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筧誠

 筧誠(かけいまこと)

 

 日本史上、最年少の内閣総理大臣。

 

 検察官から国会議員、そして内閣総理大臣という異例の出世を異例の若さと速さでやってのけた日本屈指の傑物である。

 

 圧倒的な人気と支持率を保ち続けていて、過去最高の総理大臣だともて(はや)されている。

 

 甘いマスクを持ち、言動には人を魅了する力がある。


 その演説力は彼を押し除けようとする議員に、首相ではなく教主の方が向いているなどと皮肉混じりに言われている。

 

 カリスマ日本代表。

 お祭り男。

 稀代の詐欺師。

 相棒の才能に恵まれた男。

 成り上がり野郎。

 達磨の片目。

 

 数々の異名を持つ男でもあった。

 

 そんな男が壇上で両手をつき、頭を下げて項垂(うなだ)れていた。


 時間が経つにつれてざわざわと会場が色めき始めた頃、筧はようやく口を開く。

 

「淡墨恭介を知っているだろうか」

 

 それだけで会場が静まり返る。

 

 筧はゆっくりと顔を上げる。

 

「我らの新たな英雄であり、そして引退を余儀なくされた悲しき英雄の名だ」

 

 筧の声は力強く、人を惹きつける。

 

「彼の魔石狩りとしての物語は終わりを告げた。まだ若き才ある人間が道を断たれた。……人の悪意によって」

 

 会場がどよめく。

 

「ご存知の通り、警察の失態だ。司法の番人が司法を犯した。到底許されることではない。多くのメディアで騒がられている通り、警察の自浄作用が機能していない。職務怠慢どころの話ではない」

 

 冷静な語り口に怒りが滲む。

 

「警察庁長官の辞任、魔石生物犯罪対策部部長の解任、警察は上から下まで大騒ぎだ」

 

 静かで冷静な口調にはしかし、激情が見え隠れする。


 会場の記者達は静まり返り一言も聞き逃すまいと傾聴していた。

 

「しかし!今回私が言いたいのはその件についてではない。何故こんなことが起こったのか、その理由が判明したからだ。そしてその理由を誰も発信しなかった。いや、言及されなかったことに私は怒りを隠せない」

 

 カメラを見つめながら筧は続ける。

 

「未だ、メディアでは警察の癒着のみを報道してとある事実からそれを覆い隠している。とある“()”の話を」

 

 完全に置いてけぼりの視聴者。


 しかし一部の権力者がなにを言い出すか悟り、LIVE中継の中止、切断を目論み動き出す。

 

 すると、筧の口角が上がる。

 

「おやおや。まったく、わかりやすい人たちが沢山いて何より。おっと、置いてけぼりにしていますね、説明します。現在私の宛にLIVE中継の中止を求めるメッセージが大量に来ています。ほう、中には政治家、大企業会長、とあるメディアの局長など大物が()()()ようですね」


 

 楽しげに筧は続ける。


 

 そしてやっと会場と視聴者は理解した。



 

――また、なんかやらかす気だこの首相!!



 

 コメントは大荒れ、SNSは大歓喜、そして筧のいる会場は大盛り上がりだった。

 

「総理!一体どういうことでしょうか!?」

「政治家とは一体どなたですか!?そもそも釣ったとは!?」

「また世間を騒がせて一体なにがしたいんだあなたは!?」

「総理の言動には責任が伴うんです。経卒に過ぎるのでは?」

「総理!()()もやってください!その言葉に責任が持てるのなら!そうすれば民意により中継切断なんてマネよりしづらくなりますよ!」

 

 記者たちが色めき立つ中、筧は両手を胸辺りに上げて落ち着くように言う。

 

「皆さん、安心してください。しっかりと説明します。名前はとりあえず今の所は公表しません。世間を騒がす?おっしゃる通りです!それが狙いです。軽率かどうか、どうぞ最後まで見届けて下さい。そして()()、ですか…。えぇ、構いませんやりましょう。私の言葉がより国民の元に届くのならば、命など何度でもかけましょう」

 

 言った瞬間、会場は先程とは比べ物にならない程盛り上がった。

 歓声と雄叫びが記者から上がり、筧の関係者からは悲鳴と、反発の声が上がる。

 

「やめて下さい!総理!」

「SP!総理を取り押さえろ!」

 

