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Side story その時の千野洸

 目の前で真っ黒なドロドロがシャッターを閉めるようにピシャリと閉じた。


 唖然と自分を見る恭介を()()()に送り、千野洸は大きく息を吐いた。


 少しの安堵と、やっちまったという後ろ髪を引かれる思いが心を占める。


 あの状況で恭介を逃した逃しただけでも御の字だろうと、心を切り替える。


 やっちまったもんは覆らないと洸はよく知っていた。


「レオ。支配権は俺にある(マインワールド)


 呟くと相棒の虎の魔石生物が実体化し、その能力を使う。


支配権は俺にある(マインワールド)

 どんな状況や環境でも、自分の闘いやすい環境を作る能力だ。


「かー!やっとまとも呼吸が出来るぜ」


 ゼーゼーと洸は大きく深呼吸する。


 あまりの重力にまともに呼吸が出来なかったからだ。


 やっとひと心地つくと、レオがニヤニヤと洸を見ていることに気づく。


「んだよ。見てんじゃねーよ。つーか状況わかってんのかよレオ」


 悪態をついてなんともないフリをしているが、状況は最悪だ。

 

 閉じ込められて、エリアキングとレイドボスを相手取らないといけない想像する限り最悪で最低な状況下に2人はいた。


 しかしそれに

 

「ガルルル」


 ったりめぇだ舐めんな、とレオは唸りながら返す。


 そしてその後すぐに口が緩み、ニヤニヤと洸を見る。


「その顔やめろバカが。もしかしてお前()()()()見てニヤついてんのか?あんなのちょっとした演出だっつーの!これでエリアキングとレイドボスぶっ倒して見ろ?恭介のヤロウが泣いて感動するのが目に浮かぶぜ」


 ちょっと早口になりつつ、洸は言い切ると


「がる、がるがるがっふ」


 いやいや、それにしても随分と恭介に格好つけてたじゃねぇか。今生の別れかよ。

 

 と、レオはゲラゲラと楽しそうに笑う。

 

 洸はプルプルと怒りと恥辱に震えていた。


 自分でもめちゃくちゃ格好つけた自覚があったからである。いや実際格好良かっただろ!?とレオに言っても火に油だ。


 だから洸はこんな場所にも関わらず、命の危機に瀕しているのに普段と変わらずに、いつも通りキレた。

 

「なるほどそうかそうか。キングとボスを前にテメェが先に死にてぇんだな!?やってやらぁゴラァ!!」

「ガルガルル!!」

「ああん!?上等だこのくそ猫が!ボコボコにしてやらぁ!!」


 場違いに喧嘩を始めようとした所にもう一体の相棒である雷刃が実体化し


「あぎゃぎゃぎゃ!!」

「がるらるらるる!!」


 2人を感電させた。


「容赦ねぇな!雷刃!」

「がるぅ!!」

 

 雷刃は言葉を話さないが、ピカピカと光って洸に抗議をする。


『こんな状況で喧嘩するなバカ!』


 そう言いたそうだ。


 当たり前の常識的な説教だった。


「かー!あぁーったよ。ったく」


 雷刃の説教に耳をほじりながら聞く洸は、未だ思春期を抜けない悪童感が抜けていなかった。


「ま、とりまお前らはこんな状況でもいつも通りそうだな。レオも()()()()()()()()()()()()()()()?」


 と、洸言う。


「がる」


 当たり前だ、とレオは頷く。


「んなら良い。()()()()()()か」


 感情的な洸とレオだが、クレバーな一面も持つ。


 エリアキングとレイドボスがいて、この重力が何倍もある土地では逃げ切るのは不可能だと元々思っていた。


 体力温存のため、レオは鎧化を解除し洸もその判断に乗った。


 2人で逃げ切るのは無理だと、早い段階で洸は判断し決断していた。


 恭介が自分を抱えて逃げ切れるなら、まぁそれはそれでよし。だが十中八九逃げ出すのは不可能な状況だと、魔石狩りとして7年以上を積んだ経験が洸にその決断をさせた。

 


 自分が残って、恭介を逃す。



 

 元はと言えば、恭介に無理を言いここに連れてきたのは自分だ。

 

 残るのは当然の如く自分であるのは自明の理だ。


 2人共残ると言う判断はないわけではなかった。

 

 しかしその判断をするのは少々遅すぎた。


 理由は2つある。

 

