美しい花には棘しかない②
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陽太は苦い笑顔のまま頭を抱えていた。
変わらず注目の的だし、なんなら見物人は増えてきているし。
なんとか宥めすかしてこの場を去りたいのだが、その方法が思いつかない。
喋りかければとりつく島もなく言葉のナイフで刺される。
とりあえず手を引こうと手を差し伸べればきっと、さっきの男のように払い落とされるのが関の山だ。
が、それでもいつまでもこうしているわけにはいかない。
勇気を出して声を掛ける。
「遅れてしまってごめん。そのせいで面倒なことになってしまったことも含めて謝罪するよ。ごめんなさい。謝罪と親睦を兼ねて良ければ何か飲み物でもどうかな?もちろん奢るからさ」
「簡単に謝罪する人間って信用に値しないの。適当に謝っていれば良いと思ってそうだし。だって、あなた来たの時間通りよ。遅れてないのだから謝る必要はないわ」
振り絞った勇気は返す刀で切られて粉々に砕け散る。
――いやこれどうする!?どうすれば良いの!?もう帰りたい!帰ってクロとシロを抱きしめながら眠りにつきたい!
自分はコミュニケーション能力が高いと自負していた陽太だが、ここまで喧嘩腰で来られれば流石にお手上げだ。
必死に脳内で言葉を探し、この場を連れ出そうとするが、どれも上手くいく可能性が見えず頭はオーバヒートしていく。
本当にもういっそのこと全てを忘れて帰るか?などと逃げの思考が3割を占めたところに
「おーう、陽太。随分派手に目立ってるじゃねぇか」
「新入生達もこんな所でたむろしてるけど、もうすぐオリエンテーションだな?早速サボるのは感心しないな?」
「キミ、メッチャカワイイね!名前なんて言うの?あ、俺は2年生の熊谷鳴矢って言うんだけど……え?オリエンテーション?いーじゃん!そんなんサボってどっか行かない?」
「シロ、水球」
「じゃ、連絡先だけでもっ……て冷てぇ!!」
救世主2人が陽太に助け船を出してくれた。
ついでにナンパ師もおまけでいた。
イラっとしたからとりあえずびしょ濡れにしておくことにした陽太だ。
救世主は、友人のイカつい強面の巻尾嵐と、ぽっちゃりというよりはプロレスラーのような体型の笹野銀河だ。
「おい陽太!ツメテーじゃねぇか!」
と、色素の抜けた金髪の男が怒ってくるが、陽太は知らんぷりした。
ほら散れ散れ、とイカつい強面に迫られ、新入生達は蜘蛛の子散らすように去って行った。
実際チャイムも鳴ったし、彼らも丁度良い去り際だったろう。
「ま、こんなもんか?ちょっと面倒なことになってそうだったから顔突っ込んだけど余計なお世話だったか?」
「いや、とても助かったよ嵐」
「んなら良かったわ。じゃ、俺らは行くぜ?」
「あぁ、ありがとう。このお礼はまた今度させてくれ」
ある程度場が落ち着いたのを見て、嵐は手を挙げて去って行く。
「今度飯でも奢ってくれれば良いよな?」
「それじゃあまた焼肉屋でも行こうか」
サムズアップする銀河に、陽太も同じく手を挙げて応える。
「あれ?オレだけ扱いヒドくない?俺も手伝ったのにこんなにビショ濡れじゃん」
「お前は終始足引っ張ってただろうが。お前には奢らないからな」
抗議してくる鳴矢に陽太は冷たく拒絶した。
えー!と叫んでいる鳴矢が、陽太の隣に目を向けて
「ぎゃーー!!メッッチャ美人いるぅ!!」
騒ぎ出す鳴矢に隣の少女が軽蔑するように言う。
「アレと知り合いなの?類は友を呼ぶとは言うけど、あなたの底も知れるわね」
「あの男のこと?いや、全然知らない人だな」
陽太は満面の笑顔で嘘をついた。
その間も鳴矢は少女に突撃しようとして、嵐と銀河に腕を掴まれていた。
「オマエラ離せ!!あんな美女を口説かないとかオレの倫理観に反する!」
「そんな倫理観は崩壊しろアホが!!」
「その倫理観はそもそも本当に崩壊してるな!?」
「崩壊してるだと?ふざけんな!オレの尊敬する千野洸をバカにする気か!?」
「「そいつ倫理観バグってる奴じゃねぇか!!」」
