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美しい花には棘しかない

 その日、陽太はとある少女に目を奪われた。


 すらっとした体躯。


 白磁のような柔肌。


 艶やかな黒髪。


 鋭い目つきだが、冷たさを感じる(まなじり)すら美の一つと感じられる。


 無表情のその顔は、それでもなお美しい。


 名のある絵画の如く周囲の人間は遠巻きながらも視線を少女に集めていた。


 男女関係なく、その容姿は惹きつけられるものがあった。ざわめきの中には女性の声で惚けたように「綺麗…」

と思わず出てしまったような声もある。


 思わずナンパでもしようと声をかける男子生徒は、近寄りがたい雰囲気に負け肩を落として踵を返す。


 それも仕方がないと陽太は思う。


 彼女はあまりにも異質だ。


 その美貌がではない。


 その目だ。


 真っ暗で真っ黒なその瞳。


 見ていると吸い込まれそうで、触れてはいけないが触れたくなる、そんな妖しい魅力があった。


 その瞳はしかし、誰にも興味がないようで周りにいる群衆は少女を観ているのに、少女は誰も見ていない。


 さながらドラマのワンシーンのようで、陽太はさらに声をかけるのを躊躇わせる。


 なんせ陽太がこの場についてさほど経っていないのに、何人もの男子が彼女に声をかけては袖にされていた。


 見向きもされない。


 反応すらしないのだから、勇気を出して声をかけた男子達は苦笑いを浮かべて悲しそうに去って行く。


 この分じゃ陽太が声をかけても周りの男子と同じ扱いをされて終わるだけでは?という疑念が拭えない。


 というか間違いなくそうなる。


 霧島に今から連絡先でも聞くか?

 

 いやいっそのこと恭介と初めて会った時のように、気を(てら)った登場でサプライズでエモーショナルな初対面を演じてみせるか…?


 などと陽太が頭の悪い思考を働かせた所に、身長の高い男がズカズカと少女に近づいて行くのが見えた。


「よう、ねぇちゃん。誰待ってんの?」


 右の口角だけを器用に上げた男は、慣れた調子で少女に話しかける。


「さっきからずっと待ってね?友達からの連絡待ちとかならちょっと話そうや。俺、地方から出てきたから友達いなくて寂しいのよ」


 あからさまに話しかけるなオーラを出している少女に、男はものともせず話しかける。口実もいかにもありそうな会話の始め方で、男の慣れが伺える。


 強引な言い方は彼の風貌に似合い、顔も整っている悪い雰囲気のイケメン。ああいう手合いが好きな女性ならイチコロだろう。


「ここ地元?もし地元ならなんか遊べる場所とか美味い店教えてよ。俺奢るから」


 口八丁手八丁で男は色々な話題を振るが、少女は全部無視(フルシカト)。瞬きの回数すら変わらない。


――スゲェ……!!


 陽太は心の中で感心した。


 少女にではない。


 あの男に、だ。


 めげずに、諦めずに、男は笑い話を交えながら少女に喋りかけ続けるその精神力の強さ!

 