 恭介は限界を超えて体力を使っていたからシンプルに戦えないと言うのが1つ。


 もう1つが、恭介は基本的にビビりだと言うこと。


 エリアキング、レイドボスを前にまともな精神状態でいられないのは普通として、足が震えてまともに戦えないのならば足手纏いにしかならない。


 仮に戦えたとしても、恭介を守りながら戦うのは不可能だ。恭介にも1人の戦力として活躍してもらうしかない。

 

 恭介を残して戦うのは不確定要素が強すぎる、というのが洸がこの結論に至った()()()()()()だ。

 

 なにせ恭介は弱くない。いやむしろ、強い。


 洸はそれをよく知っている。


 ビビりで戦いに消極的ではあるが、戦闘センスは自分よりも高い、というのを洸は気付いていた。


 だから2人いれば倒せる可能性も、洸は見出していた。


 策は、漁夫の利狙いだ。


 レイドボスが勝てば、疲労しているだろうレイドボスを強襲し勝つ。


 エリアキングが勝てば追ってこないなら逃げる。追ってくるのであればヒット&アウェイで少しづつ逃げ切る。


 というのが策。


 エリアキングとレイドボスの戦いに割って入らず、勝った方のみと戦うという戦略。


 洸らしくない、戦闘を楽しまずに確実に勝ちを取る。


 しかし、これも運の要素が強い。


 現状は争っていても、洸達に気付き協力して自分達からまず倒すなんて可能性も否定出来ない。


 そうなったらたとえ2人でも勝てない。


 相手は怪物だ。


 人間の計れる領域にはいない。


 そんな幸運を拾って拾ってなんとか生き残る環境に、恭介を連れ込むつもりはない。

 

 そして何より、兄として弟を死の気配が濃厚な場所に連れていくのは我慢出来ない。


 これが感情論で出した結論。


 どちらにしても、恭介を外に出すのは洸の中では確定事項だった。

 

――だが、あのバカはそんなこと受け入れちゃくれないだろう。


 だから一芝居打った。

 

 その決断を、3人は相談するわけでもなく決めていた。長い間共に戦ってきた経験は、以心伝心をその体で表していた。


「当たり前のように理解はしてんだろうけど、一応宣言しておくぜ?」


 洸は腕を組んで


「絶対帰るからな?」


 当たり前の事実のように洸は言い切る。


 気負いはなく、焦燥感もない。

 自分達を奮起させる為の言葉でもない。


 ただの事実のように洸は言い放つ。


「死んでる場合じゃねぇんだよ。子供産まれるっつー時に死んでたまるか。死んだらゆりに死んだ後でもぶん殴られそうだしよぉ」


 恐るように肩を震わせる。


 まるで死ぬことより、ゆりにキレられる方が怖そうだ。


「せんせーもめちゃくちゃ泣くだろうし、恭介なんて最後のあの顔見たか?このまま俺死んだらアイツ俺の後でも追ってきそうだぜ。男に追われる趣味はねぇんだつーの」


 未だ脳裏に張り付いた、恭介の唖然とした顔。


 顔が見えなくなる間際に意味を理解して絶望に染まっていく顔には、洸も心が痛んだ。


「やり残したことがたんまりあんだよ。子供は最低でも3人欲しいし、金かけてクソデカい家買いたいし、この超大活躍でチヤホヤしてもらわねーもいけないし」


 指折り数えて洸はまだまだあれとあれと、未来の自分を思い描く。


「あー!!てか今俺死んだら浮気相手の女が押しかけてくるかもしんねぇ!一応別れは告げといたけど、アイツら俺に心底惚れてたしな、って痛ぇ!!レオ蹴るんじゃねぇ!」


 ふふんと、自慢げに鼻を鳴らした洸に、レオは蹴りを入れた。


 雷刃は、本当にどうしようもないやつだと呆れている。


「一応命賭ける職業だからってことで遺書ってか遺言見たいな動画は撮ったけど、あんなん見られたら恥ずかしいじゃん。俺酔った勢いで20年以上分のビデオレター残してんだぜ?あんなん見られたら俺の格好良いパパ像が台無しだ!帰って消そう!」


 うんうんと頷き、洸は改めて生きる気力しかないことに気付く。


 死んでなんかいられないと。

 

