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VSレイドボス③

誤字報告ありがとうございます!

「恭介ぇぇぇえ!!」


 ボンヤリとする意識の外から、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

 ハッと意識を覚醒し、抵抗を再開する。

 

 レイドボスはそれを嬉しそうに笑う。


 その笑顔に心底腹が立つ。


 この怪物の掌で踊っていたことを恭介は気付いてしまったからだ。

 

――コイツ、知ってやがった。

 

 恭介の戦い方、思考パターンを。

 

 そしてシンラの特殊能力を。

 

 最初からまともに戦うつもりなどはなかったのだ。



 

――変わり身(ダミー)と戦わされていた。



 

 

 数分ほど時を戻す。

 

 紳士服を着たネズミを、その不気味さからレイドボスと断定してしまっていた。


 実際に“|来るもの通さず去るもの逃さず《ボス部屋》”を出現させたし、恭介達の目の前に現れた時の恐ろしさや悍ましさの演出は、レイドボスと疑うことすらなかった。

 

 あの状況で偽物がいるなど思いつきもしなかった。

 

 疑念が無いわけではなかった。

 

 それは余りにも弱すぎたことだ。


 ボスと名乗るには風格は確かにあったが、強さが伴っていなかった。

 

 その弱さに落胆すらしていた。

 

 だが今は陽太と一緒に家に帰ることを最優先した恭介は、その疑念を脳から追いやった。


 早く陽太の加勢に向かいたかったし、レイドボスを倒したら“|来るもの通さず去るもの逃さず《ボス部屋》”は解除される。


 最悪エリアキングとは戦わなくても済むと考えていた。


 だからこそ、恭介は本気を出す。


 圧倒的な強さを見せて、恭介はネズミの首を容赦なく跳ねた。


 血飛沫を上げて力無く倒れたネズミを前に、恭介は少しの憐憫を感じ近づいた所に、その()()()()()()

 

 破裂した肉体は散り散りになるどころか、塵の様に、霧の様に、空中を舞った。

 

――これは浴びてはいけない。

 

 数多(あまた)の経験から瞬時に判断し離脱を試みるが、恭介の足には何かが巻きつき逃げることが出来ずにその霧を全身に浴びてしまった。

 

 途端に、シンラが変身を解き地面に倒れ伏した。

 

「シンラ!?」

 

 思わず駆け寄ろうとする恭介に、それは巻き付いてきた。

 

 そしてそれは姿を現す。

 

 一見蛇のような細長い生物だった。

 

 しかし鱗はなく、つるりと黒光りした肌は硬いゴム製品のようだ。


 太さは恭介の胴体ほどもある。


 これほどの存在感を先程まで一切感じさせなかったのだから、正しく怪物だった。

 

 長さは10メートル以上あり、顔に当たる場所には人間に似た顔がついている。


 が、目もなく耳もない。


 のっぺりとした顔には口だけついており、その口は歪んで嗤っていた。


 あっという間に恭介の首を絞めると、さらにニンマリと口を歪ませる。

 

 そして恭介は気付く。自分が戦っていた相手が変わり身(ダミー)であったことに。

 

「くっ」

 

 苦しそうにする恭介を見て、それは声を出して笑った。


「ギゲゲゲゲゲ!!」

 

 その声はおよそ人の理解出来る音域ではなかった。

 

 真綿で首を絞める様に、ゆっくりと、じっくりと恭介の首を絞める。

 

 少しでもその足掻きを見たいが為に。

 

 壊れていく様子を楽しむ為に。

 

 おもちゃで楽しむ子供のように。

 

 邪気など一切ない、無垢な悪意。

 

 その時ようやく恭介は気付く。思い至る。

 

――“毒”か!

