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VSレイドボス④

 クロの困惑を見て、陽太はさらに救助の思考からスイッチを切り替える。


 戦闘用の思考に。


――まだ終わっていない。

 

 何度もクロの勘の良さに救われてきた陽太にとって、疑いようのない事実だった。

 

 今日は何度も安堵と危機の行ったり来たりを繰り返したが、恐らくこれで最後だろう。

 

 陽太は目を見開いて今見える全ての情報を得る。

 

 きっと時間はそんなに残されていないはず。

 

 もし何かしていているとしたらレイドボスだからだ。

 

 考えろ、考えろ。

 

 思考を研ぎ澄ます。

 

 全神経を脳に集中させろ。

 

 この瞬間に今残っている集中力を、全生命力を、己の全てを注ぎ込め。

 

 アイツが消えたらもう終わりだ。

 

 きっともう、間に合わない。

 

 息をするのすら忘れるほど陽太は全神経を集中させる。


 指の一本すら動かさず、瞬きを忘れ目が渇き痛み出しても気付かないその集中力は、今日一番の冴えを魅せる。

 

 少しずつ消えていくレイドボス。


 その顔は驚愕で止まっている、ように見える。

 

 その近くにはシンラ。


 最後の一撃で力を振り絞ったのか、子猫状態になり動かない。


 今すぐ駆け出したい気持ちをグッと堪える。

 

 そして恭介は大剣に両手を付いて、膝立ちをして荒い息を繰り返している。

 

 2人は現状で既に命の危険にある。


 今すぐ2人の安否を確認しに行きたいのが陽太の本音だ。

 

 助けに行くべきだ、今すぐにでも。

 治療をしなければならない。


 クロは2人の安否を危機感として抱いているのか?

 いいや違う。

 

 そんなことならばクロは駆け出しているはずだ。

 

 違うならばならば切り替えろ。

 

 思考を回せ。

 早く早く!

 

 今やらなければならない、時間が経過したら取り戻せない過ちがあるはずだ。


 クロはそれを敏感に感じ取って、しかしそれがわからず困惑している。

 

 その仮定の上で思考を回せ。

 

 少しずつ身体を崩して、この世から消えていくレイドボスを見ると焦燥に駆られる。


 早く答えを出さなければ!陽太は焦り、そして、いや待てと思考を戻す。

 

 何故レイドボスはすぐに消えない?

 

 普通の魔物は倒したら5秒足らずで塵となって消えていく。


 レイドボス特有のイベントというか、演出か?


 いやだったら既に討伐報酬が出ているのはおかしい。


 出現するのであればレイドボスが消えてからのはずだ。


 実際に“ボス部屋”も少しずつヒビが入り空からは光が差し込み始めている。

 

 だとしたら何故消えない?

 何かを待っている?

 何を?

 

 そこに答えがあるように思い、陽太の思考はぐるぐると回る。

 

 そして。

 

 ()()を一番初めに思いついたのは、直感とも言えるが、印象に残っていたからだという理由の方が強い。

 

 生まれて初めて入ったエリアで、生涯忘れることのないそのエリアの特徴は





 “毒”




 

「石を使えぇえ!!」

 

 反射的に答えを出した陽太は叫ぶ。

 

 そう毒、毒だ!

 

 それならば説明がつく。


 外傷が見えないのにシンラが倒れている原因、そして恭介もその毒に侵されている可能性がある。

 

 その毒が回るのを、あのレイドボスは待っているんじゃないのか?


 恭介達の最期を見届けるのを。

 

 粘着質な笑みを浮かべ、時間をかけて恭介達を殺そうとしていたあのボスならば有り得る。


 死ぬならば皆諸共と考えているとしか思えない。

 

 陽太はクロに飛び乗る。


 陽太が乗るのをしっかり待つ事もなく、今度こそクロは走り出した。

 

「“願いの石”を使え!!」

 

 ボイスチャットを起動して陽太は再び恭介に叫ぶ。

 

「シンラが毒に侵されてるぞ!今すぐ石を使え!!」

 

 陽太の声が届いたのか、恭介は緩慢な動作で石に近づく。

 

 本当に限界を超えているのだろう、恭介は地面を這うように移動している。

 

――間に合え!間に合え!!

 

 陽太も急ぎ近づいていくが、しかしそれは動く。

 

 身体を半分にされた状態でなお動いた。

 

「ぎぎぎいいいい」

 

 理解できぬ声を上げて、レイドボスは恭介の動きを阻もうと動き出す。

 

 それはさせないと。

 

 コイツだけは道連れにするとでも言いたげだった。

 

「クソッ!クソッ!!」

 

 少しでも距離をつめるべきだった!

 

 動きを止めるべきじゃなかった!

 

 クロに乗って近づきながら考えるべきだった!

 

 そんな余裕はなかったが、しかし結果的に間違った判断だったことに陽太は自分への苛立ちを隠せない。

 

 だってあともう少しで、届くのに!