「エリアキング?レイドボス?Aランクの重力のシンボルエリア?だからなんだっつーの」


 舌をベロンと出して、関係ねぇと洸は言う。


「んなもん、どれもこれも生きて帰れねぇ理由にはならねぇ。そうだろ?」

「ガル」


 レオが頷き、雷刃がピカピカと光って同意する。


「勝つぞ。これは決定事項だかんな」

「がるる」


 翳した洸の手にレオは手を乗せ、雷刃がピカピカと光りながら器用に()の部分だけ載せる。


「行くぞテメェら!死ぬ気で勝つぞ!」

「ガルァ!!」

(ピカピカ)


♦︎♢♦︎♢


 そして息巻いてエリアキング達の戦う場所に来ると、洸はヒューと口笛を吹いた。


 圧巻の戦いだった。


 怪獣大戦争もかくやというエリアキングとレイドボスの戦いは、洸の心を踊らせる。


 心臓が脈打ち、血流を全身に送っていく。


 自分の目がギラついて行くのがわかる。


「こいつら強ぇな」

「ガル」


 血の気の強いレオが、洸に同調する。


 血が(たぎ)る。


 今まで見てきた中で一番の最悪な地獄だ。


 洸は自然に笑う。


 歯を剥き出しにして獰猛に笑う。


 そんな2人を見て、雷刃はやれやれとピカピカと光る。


 きっと、コイツはもうすぐ前言を撤回するのが目に見えたからだ。


 理性的な判断も、勝ちを見越したクレバーな勝算も、全て捨て去る気だと気付いたからだ。


 長い付き合いだからこそわかった。


「あー、お前らさっきの作戦は全部やめだやめ」


 洸は手をヒラヒラ振って、作戦の取り消しを宣言する。


「この戦いに割って入らないなんて魔石狩り失格だ。そうだろ?」


 餌を前にした肉食獣のように歯を見せて笑って言う。

 

「ガルガル!!」


 そう来なくっちゃなぁ!

 レオは楽しそうに笑って唸る。


 雷刃はこれ見よがしにやれやれとピカピカと光って抗議するが

 

「お前いっつも抗議するフリだよな。お前もやりたいんだろ?」

『まぁな!』


 雷刃は光って賛同する。


 洸と共にいて、ここで心が踊らないようでは彼のパートナーは務まらない。


「かー!!流石俺の相棒だぜ!わかってんじゃねぇか!」


 洸は心底嬉しそうに楽しそうに笑う。


 目の前の地獄に参戦するのが楽しみで、それに賛同してくれた相棒達が嬉しくて洸は笑う。


「んじゃ行くぜ!鎧化(アーマーチェンジ)!!」


 カッと光り鎧化すると、洸は雷刃を握る。


「雷刃!いきなり行くぜ?良いな!?」

 応ッ!と雷刃は光って応える。


 バチバチと紫電が走り、光が剣に収束していく。

 

「|この雷光は我の名の如く《サウザンドシャイン》――!!!」


 雷音が鳴り響き、突然の超強力な攻撃にエリアキングは電撃に痺れ立ち上がれず、レイドボスは片腕を損傷した。


「エリアキングにレイドボスよぉ!!随分楽しそうじゃねぇか!!俺も混ぜろ!!」


 怒号を上げて洸は参戦を宣言する。


「悪いが横やり入れらせて貰うぜ!お前らに勝って帰って親父(せんせー)と同じくらいの英雄になって凱旋してやんよ!!」


 大剣を肩に担ぎ、勝利を宣言する。


「子供が産まれるし、弟と嫁が俺の帰りを待ってんだわ!だからよぉ死んでくれや踏み台共!!」

 

 駆け出しながら千野洸は叫ぶ。

 

「死ぬつもりは毛頭ねぇ!!」

虎の魔石生物のレオ



アーマー種共通の通り小型である。

性格は千野洸に似て戦闘時には獰猛で好戦的。

しかし平時の時は穏やかでのんびり屋だったという。

能力は、火の海でも氷の大地でもどんな場所でも、自分たちが戦いやすい最適な環境を押し付ける特殊な能力を持つ。

後は基本的な土系の能力を使うこともできるが、好んで使っていたのが地面を殴り地面を揺らす能力だったそうだ。

名前の由来は、子供姿のときにライオンだと勘違いした千野洸が”レオ”とつけたらしい。



参考文献

“ナナシ”の後継者と呼ばれた漢、千野洸

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