 なんせ少女からは一度も返事がなく、視界に入れられていない。


 あれはきっとウザイとすら思われていない。感情の機微がゼロ。羽虫ですらもっと反応がありそうだ。


 なのにそれを気にしていないのか男は喋り続ける。


 賞賛にすら値する精神力だ。

 女性からしたらたまったものではないだろうが、陽太は素直に凄いと思った。


 陽太だったらとっくにその場を去って膝を抱えて泣いているだろう。


 ありったけの勇気を出して羽虫にすら値しない扱いを受けたら、陽太だったら一週間は立ち直れない。


 なるほど、あれがモテる男の精神(メンタル)か。


 そういえばどことなく友人である熊谷鳴矢を彷彿とさせる。やはりモテる男は強引さも必要なのだろうか、と陽太の思考はまたもずれてモテ男の精神力に着目していた。


「てかその髪のカンザシ?だっけそれ?それについてるのって魔石?2つってことは……え、もしかして二体持ち!?」


 男のでかい声に、周囲はさらにざわめき出す。


 逆に陽太は冷や水をかけられたようにスッと冷めた。


――余計なことを嫌なタイミングで言う奴だ。


 魔石生物の二体持ち、というのは注目の的になる。


 実際にそうだった陽太だからこそわかる。


 魔石生物というゲームを始めるにあたって“ガチャ”を引くのだが、どんな生物が出るかなどは基本運次第と言われている。


 運というだけあって当たりは当然ある。


 陽太の師匠である淡墨恭介は“アーマー種”という、生物でありながら鎧にもなる超人気種族だ。


 恩師である霧島滝に至っては、幻想種のドラゴンのアーマー種という“ぼくのかんがえたさいきょうのませきせいぶつ”状態だ。


 そしてそんな陽太も、実は大当たりを引いていた。


 それが二体持ち。


 本来、一体しか与えられない魔石生物を二体引き当てるという豪運。


 しかし陽太にとってそれは不運と表裏一体でもあった。


 幼い頃、たかが二体持ちだけというだけでいじめられたことのある陽太としては、羨ましがられるほど良いものではないと思うのだが、隣の芝生はいつの世も青く見えるものだ。


 そしてあのナンパな男は初めからそれに気付いていたに違いない。周りがざわめくのを見て、男の口角がさらに上がったのを見たからだ。


「あ、わりぃ。今のは無神経(ノンデリ)だったわ。周りも騒がしくなっちまったし、詫びに奢るから学食行かね?三号館のパン屋のコーヒーが美味いらしいんだわ」


 陽太は今の発言で、わざと二体持ちの話を持ち出したのだと確信した。この場に居ずらい状況を作り、彼女を連れ出す魂胆だろう。


 どうやらあの男は顔も悪くなく、頭もキレるらしい。


 だが。


――嫌いなやり口だ。


 女性を口説く為に頭を回すのは別に構わない。


 しかし元二体持ちの陽太からすると、そのやり方は地雷でしかない。


 二体持ちを吹聴されるのはレッテル貼り行為だ。

 

 コイツ運が良い奴ですよ、俺達は一体しかいないのに()()()()()良い思いしてますよ、という。


 その証拠に、周囲の視線に嫉妬や怨嗟のこもったものが入り混じり始めた。


 陽太は歯噛みする。

 彼女と自分を重ねて、昔の嫌な経験を思い出したからだ。


 そして男の狙いがそこにあるのも陽太は気付く。


 反応を無理やりさせる。

 自分を視界に入れさせる。


 たとえ嫌悪だとしても、男はそれを反転させ好意にさせる自信があるのだろう。


 策士である。


 見事ではあるが、その企みは潰させてもらおう。


 その手段を取らなければまだ傍観しても良かったが、あの男は陽太の逆鱗に触れた。


 なればこそ彼女をこのまま掻っ攫って行くのが1番の復讐になるだろう。彼のプライドが傷付くの相違ない。


 陽太は足を踏み出そうとして、男の顔が口角を上げたまま固まっていることに気付いた。


 彼女は今ここに至っても、何の反応もしなかったからだ。


 二体持ちへの嫉妬の視線も、

 美しい相貌への羨望の視線も、

 その肢体に送る下卑た視線も、


 彼女は意に返さなかった。


 男は思い通りにならなかったことに舌打ちを打ち


「いいから来い!!」


 と彼女の袖を掴む。


 が、その前にその手にパシンとはたき落とされ


「触るな」


 彼女は初めて言葉を発した。


 その声色に怒気はなく、ただ冷たい。


 感情のない平坦な声は、騒ぎの中でも透き通っていた。


 その時、陽太はふと気付く。


 彼女は二体持ちであることを隠していない。


 陽太はそれこそこの学校に入学した時までは、二体持ちであることを隠す為にペンダントの魔石を服の中に入れて隠していた。


 バレればこの通り面倒臭いことが起こる。


 しかしそれでも、彼女は隠さなかった。


 いや隠す気がないのかも知れない。


 他人の反応など、誰が何を思おうと彼女はどうだっていいのだ。


 その証拠に手を払った男に少女は見向きもしない。


 男は男で目をパチクリとさせている。どうやらまだ現状が飲み込めていないらしい。


 もしかしたらこんな風に袖にされたのは初めてだったのかも知れない。


 口がヒクヒクと痙攣し、身体が震え出している。


「随分と、冷たい反応してくれんじゃん?」


 それでも男にはまだ理性があった。


 しかし、またも少女は無視。


 流石にこれには男の理性のブレーキも壊れたようで


「てめぇ!さっきからお高くとまりやがって、調子の」

「ウォーーン!!」


 叫び出す男の声を遮るように、クロが雄叫びを上げる。


「はい、そこまで。あんまり強引なアプローチは感心しないな、新入生」


 同時に陽太が手を上げて間に割って入る。


 無駄に目立つ事をするハメになってしまったことを、陽太は心の中で頭を抱える。


 なんせ陽太はどうやったら彼女を目立たずにここから連れ出すのかを苦心していたのに、結果として1番目立つ形で割って入ることになってしまった。


 ざわざわと周囲の人間のざわめきが一斉に視線が陽太に向く。


 突然の乱入者への好奇と困惑の眼差しだ。


 背中にむず痒さを感じながらも、陽太は仕方がなかったと己に言い聞かせる。

 