どうやら華麗に格好良く去ることには失敗したようで、嵐達はやいやいと言い合いを始める。
陽太は良し、今がチャンスだと、3人の言い合いをきっかけにこの場を去ろうと提案しようすると、隣の少女は小さく舌打ちをした。
「嫌いなのよね、私」
陽太に言うではなく、独り言のように少女は言う。
「見た目で判断する人間って」
「同感」
思わず陽太はその独り言に反応した。
実感の籠ったその台詞には重みがあった。
きっと、彼女もその容姿とそして2体持ちであることで大変な苦労をしたんだろう。
陽太も同じ苦労を強いられてきたから気持ちがよくわかる。
要らぬ重荷を背負わされていたからこそ共感ができた。
陽太はこの時初めて、彼女に親近感を抱いた。
だから思考が鈍ってしまった。
「来て、“たまも”」
彼女の簪の金色の方の魔石がカッと輝く。
光が収まると、そこには黄金色の狐がいた。
体長は90cm程度。
尾は二つに分かれて2本ある。
姿勢良く座る姿は気品があり、すらっとした体躯は俊敏性の高さを彷彿させる。
毛色が黄金色で、陽射しに透けて金色に輝いて見えるような美しい狐だった。
「美しい」
陽太は見惚れ、言葉が勝手に口から出る。
主人と同じく、相棒である魔石生物にも見惚れてしまった。
「こん」
狐は彼女を見上げて、一声かける。
どうする?
と言っているように陽太には見えた。
そこでふと我に帰り、陽太は彼女を問いただす。
「ちょっと待った。何をする気だ」
「何って、察しが悪いのね。ならそこで黙って見ていなさい」
彼女は軽く屈むと
「“この身は風のように”」
「コーン!」
金色の狐が輝き、2本ある尾がふるふると揺れる。
瞬時にまずいと感じた陽太は声を上げる
「待て!!止め」
しかし静止の声は間に合わず、彼女の体が同じように黄金色に輝いた瞬間。
彼女は空へ跳んだ。
「は?」
陽太は軽やかに跳んだ彼女を見て、理解が出来なかった。
助走もなく軽く5メートルを超える高さに到達し、そして30メートルは距離のあった3人の前に文字通り飛んで行った。
瞬く間に距離を詰め、彼女は鳴矢の前で回し蹴りの体制を取り、その眼前ギリギリでピタリと足を止めた。
鳴矢は目をパチクリさせて驚いている。
「無様ね。女だと軽んじて、容姿が良いからと鼻を伸ばして。そんな女に一方的に詰め寄られてなすがままなんて、恥ずかしくないのかしら」
少女は嘲笑うように言う。
鳴矢を蔑む。
その言葉に鳴矢ハッとして、目を落とし唇を噛んで
「そうだなぁ。個人的にはこういうプレイも嫌いじゃない…ブッハ!」
少女からの華麗な右ストレートを鳩尾に喰らって膝をついた。
「残当だな」
「あぁ、当然の報いだ」
鳴矢を抑えていた2人は、腹を抑えて膝を折って苦しむ姿になるべくしてなったと頷く。
そこには鳴矢を庇うなんて感情はなく、むしろよくやってくれたと嬉しそうですらあった。
すると鳴矢の指輪の魔石が輝き、パートナーであるイモリのらいまるが現れた。
警戒した少女に対し、らいまるは深々と頭を下げると、鳴矢の頭の上にのっそりと上りその身に紫電を纏わせた。
「あだだだだだ!!!らいまるるるるるいててででででで!!」
「穏当だな」
「ああ、らいまるは優しいからな」
痺れて白目を剥いて倒れた鳴矢に、2人はうんうん頷きらいまるの所業を称した。
そこに鳴矢に同情するなんて感情はなく、しっかり主人を管理できて偉いなとらいまるを誇らしく思う気持ちしかなかった。
「というわけでらいまるに免じて今回は許してやってくれないか?」
らいまる達を見てなんとも言えない顔をしている少女に陽太は静かに言う。
じゃあなと、今度こそ鳴矢を引き摺りながら去っていく2人を尻目に、陽太は切り出す。
「彼も悪かったとは言え、能力を使用して人を害なすことは校則どころか法に反している」
傷つける目的でパートナーの能力使用は法律で厳しく制定されている。
人目も少なくなった今だから問題は大きくならなかったが、ちょっと前にこんなことをしていればただではすまなかっただろう。
「じゃあああいう手合いはどうすればいいって言うの」
彼女は微かな怒気を放ちながら言う。