 

 アーマー種のシンラに本来“毒”は効きにくい。


 しかし、全てを攻撃に変換したこの形態(フォーム)は別だ。

 

 ボスは知っていた。

 恭介の戦法を。

 

 ボスは見透かしていた。

 シンラの弱点を。

 

 恭介とシンラは監視されていた。それもおそらく長い間。

 今日久しぶりに“変形、開始(トランスフォーム)”を使った。


 恭介達にとって必殺技と呼べる技だ。

 

 おそらくそれを見られた。

 今日変身したたった2度の変化で全て看破された。


 流石はボスと称賛するには相手が醜すぎる。

 

 そしてこのボスの能力。


 それは()()()()()()()()()だろう。


 しかもエリアキングすらも操ることの出来る強い能力。


 それがレイドボスの能力だと恭介は確信した。

 

 変わり身をするレイドボスがいるなんて聞いたこともない。

 恐らく標的(ターゲット)に応じて戦い方(魔石生物)を変えて確実に始末してきたのだろう。


 だからこそこのレイドボスの情報が世界に出回っていない。

 

 陽太の呼び声で意識を取り戻した恭介は、酸素が足らずに回らなくなってきた頭で思考する。

 

――コイツだけは絶対に始末しなければならない。

 

 今後どれだけの悲劇を生むのか、どれだけの屍を重ねてきたのか、どれだけの涙を啜って生きてきたのか。

 

 そしてなにより、自分が死んだら相手をするのは陽太になる。

 

 許せない。

 そんなことはさせない。

 

 想像すればするほど、(はらわた)が煮え滾る。


 しかしどうする?

 

 首を絞められ、宙吊りにされた状態で何が出来る?

 

 恭介は残された少ない時間を使って光明を探す。


♦︎♢♦︎♢


 陽太が叫ぶと同時にクロが駆け出した。

 

 同時にシロが弾丸のように飛び立った。

 

「ヴォォォォン!!」

 

 激しい雄叫びを上げながらクロが全速力で走る。

 

 少しでもこちらに注意を向かせるためだ。

 

 その必死のクロの行動にナイスアクションだと思いつつ、陽太の頭の中の冷静な部分が答えを出す。

 

 残酷な真実を。

 無情の現実を。

 

――間に合わない。

 

 望遠アプリを起動して状況は鮮明に見えているが、恭介の位置まではまだ200m以上の距離がある。

 

 首を絞められて宙吊りにされている恭介の命は、あの蛇のような生物の掌の上だ。

 

――ふざけんな、ふざけんな!!

 

 冷静な頭の答えを、感情が激昂して否定する。

 

――そんな現実受け入れてたまるか!

 

 あの生物が何なのか、ネズミはどこに行ったのか、そんな問題は現状において些事だと脳裏から追いやった。

 

 頭の中であらゆる手段を模索する。

 

 クロの“炎弾”。


 いやクロが出せない。

 出せたとしても恭介を盾にされ、最悪の結末があり得る。

 

 既に先行して飛んでいるシロの“氷結(フリーズ)”。


 シロの射程圏内にはまだ遠い。届く前にその命は絶たれる。

 ならば遠距離からの狙撃の“氷弾(ショット)”。


 可能ならばシロがとっくに行動に移しているはず。

 つまりこの距離からは無理だとシロが判断している。

 

 瞬きの間に幾つもの案が生まれ、そして否定される。

 

 はやる心を抑え、歯を食いしばりながら思考を回す。


 あとたった150mの距離にある命、しかしその命は風前の灯火(ともしび)だ。

 

 最初はもがいていた恭介は今や両手両足をダランとさせていて、猶予がもう幾許(いくばく)もないことを陽太に思い知らさせる。

 

――何か、何か手はないのか!?

 

 焦る陽太は必死で策を巡らせるが、その時初めてレイドボスがこちらを見た。

 

 そしてニヤッと嗤う。


「やめろぉぉぉおおおお!!!」


 思わず陽太は悲痛な叫びを上げる。

 

 あと10秒もかからず届くその距離は、あまりにも遠い。

魔石は何故落ちているのか


それは魔石生物の食糧の為だと言われている。

一応ゲームの設定では、シンボルエリアにおいて魔力の濃い所で発生すると言う設定だ。

その設定の説明によると、魔石とは魔力の塊の結晶体だと説明されている。

そしてそれは魔石生物のおいて食糧であるため、それを奪いにくる人間はただの敵でしかない。

そのため人間は見つけ次第攻撃されるし、そのパートナーの魔石生物も侵入者として迎撃される。

つまり、我ら人間は彼らから見れば密猟者であり、殺して当然なのかもしれない。

“魔石狩り”になるに当たって、彼らから命を、食糧を奪う者であると言う認識は必要だと私は思う。


参考文献

食糧としての魔石、命の魔石

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