 彼女に話しかけるタイミングはなかったし、ここで喧嘩に発展して恭介が出張ることになったら、陽太に苦言を言われそうだし。


「君に興味が無いのはもう充分にわかっただろう?それに彼女に用事があるのは俺なんだ。連れて行ってもらっちゃあ困る」

「ッ!!!」


 男は盛大に苦虫を噛んだような顔を浮かべた後、陽太を睨んで去って行った。


 よしよし、これで怒りは陽太に向いた。彼女に執着はしないだろう。


 無駄に煽った甲斐はあったと陽太が得心して、彼女を見ると驚くことに彼女の目が輝いてる。


 もしかしてよくあるモテシチュエーションで彼女の心を掴んだのか?と心が浮つくのはほんの一瞬だった。


 なんせ目線は隣のクロと、頭に乗ったシロに釘付けだ。


 ニヤけているのを隠そうとしたのか、口元に手を当てている。


 なんだ、思ったより可愛げのある子じゃないか、と陽太は少し安心する。


 まぁ見惚れるのも仕方がない。


 クロとシロは可愛いからな!!


 陽太はふふんと心の中で誇りながら少女に言う。


「ごめん、待たせたね。先生から話を聞いてると思うけど、初めまして、僕は黒河陽太。よろしくね」


 すると、少女はきらめいた瞳を一瞬で曇らせて、ゆっくりとだるそうに陽太に目線を向ける。


 初対面なので威圧感を与えぬように陽太は軽く微笑んで見せる。

 のだが、


「はっ」


 鼻で笑われた。

 きょとんとした陽太に


「ずいぶんとゆっくりの登場ね。重役出勤のつもり?いいご身分なのね」


 冷たい言葉のナイフで急に陽太を刺してきた。


 一瞬理解が出来ず、陽太は思わず口を開けてアホ面を晒してしまう。


「割と整った顔みたいだけど呆けた顔は見るに耐えないわ。そんな顔で先輩面されても効果はないわよ」


 さらに続け様に切られた所で、陽太は気付く。


――いや、問題児、誰にも興味がないようで周りにいる群衆は少女を観ているのに、少女は誰も見ていない。


 さながらドラマのワンシーンのようで、陽太はさらに声をかけるのを躊躇わせる。


 なんせ陽太がこの場についてさほど経っていないのに、何人もの男子が彼女に声をかけては袖にされていた。


 見向きもされない。


 反応すらしないのだから、勇気を出して声をかけた男子達は苦笑いを浮かべて悲しそうに去って行く。


 この分じゃ陽太が声をかけても周りの男子と同じ扱いをされて終わるだけでは?という疑念が拭えない。


 というか間違いなくそうなる。


 霧島に今から連絡先でも聞くか?

 

 いやいっそのこと恭介と初めて会った時のように、気を(てら)った登場でサプライズでエモーショナルな初対面を演じてみせるか…?


 などと陽太が頭の悪い思考を働かせた所に、身長の高い男がズカズカと少女に近づいて行くのが見えた。


「よう、ねぇちゃん。誰待ってんの?」


 右の口角だけを器用に上げた男は、慣れた調子で少女に話しかける。


「さっきからずっと待ってね?友達からの連絡待ちとかならちょっと話そうや。俺、地方から出てきたから友達いなくて寂しいのよ」


 あからさまに話しかけるなオーラを出している少女に、男はものともせず話しかける。口実もいかにもありそうな会話の始め方で、男の慣れが伺える。


 強引な言い方は彼の風貌に似合い、顔も整っている悪い雰囲気のイケメン。ああいう手合いが好きな女性ならイチコロだろう。


「ここ地元?もし地元ならなんか遊べる場所とか美味い店教えてよ。俺奢るから」


 口八丁手八丁で男は色々な話題を振るが、少女は全部無視(フルシカト)。瞬きの回数すら変わらない。


――スゲェ……!!


 陽太は心の中で感心した。


 少女にではない。


 あの男に、だ。


 めげずに、諦めずに、男は笑い話を交えながら少女に喋りかけ続けるその精神力の強さ!

