど盗人が増える。人類に友好的なんて知ったら悪人が蛆虫のように湧くさ。それに魔石は今も供給が完全に追いついているとは言えない。日本での売買は難しいけど、海外にはエリア攻略してない国もあるからね。価値はまだまだ高い」
「日本に来るのにすら命懸けなのに?」
「そういう馬鹿はどこにだっているさ」
珍しく呆れたような顔をした陽太に、一条は話題を変える。
「それで友好的な理由は?」
「さぁ?」
陽太は肩をすくめて両手を上げる。
「さぁって。理由がわからないのに人類の味方をしているの?」
「憶測はいろいろあるよ?人の造る物が好きなのではないかとか、実は一度倒されていてその誰かとの誓いを守っているのではないかとか」
「憶測っていつ裏切るからわからないじゃない」
「それじゃあ逆に20年以上守り続けてきた王を信じない理由は?」
「……」
「理屈はわからない。彼はあんまりお喋りじゃないしね。でも大事なんだろう。鬼達に定期的に掃除させたり、磨かせたりさせてるし」
「鬼のメイド?」
「想像するだけで笑えるなそれ」
クスクスと陽太が楽しそうに笑う。
「代わりと言ってはなんだけど、月に一度自分を襲わせる日を作ってるよ」
「それが報酬?」
「チャンスはやるから言うことを聞きたくないのであれば俺を倒せ、って感じ?」
「どこの少年漫画のラスボスよ」
「そのおかげでこのエリアの古い鬼が死んでと新しい鬼の出現のサイクルが出来ているから人間側としては安心だよ」
「それって意味あるの?シンボルエリア内の魔石生物は一定数以上増えないのでしょう?」
「基本的にそうだと言われてるけどね。意味はないかもしれないけれど、自分の家の近くのエリアは一度も潜られたことがなく、狩られたこともない。そんなエリアの近くに人は住まないし、恐れを抱く」
「やっぱり市民の納得の為ってことなのね」
「俺達のように“血の十日間”を経験していない世代はあんまり気にしないけど、上の世代はまたいつ自分達の住処を荒らされるのかって未だに戦々恐々しているみたいだから。国民の心の安寧というのは大事なんだろう」
「喉元過ぎれば熱さ忘れるというけれどね。実際、私達はその熱さを知らないもの」
「しょっちゅうドラマや映画になってるけど、作品ってイメージ強いもんなぁ」
「そうね。御涙頂戴の物語りって気がして私は好きじゃないわ」
確かに、と思いつつ陽太はふと思い付き両手を打った。
丁度その地獄を体現した存在が近くにいるじゃないかと。
「それじゃあその地獄の蓋を開けた存在に会いに行こうか」
♦︎♢♦︎♢
「驚くほど好戦的なのね!ここの鬼達は!」
「相手するな。予定通り突っ切るぞ!!」
陽太と一条は、迫り来る鬼達を後ろに走っていた。
大鬼だけでなく、髪の長いお面を被った鬼や、腕が何本もある鬼も居てどれも中々強そうな鬼ばかりである。
鬼が迫り来る中、陽太はクロに乗っているが一条は走っている。
バフの効果はお見事の一言で、クロのスピードにも悠々と着いてきている。
「もう少しで目的地だ。行けるか」
「余裕よ!」
軽く息を切らしているが、表情はまだ余裕そうだ。
頼もしい後輩だな、と笑い陽太達は目的地まで真っ直ぐ進んでいった。
♦︎♢♦︎♢
その場所に着くと、鬼達は憤怒の形相を浮かべこちらを睨んだ後、悔しそうに地団駄を踏んだあと陽太達に背を向けて去って行った。
「本当に、こっちに来ないのね」
息を整えつつ、自分達を追いかけることを諦めた鬼達に少し驚いていた。
「このエリアの特徴として、キングのいるエリアがBランク。それ以外がDランクって区分されているんだよね」
「特徴多すぎるわよ。なんでキングのいるエリアとランクが変わるの」
「誤解を恐れず端的な事実を言うと、キングだけ桁違いで強すぎるから」
陽太の言葉に一条は息を呑んだ。
「さっきの鬼達とは格が違う。彼らはここに足を踏み入れない。踏み入れる時は月に一度の死を覚悟して挑む時だからね」
陽太の言葉に一条が顔を引き締める。
「気を引き締めてくれ。ここはもう王の領域だ」
一条は汗が冷たくなっていくのを肌で感じていた。
「最後の確認だ。注意点を」
小さな声で言葉少なく密やかに陽太は言う。
緊張感の伝わる声だった。
一条は陽太に教わった注意点を思い出しながら言葉にしていく。
「ビクビクしない。会った時はしっかりと頭を90度下げる。目を逸らさない。呼吸は静かにゆっくりと」
「よし。ここからは会話は無しだ。君は見ているだけで良い」
コクリと頷いた一条を見て陽太は言う。
「武力のみでBランクのキングと同等の実力と言わしめている王だ。心して行こう」
“百鬼横丁”鎌倉
このシンボルエリアは謎の多いエリアだ。
まず最大の謎なのは、エリアキングが人類に友好的であることの理由がわからないという点。
次にエリア内にいる鬼達と、キングは定期的に争っていること。
明確な支配をしているキングは、基本的にはエリア内で起こることには対応しない。魔石狩りと争おうと、例え魔石狩りが死んだとしても積極的に救おうとはしない。
彼が怒るのは神社仏閣を壊そうとした鬼がいる場合だ。
その場合、見せしめのように彼は鬼を殺し恐怖を植え付ける。
定期的に行っている鬼との争いは、『文句があるなら俺を殺してみろ』ということなのだろうと予測が立てられている。
最後に一番特殊なのは、このエリアキングは礼節を持って接すれば稽古をつけてくれる。
一対一はもちろん、一体多数でも受けてくれる。魔石狩りにとってよく“先生”等と呼ばれているがさもありなん。
痛めつけられはするが、決して命は取らない。優しさと厳しさを併せ持つ得難い武道の師匠だ。
鬼神の如き強さと俊敏さは体験するのは後学のためになるだろう。
エリアにギミックは特になく、強いていうのであれば建造物や仏像に手を出せば鬼達と同じくタダでは済まない。触るのはもちろん持ち出すのも厳禁だ。
色の能力もなく、大仰な特殊能力もない珍しいエリアキングだ。
しかし、それなのに一度も打倒されたことない。
剣術、棒術、槍術ありとあらゆる武器を使いこなす武芸百班の腕前を持つとされている。
圧倒的な武力のみで君臨する王の力を決して侮ってはいけない。
参考文献
エリアキング内覧