 本来守るべき対象に、SPと屈強な魔石生物が動きを止めようと襲いかかる。


 それは無茶をさせない為であった。しかし

 

「止めんか!!」

 

 怒声に足を止める。

 止めたのは当の筧本人である。

 

「私の命は国に捧げた。邪魔をするのは許さん」

 

 右目を指差す。

 まるで縫い付けられたように開かない片目を。

 

「この片目はその誓いだ。私の本願成就までこれが解けることはない。…その手を離しなさい」

 

 渋々と手を下げるSPの肩を叩いて、ありがとう感謝をした後、襟元やネクタイを整える。

 

「すみません皆さん、お騒がせ致しました。しかし彼らも仕事でやっているのです。どうか悪く思われないように」


 何事もなかったように笑顔を作り筧は続ける。

 

「では我が相棒に登場願いましょう。来なさい、バラン」


 筧のネクタイのタイピンについた魔石がカッと輝く。


 その魔石生物は、人型の無機物種だった。


 背は低く、150cmもないだろう。


 全身がフルプレートアーマーに包まれているような、鎧の姿の無機物種。

 

 右手にはそれらしく身の丈以上の大剣を持ち、しかし左手には盾ではなく何故か天秤を持っていた。

 

 一見ただの無機物種だが、それは誤りだ。

 

 彼に戦闘力はないとされている。

 

 しかし、彼は最強の魔石生物として世界にその名を轟かせている。

 

 とある一面において、この魔石生物に敵うものはいない。


 誰も彼も筧本人でさえ、バランを欺くことはできない。

 

「ではバラン、早速だが私は今から話すことが真実であることを()()。命を賭けて」

 

 誓うと言う言葉に反応し、バランは天秤を掲げる。

 

「千年樹海“横浜”には若返りの果実が存在する」

 

 会場が見守る中、天秤が輝く。

 

 天秤には光と闇が乗っている。

 

 真実、虚言をその天秤は審判する。

 

 仮にその天秤が闇に傾いた場合、筧誠は右手の大剣によって断罪される。

 

 それがバランの唯一種としての特殊能力。

 

 偽りを許さぬ判定の天秤を持ち、誓ったことを違わせない能力を持った世界で唯一の存在。

 

 筧誠を短期間に首相にまで成り上がらせた特殊能力。


 自身の実力もあるが、彼の人気の秘訣の一つに数えられるのが、相棒の能力である。

 

 そして天秤は光に傾き、それが真実だと世界に知らしめた。

 

 怒号が踊る会場に、筧はスッと手を上げる。

 

 それだけで会場は静まり返る。

 

 一挙一動に視線が集まる。


 

 筧は完全に会場を支配していた。

 

 

「若返りの実の存在が発見されたのは10年前、とある魔石狩りによって発見された。その魔石狩りは狡猾だった。1人でその果実を独占奪取し、それを年老いた富裕層にばら撒いた。莫大な財産をあっという間に築き、尽きぬ欲望のまま走った男はとうとうその所業がエリアキングにバレ、欲望の始末をその命で支払うことになる。だが、ことはそれでは済まなかった」

 

 立体映像が出現する。

 

 千年樹海“横浜”の全体図だ。

 

「これは当時の横浜の全体図です。怒り狂ったエリアキングはエリア範囲を増大させた。しかしことが公にならなかった。それは千年樹海“横浜”の周囲が未だ再開発手付かず地域だったことが大きい。ひっそりと大胆にエリア侵食という行為は行われた」

 

 映像では緑が生い茂りエリアが一回り大きくなった。

 

「当然、警察と政府は協力し今後2度と同じことが起きない為に警備員の増員、警備システムの改善、様々な対策が行われた。だがそれでも人の欲望には敵わなかった。雇われた犯罪崩れの人間が警備システムを突破し大量の果実が奪われた。激怒したエリアキングはさらにエリアを広げた」

 さらに広がったエリアは今現在の横浜の姿を映した。

 

「隠しきれなかった政府はエリアの侵食ではなく、木々が生い茂って広がっているだけだと虚言を世間に向けて発表。さて、何故嘘の情報を流したか分かりますか?答えは若返りの実が知られるのが困るからです」

「隠蔽だ!」

「汚職だ!」

 

 すっかり筧の弁舌に呑まれた記者達は、憤りを言葉に乗せる。

 