 

 なんせ少女からは一度も返事がなく、視界に入れられていない。


 あれはきっとウザイとすら思われていない。感情の機微がゼロ。羽虫ですらもっと反応がありそうだ。


 なのにそれを気にしていないのか男は喋り続ける。


 賞賛にすら値する精神力だ。

 女性からしたらたまったものではないだろうが、陽太は素直に凄いと思った。


 陽太だったらとっくにその場を去って膝を抱えて泣いているだろう。


 ありったけの勇気を出して羽虫にすら値しない扱いを受けたら、陽太だったら一週間は立ち直れない。


 なるほど、あれがモテる男の精神(メンタル)か。


 そういえばどことなく友人である熊谷鳴矢を彷彿とさせる。やはりモテる男は強引さも必要なのだろうか、と陽太の思考はまたもずれてモテ男の精神力に着目していた。


「てかその髪のカンザシ?だっけそれ?それについてるのって魔石?2つってことは……え、もしかして二体持ち!?」


 男のでかい声に、周囲はさらにざわめき出す。


 逆に陽太は冷や水をかけられたようにスッと冷めた。


――余計なことを嫌なタイミングで言う奴だ。


 魔石生物の二体持ち、というのは注目の的になる。


 実際にそうだった陽太だからこそわかる。


 魔石生物というゲームを始めるにあたって“ガチャ”を引くのだが、どんな生物が出るかなどは基本運次第と言われている。


 運というだけあって当たりは当然ある。


 陽太の師匠である淡墨恭介は“アーマー種”という、生物でありながら鎧にもなる超人気種族だ。


 恩師である霧島滝に至っては、幻想種のドラゴンのアーマー種という“ぼくのかんがえたさいきょうのませきせいぶつ”状態だ。


 そしてそんな陽太も、実は大当たりを引いていた。


 それが二体持ち。


 本来、一体しか与えられない魔石生物を二体引き当てるという豪運。


 しかし陽太にとってそれは不運と表裏一体でもあった。


 幼い頃、たかが二体持ちだけというだけでいじめられたことのある陽太としては、羨ましがられるほど良いものではないと思うのだが、隣の芝生はいつの世も青く見えるものだ。


 そしてあのナンパな男は初めからそれに気付いていたに違いない。周りがざわめくのを見て、男の口角がさらに上がったのを見たからだ。


「あ、わりぃ。今のは無神経(ノンデリ)だったわ。周りも騒がしくなっちまったし、詫びに奢るから学食行かね?三号館のパン屋のコーヒーが美味いらしいんだわ」


 陽太は今の発言で、わざと二体持ちの話を持ち出したのだと確信した。この場に居ずらい状況を作り、彼女を連れ出す魂胆だろう。


 どうやらあの男は顔も悪くなく、頭もキレるらしい。


 だが。


――嫌いなやり口だ。


 女性を口説く為に頭を回すのは別に構わない。


 しかし元二体持ちの陽太からすると、そのやり方は地雷でしかない。


 二体持ちを吹聴されるのはレッテル貼り行為だ。

 