「我慢なんて私はしない」
断言であり、宣言でもあった。
気持ちは本当にわかる。
陽太は彼女の気持ちに心の底から同意できた。
勝手に噂し、好奇の目線を向けてくる群衆。
ジロジロと遠慮なくこちらの挙動を見てはひそひそと会話し、睨んだり反応したら瞬く間に炎上する。
陽太もよく経験した理不尽だ。
「気持ちはわかるよ」
「薄っぺらな同情は必要ないわ」
冷たく突っぱねる少女に、陽太は本音なんだけどなと思いつつ、方針を変えることに決めた。
これまでのことを鑑みて、きっとこの少女はこのままでは自分の話を聞いてくれないと確信したからだ。
優しい先輩を演じても彼女には効果はない。
自分も同じ境遇だったと共感したところで彼女には響かない。
ならば、必要なものは単純だ。
「同病愛憐れむ、か。悪いけどそんなつもりはないし、俺は君以上のつもりだよ」
陽太は胸のペンダントの白と黒の魔石と、そして新しく左耳につけたピアスと黄色い魔石を見せつける。
「3体持ち…?」
「3体目は最近だけどね。少なくとも俺の歳で3体持ちなんて世界を見渡してもそういないだろう」
左耳を軽くいじりつつ、陽太は言う。
「俺も同じく初期ガチャ2体持ちだ。しかも食わず嫌いの単色喰いだった」
少女は初めて陽太に視線を向けた。
視界の中に入ることを、ようやく陽太は認められた。
遠慮なく値踏みする視線に、陽太は心で苦笑する。
しかし、それで良い。
しっかり値踏みしてくれ。
彼女に自分の話を聞かせる方法は、単純に有能であること。
彼女にとって、便利な存在であることを証明すれば良い。
「魔石狩りの資格は一年飛び級で取得したし、この大学では一番倍率の高い霧島先生のゼミにも入っている」
あまり自慢話は好きではないが、ここに照れが入っては逆にみっともない。
陽太は自信たっぷりに見えるように言う。
実際、どれもが全て事実だ。
誇張はない。
「昨年、日本でレイドボスが倒された現場に俺はいた」
「!?」
訝しんでいた彼女の目が驚愕に染まる。
レイドボス討伐は世界中を震撼させたニュースだ。
知らないはずもない。
「|来るもの通さず去るもの逃さず《ボス部屋》の中から生き延びた」
「……へぇ」
値踏みする目線はより強くなる。
別に自分が倒したわけではないから誇れないのだが、彼女の興味は唆れたようだ。
「改めて名乗らせてもらうよ。俺の名前は黒河陽太そして」
陽太の胸と耳の魔石が輝くと、そこには狼と梟と、そして刀が現れた。
「狼のクロと、木菟のシロ。そしてこの剣は雷刃という」
「ガル」
「ホウ」
ピカピカと雷刃は点滅して反応した。
「君の指導する予定の者だ」
少女が眉を顰める。
「判断は君がすれば良い。俺が指導に値する者かどうか。今言ったことが本当に正しいかどうかは君の目で見定めればいい」
「…ふふ」
陽太の不遜な物言いに、しかし少女は楽しげに笑う。
「ええ、そうさせてもらうわ。なんだ、存外悪くないのね。あなた」
少女は陽太と同じくらい不遜な振る舞いをする。
「それならば私も名乗りましょう」
少女は居住いを正し、カーテシーのポーズを取った。
スカートでなくパンツ姿で行われたそのポーズは、一見滑稽に見える。
しかしその仕草は洗練されて堂に入っている。
少女の育ちの良さが垣間見えた。
上流階級のご令嬢だと陽太は理解させられた。
上品に、流麗に少女は言う。
「私の名前は一条沙雪」
しかしその顔に浮かぶ表情は笑顔ではなく冷笑だった。
「がっかりさせないで下さる?先輩」
雷刃 〜刀ver〜
陽太にとって、大剣は重すぎた。
振るうことは出来る。
しかし、初めて扱う剣ということで技もなくただ振り下ろす事しかできない大剣は鈍重で扱いにくい。
陽太の戦い方のスタイルには合わない。
どうするかと考えていると、雷刃はピカピカと光って形を変えてくれた。
ショートソード。
細剣。
そして刀。
帯電する刀という男心がくすぐられ、陽太は刀に即決。
以来、刀と盾を持つという変わった戦い方が現在の陽太の基本的なスタイルだ。
それを見て薄墨恭介はニヤニヤしていた。