「そう、隠蔽です。しかし、一面から見たら一つの正解であることを私は賛同します。何故ならこの事実が世界に伝わったらどうなるでしょう?日本だけではなく世界から人が集まり狙われることは間違いありません。()()()()()()が掛かろうとも、お金よりも若さという人類が夢見た果実(欲望)が目の前にある。その事実に目の色を変えない人がいないわけがない。その場合先の事件はもっと早く、そしてもっと甚大な被害を生んでいたことは間違いありません。だからこそ嘘の発表することを当時の権力者達は決めた」

「それが腐敗に繋がるんだ!」

「慧眼です。真実を知り泣く泣く黙り込んだ真面目な権力者の裏で、欲に目が眩んだ権力者は狡猾に動きました。一月に少しずつ果実を奪取する計画を実行し成功させた。警察内部にも協力者を見つけた。多くの欲望を産み、惹きつけそして、今回3度目の事件を引き起こした」

 

 悔しそうに筧は口を一文字に結んだ。

 

「歴史は繰り返す。人は学ばない。今回の事件はその証明でしょう。悪の花が咲き、善は養分となる。……ですが、いつの時代にも光はあります」

 

 筧はこの会見で初めて穏やかな笑みを見せた。

 

「今回、エリアが広がらなかったのは何故か?侵食を水際で尽力した警察、自衛隊各位諸君のおかげなのか。エリアキングとレイドボスを相手取った淡墨恭介のおかげなのか。――事実はそのどちらでもありません」

 

「「「?」」」

 

 会場がポカンとする中、筧は悪戯が成功したような顔をした。

 

「この事件には未だ語られていない重要人物が1人います。その人物は未だ魔石狩りではなく、しかしその優秀な能力により仮免としての資格を与えられ淡墨恭介とチームを組んでいた。そして」

 

 騒がないでくださいね、と口元に人差し指を一本立てて


「英雄“ナナシ”の弟子の1人です」

 

 今度こそ会場は収集のつかない大騒ぎとなった。

 

 口々に質問を寄せられる中、筧はまぁまぁと両手をあげて落ち着いてくださいと言いながら続ける。

 

「今回のこの情報も“ナナシ”から提供されたものです。だからこそ私は命を賭けました。それに値すると思ったからです」

 

 日本に“ナナシ”に感謝してない人間などいない。

 

 まして“ナナシ”の弟子といえば、千野洸の再来とも言える。


 降って湧いた新たな英雄に日本中が騒めいた。

 

「淡墨恭介がレイドボスを倒したのは事実です。しかしエリアキングを打倒したのはこの少年です。そしてそれだけではなく、レイドボスの能力によって操られていたエリアキングを救った。エリアキングはそれを感謝を示し、エリア侵食を止めて、大量の若返りの実を謝礼として彼に渡しています」

 

 歓声が上がるのを、未だ早いと筧は止める。

 

「驚くのは早いですよ皆さん。彼はその実の権利を放棄し政府に、研究者に委ねてくれました。少人数の利益ではなく、未来の人類皆が享受出来るように研究して欲しいと!」

 

 会場のボルテージは最高潮に登る。

 感動した記者が是非にともう1人の英雄のことを筧に尋ねた。

 

「その少年の名前は?」


 

 筧は優しく笑い首を振る。

 

「その名は――ここで語るのは野暮でしょう。彼の名はきっとこれから世界を席巻していく。私はそう確信しておりますので」

「総理!それはあんまりです!」

「せめて年齢、どこに住んでいるかだけでも!」

「外野から何かするのは早いです。彼はまだ英雄の卵です。見守りましょう!さて、それでは質疑応答に…」

 

 そこに秘書官が筧にコソコソと何かを言った。

 

 それを聞き目の色を変えた筧が壇上で頭を下げた。

 

「すみません、緊急の要件が入りました。話の途中で申し訳ないが、失礼させて頂きます」

 

 不満の声が上がるのを、筧は苦笑しながら諌める。

 

「質疑応答には別の者が応答してくれます。では」

 

 未だ歓声に揺ぐ会場に、筧は颯爽と背を向けて会場から出る。


 秘書官から水を受け取り、ネクタイを軽く緩めながら廊下を歩く。

 

 その歩みは最初は急いでいるように早かったが、徐々にスピードを落とす。


 最後にはもはや性急さはなく、緊急の要件はなんだったのかと思わせるゆっくりとした歩みだった。


 