 コイツ運が良い奴ですよ、俺達は一体しかいないのに()()()()()良い思いしてますよ、という。


 その証拠に、周囲の視線に嫉妬や怨嗟のこもったものが入り混じり始めた。


 陽太は歯噛みする。

 彼女と自分を重ねて、昔の嫌な経験を思い出したからだ。


 そして男の狙いがそこにあるのも陽太は気付く。


 反応を無理やりさせる。

 自分を視界に入れさせる。


 たとえ嫌悪だとしても、男はそれを反転させ好意にさせる自信があるのだろう。


 策士である。


 見事ではあるが、その企みは潰させてもらおう。


 その手段を取らなければまだ傍観しても良かったが、あの男は陽太の逆鱗に触れた。


 なればこそ彼女をこのまま掻っ攫って行くのが1番の復讐になるだろう。彼のプライドが傷付くの相違ない。


 陽太は足を踏み出そうとして、男の顔が口角を上げたまま固まっていることに気付いた。


 彼女は今ここに至っても、何の反応もしなかったからだ。


 二体持ちへの嫉妬の視線も、

 美しい相貌への羨望の視線も、

 その肢体に送る下卑た視線も、


 彼女は意に返さなかった。


 男は思い通りにならなかったことに舌打ちを打ち


「いいから来い!!」


 と彼女の袖を掴む。


 が、その前にその手にパシンとはたき落とされ


「触るな」


 彼女は初めて言葉を発した。


 その声色に怒気はなく、ただ冷たい。


 感情のない平坦な声は、騒ぎの中でも透き通っていた。


 その時、陽太はふと気付く。


 彼女は二体持ちであることを隠していない。


 陽太はそれこそこの学校に入学した時までは、二体持ちであることを隠す為にペンダントの魔石を服の中に入れて隠していた。


 バレればこの通り面倒臭いことが起こる。


 しかしそれでも、彼女は隠さなかった。


 いや隠す気がないのかも知れない。


 他人の反応など、誰が何を思おうと彼女はどうだっていいのだ。


 その証拠に手を払った男に少女は見向きもしない。


 男は男で目をパチクリとさせている。どうやらまだ現状が飲み込めていないらしい。


 もしかしたらこんな風に袖にされたのは初めてだったのかも知れない。


 口がヒクヒクと痙攣し、身体が震え出している。


「随分と、冷たい反応してくれんじゃん?」


 それでも男にはまだ理性があった。


 しかし、またも少女は無視。


 流石にこれには男の理性のブレーキも壊れたようで


「てめぇ!さっきからお高くとまりやがって、調子の」

「ウォーーン!!」


 叫び出す男の声を遮るように、クロが雄叫びを上げる。


「はい、そこまで。あんまり強引なアプローチは感心しないな、新入生」


 同時に陽太が手を上げて間に割って入る。


 無駄に目立つ事をするハメになってしまったことを、陽太は心の中で頭を抱える。


 なんせ陽太はどうやったら彼女を目立たずにここから連れ出すのかを苦心していたのに、結果として1番目立つ形で割って入ることになってしまった。


 ざわざわと周囲の人間のざわめきが一斉に視線が陽太に向く。


 突然の乱入者への好奇と困惑の眼差しだ。


 背中にむず痒さを感じながらも、陽太は仕方がなかったと己に言い聞かせる。

 

 彼女に話しかけるタイミングはなかったし、ここで喧嘩に発展して恭介が出張ることになったら、陽太に苦言を言われそうだし。


「君に興味が無いのはもう充分にわかっただろう?それに彼女に用事があるのは俺なんだ。連れて行ってもらっちゃあ困る」

「ッ!!!」


 男は盛大に苦虫を噛んだような顔を浮かべた後、陽太を睨んで去って行った。


 よしよし、これで怒りは陽太に向いた。彼女に執着はしないだろう。


 無駄に煽った甲斐はあったと陽太が得心して、彼女を見ると驚くことに彼女の目が輝いてる。


 もしかしてよくあるモテシチュエーションで彼女の心を掴んだのか?と心が浮つくのはほんの一瞬だった。


 なんせ目線は隣のクロと、頭に乗ったシロに釘付けだ。


 ニヤけているのを隠そうとしたのか、口元に手を当てている。


 なんだ、思ったより可愛げのある子じゃないか、と陽太は少し安心する。


 まぁ見惚れるのも仕方がない。


 クロとシロは可愛いからな!!


 陽太はふふんと心の中で誇りながら少女に言う。


「ごめん、待たせたね。先生から話を聞いてると思うけど、初めまして、僕は黒河陽太。よろしくね」


 すると、少女はきらめいた瞳を一瞬で曇らせて、ゆっくりとだるそうに陽太に目線を向ける。


 初対面なので威圧感を与えぬように陽太は軽く微笑んで見せる。

 のだが、


「はっ」


 鼻で笑われた。

 きょとんとした陽太に


「ずいぶんとゆっくりの登場ね。重役出勤のつもり?いいご身分なのね」


 冷たい言葉のナイフで急に陽太を刺してきた。


 一瞬理解が出来ず、陽太は思わず口を開けてアホ面を晒してしまう。


「割と整った顔みたいだけど呆けた顔は見るに耐えないわ。そんな顔で先輩面されても効果はないわよ」


 さらに続け様に切られた所で、陽太は気付く。


――いや、問題児じゃなくて、単純に性格に問題のある子じゃん!恭介とは全然違う問題児じゃん!


 恨むぞ!霧島先生!!


 陽太は新しいチーム候補の問題児っぷりに、早速頭を抱えることになった。

進化のパターン


進化すると肉体的な成長ももちろんするが、精神的成長を遂げる魔石生物もいる。

属性を新たに獲得して進化したり、新たな能力を得ていたり、部分的に飛躍的な成長をする。

中には進化したことにより武器を持っていたりするのだから、まさしく言葉の通り『進化』だ。

以上のことを一般的に『属性進化』、『部位進化』、『武装進化』などと呼ばれている。

全く同じ種族でも進化の仕方は全く違う。

性格、環境、育て方などで変わるのは間違いないが、性格や環境によっての進化はわかりやすい。

犬タイプならば、寒い環境なら暖かい毛皮をもって進化するし、ちょっとやんちゃな性格なら、歯や爪が鋭く進化する。これは進化先としてはわかりやすい。

しかし育て方は関係しているのがわかってはいるが、どう作用しているかはわかってはいない。

魔石生物のそれぞれの趣味嗜好によって進化は変化する。


魔石生物の多様性についてのレポート

霧島茂

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