 

 陽太の願い虚しく、レイドボスは不格好に這って恭介に近づく。


 下卑た笑みを浮かべ笑っている。

 

「ぎっぎっぎー」


 そして恭介に覆い被せるようにしたところで

 

「ぎ?」

 

 レイドボスは地面から串刺しにされて動きを止めた。

 

 陽太は遥か後方に目を向ける。

 

 そこには傷だらけのエリアキングがいた。

 

 身体中がボロボロで、しかし真っ直ぐ堂々と立っていた。

 

『げきょ』

 

 届きはしない距離で、しかし陽太は聞こえた気がした。



『借りは返したぞ』と。


 

「ハハッ!ナイス!エリアキング!!」

 

 陽太は後方に向かって叫び、そして一際高く声を上げて言う。

 

“氷結”(フリーズ)!!」

「ホウ!!」

 

 陽太が最初に叫んでからすぐに飛び立ったシロが、射程圏内に間に合った。

 

 レイドボスの身体は瞬く間に凍っていく。

 

「ギィィィ!!」

 

 凍りついたレイドボスを尻目に、シロは願いの石を足で掴み恭介の元に置いた。


♦︎♢♦︎♢

 

 酸欠で意識は曖昧だ。

 

 視界は霞み、クラクラと揺らめく。

 

 身体はあまりにも重く、もう一歩も歩けない。

 

 身体中が熱く内から燃えているかのようで、指先が痺れている。


 酷い(やまい)にでも罹っているかのようだ。

 

 もう本当の本当に限界だ。

 

 陽太が何か叫んでいるのが聞こえるが、脳が理解を拒んでいた。

 

――もう良いだろ。少し休ませてくれ。

 

 しかしそれでもその声はハッキリ聞こえた。

 

「シンラが毒に侵されてるぞ!今すぐ石を使え!!」

 

 シンラ?

 

 シンラ!!

 

 惚けた頭が一瞬で覚醒する。

 

 顔を上げると、レイドボスの近くで力無く倒れているシンラがいた。

 

 消えかけた魂に火が燃える。

 

――死なせない!

 

 もう身体は言うことをちゃんとして聞いてくれない。


 ならば這ってでも向かう。

 

 泥に塗れても、身体が言うことを聞かなくても、少しづつでも前に進む。

 

――もう2度、家族を奪わせはしない!!

 

 限界なんて何度だって超えてやる。

 

 その一心で恭介は(もが)く。

 

 すると手元にはいつの間にか、虹色に輝く通称“願いの石”があった。

 

 恭介は震える声で願いを告げる。

 

「シンラを、助けてくれ」

 

 石が虹色に輝く。

 

 石は空に向かって一筋の光を放った。

 

 そして虹色の光の雨が大地に降り注いだ。

 

 キラキラと。

 ランランと。

 

 その光が徐々に集まりとある形を成していく。

 

 それが砕け散るとそこには宙に浮かぶ海月(くらげ)がいた。

 

 それはフワフワと空を飛びシンラに近づくと、優しく虹色に輝いた。

 

 光ったのも束の間、シンラは目を覚ましキョロキョロ辺りを見回した後、恭介の方へ向いて「にゃ」と鳴いた。


 海月はシンラを何本もある触手で掴んで、フワフワと空に浮かび、恭介の元にそっと置く。

 

 恭介が撫でると

 

「ゴロゴロ」

 

 と喉を鳴らして嬉しそうなシンラがそこにいた。

 

「はははは」

 

 場違いな光景に恭介は思わず笑ってしまう。

 

 海月は今度は恭介に触れる。

 

 温かい光が恭介を包む。

 

 たちまち視界は正常になり、身体中の熱さが薄れ、痺れがなくなっていった。

 

 海月は何か言いたげに恭介の前でスイスイと空を泳いでいる。

 

 最初は何かわからなかった恭介だが、言いたいことを理解した。

 

「助けてくれてありがとう」

 

 恭介は海月の頭らしき所を撫でる。

 

 すると海月はプルプルと嬉しそうに震え、恭介にもっともっととせがんでいるようにも見える。

 

「うん、本当にありがとう。君のお陰で助かったよ」

 

 より激しく震える海月に苦笑し、プニプニした感触を感じながら右手で撫で、膝に乗ったシンラを左手で撫でる。


「にゃおん」

 

 シンラが頭上を見て何か言う。


 

 空の闇は晴れて、青い空が見えている。



 

 雲一つのない快晴だった。

魔物同士の争い


魔石生物はご存知魔石と言う核からなる生物だ。

ならば魔石生物同士で争うことがあるのでは?と言う疑問も出てくるのは当然の話。

答えを先に言うとそれはない。

魔石生物は互いの、少なくともパートナーの人間のいる魔石生物を奪うことはしない。

例え飢えていても、することはない。他人から所持をしている魔石を奪うことは少なからずあるが、パートナーのいる魔石生物を殺してその核を食べようなどとは絶対にしない。

これは実証されている。

魔石生物は、とても愛情深い。情に満ちている。

だからこそ、パートナーのいる魔石生物から奪うことは考えない。これが現在の人類の答えだ。

パートナーがいるならば奪うことはない。が、いなければ奪うと言うことでもある。

“シンボルエリア”内では、相手の命を奪い、それを喰らう。

敵には容赦はしないのが魔石生物でもある。

唯一例外があるが、それのみだと断言しても良い。



参考文献

魔石生物の食物連鎖

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