 スピードが落ちるに連れて、さっきまでの清廉された空気は薄れ、威圧感が増していく。

 

 そのまま廊下を真っ直ぐ歩いていくと、突き当たりの飾り細工が施された木目調の扉にたどり着いた。


 その扉を筧はノックもせずに乱暴に開けた。

 

 部屋の広さは30畳程あり、中は豪華絢爛の調度品が所狭しと並べられていた。

 

 そのど真ん中にある高級な柔らかいソファーに初老の男がいた。

 

 その柔らかいソファーに身を預ける訳でもなく、男はこじんまりと座っていた。

 

 その対面に臆すことなく筧は座る。

 

「おお!柔らかいですね、このソファー!私も欲しいな!ははは!」

 

 無邪気に言う筧に、初老の男は苦虫を何匹も噛み締めたような顔で睨む。

 

「このソファーにそんな座り方はもったいない。この部屋はあなたのモノなのだから堂々と座ればよろしいのに。それにしても素晴らしい部屋ですねぇ。あ、あの絵なんか凄い高そうですね。昔友人が泣く泣く手放したものと似てます。あの壺なんか盗品で一時期世間が騒いでいたものに似ていますねぇ。はてさて、一体いくらするんでしょう。羨ましいものです」

 

 初老の男は首をガックリと落とした。

 

 どこまでこの男は知っているのだろうかと膝が震えてくる。

 

 この男には敵わないと知らしめられたからだ。

 

 先程の会見でも。

 

 今現在進行形でも。

 

――役者が違う。

 

 首を落としたまま、初老の男は言う。

 

「何が望みだ」

「望み?望みですか?そうですねぇ…」

 

 さっぱりと晴れた顔で筧は言った。

 

「特にありません」

「……は?」

 

 手を顎に当て強いて言うなら、と続ける。

 

「今絶賛、この状況はLIVE中継されています。もちろん極一部の人間にしか配信されていませんよ、あなたのよく知る人達です」

 

 そして筧は今気づいたかのように言う。

 

「あ、さっきの会見の名前のこと気にしてます?安心してください、貴方達の名前は公表しません。なので大いに私に恩義を感じて下さい。恩恵を期待していますよ」

 

 ちゃめっ気たっぷりにウィンクをして筧は言う。

 

「しかし、私も人間ですから。どこかで口が滑るかもしれません。どうやらあまり歓迎されていないようですからお暇しましょうかね」

「……小僧、2度は言わん。何が望みだ?」

 

 これでも欲望と悪意の巣窟で頭を張っていた男だ。


 開き直り自身のプライドを取り戻したのか、ソファーに座り直し厚顔にも上からものを言う。

 

 しかしそこには年季を窺わせる貫禄があった。

 

 物を言わさぬ圧があった。

 

「――なんだわかんねぇのかよ。耄碌(もうろく)したかよジジイ」

 

 しかしそんなものは筧にはなんの影響もなかった。


 ため息を吐き失望した筧は、顔から笑みの消して容赦なく吐き捨てる。

 

尊厳(プライド)捨てて俺に(くだ)るか、尊厳(プライド)と共に心中するか選べって言ってんだよ。見てるお前らも含めてな」

 

 目の前の男と、中継を見ている人間達に筧は問う。


 

「さぁ、選べ」


 

 冷徹に、無表情に相手に最終宣告を言い渡す。


 

 この日、世間が新たな英雄で話題が持ちきりの中、ひっそりと誰も知らぬまま巨悪が失墜した。


 

 

 表では民衆を魅了し、裏では悪人が(ひざまず)く。


 


 これが現代の日本の首相(トップ)筧誠(かけいまこと)である。

 

魔石生物による装備品



それらは、敵性魔石生物からは取れない。

倒したら彼らはチリに帰るだけだ。

なので今我々を支えているその全ては、パトクリから作られている。

フカフカの鳥タイプのパトクリからつくった布団はフワフワのふっかふっかだし、グルーミングした毛から作られた衣服は丈夫だったりする。

つまり、魔石生物の残したものには価値がある。


それを捨てるなど、勿体ない!!

是非、リサイクルと言えば我が社!歯車社をご訪問下さい!

勿論連絡を頂ければこちらから伺い査定致します!

貴方のパトクリの残したもので、お小遣いゲット!


参考文献

くるくるくるくる歯車車ホームページ

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