”連携必殺”
実際嬉しかった。
2人の頼もしさが。
彼らがいればどんなフォローでもしてくれると軽率に確信してしまうくらいに頼もしかった。
そして、1人で戦ってはっきりとわかったことがある。
自分は魔石狩りに割と向いている性格をしているということだ。
前に恭介に言われたことがあった。
『魔石狩りは、普通の人間では務まらない。戦いを楽しんだり、命を奪うことに躊躇のないズレている人間の方が向いている。この職業において優しさとは命取りだ』
それは喉元につっかえるように陽太の中で燻っていたが、ようやく飲み込むことが出来た。
今、心臓がバクバクと身体を揺らすくらい脈打っている。
命の危機から逃げ延びた安心感と、そして充足感。
命の取り合いの戦いの中、生き抜いたという実績は知らず知らずに陽太の口を歪めた。
――あぁ、良かった。自分がズレている人間で。
陽太は心底思う。
――魔石狩りに向いていて、良かった。
陽太は立ち上がり、軽く埃を払う。
目の前の敵は陽太を逃したのが苛ついたのか、周りの木々や花々に八つ当たりをしている。
思い通りにいかなかった子供の癇癪に似ていた。
それを見て疑念は確信に変わる。
レイドボスに操られているのはもう間違いがない。
でなければ綺麗な花の群生地を鞭で殴り、その花を無惨に散らすことはしているはずもない。
自分の領地を台無しにされて激怒していたグリードプラントとは似ても似つかない。
チラッとクロを見ると、その口の炎は白く変色していた。
「第二ラウンドは必要なさそうだな。準備万端じゃん、クロ」
「ぐる?グルル!」
何が?あれ、本当だ!と1人コントをしている。
どうやら自分でも白く変色したことに気付いていなかったらしい。
熱さもそれほど感じていないようで、どうやらクロは一つ壁を越えたらしい。
だがやはり辛いのか身体の動きは重いし、足に震えがきている。
クロが全身全霊をかけているこの攻撃を、必ず成功させなければならない。
その献身に報いなければいけない。
陽太は敵の後ろに指を指す。
「シロ!水球準備!」
「ほう!」
クロの現状においての最高出力だ。
罷り間違って倒すわけにもいかないし、飛び火して火災になっても洒落にならないの。
なので2つの意味で保険をかける。
「クロ、狙いを定めろ!」
「ガルゥ!」
水球が出現したのを見た後、陽太は指していた指をゆっくり落として敵を突きつける。
「悪いな、グリードプラント。手加減の余裕はない、死ぬなよ」
「げきょ」
呟くように言った言葉は届いたのか、グリードプラントはおう、と頷いたように陽太には聞こえた。
「“白炎弾”発射!」
「ガルァア!!!」
クロの口が放射された白い火炎は1m程の直径で、真っ直ぐグリードプラントに向かっていく。
力を使い切ったのか、クロは一瞬輝くと省エネモードの子供姿になってしまっていた。
文字通りクロの全力をかけたその一撃は、目の前にまで迫って
「げきょ!?」
グリードプラントの驚きの声と共に躱されてしまった。
グリードプラントはあろうことか跳んだ。
幾重もある根をバネのように使い、その巨体を見事持ち上げて跳躍した。
――あぁ、そうやって跳んだのか。
陽太はまるで第三者のようにそんなことを思った。
軽く10mは跳んだその下を、火球はなす術もなく過ぎ去る。
クロの全身全霊の攻撃は無為に帰そうとしていた。
しかし
「連携必殺!」
「ほほう!」
陽太は乱暴に叫び、シロはそれに応える。
クロを右手で抱えて、隣で飛んでいたシロを左手で抱え、予め予定していた側にある瓦礫の中に飛び込んだ。
謎の行動をとった陽太にグリードプラントは首を傾げるが、すぐに氷解する。
グリードプラントの下を潜った火球は、何にも当たることなく通り過ぎていったが、しかしそれは突如破裂した。
クロには火球を爆発させる能力はない。
ならば何か?
シロの水球だ。
陽太の保険がここに生きる。
♦︎♢♦︎♢
その技が生まれたのは陽太の興味本位だった。
水球と火球をぶつけたらどうなるのかという実験。
強い火力と大量の質量を持つ水。
それは思わぬというより、予想を遥かに越えた威力を誇り、目の当たりにした淡墨が唖然として口を開き、滅多なことでは使用禁止とキッパリ宣言した。
その爆発の威力と、そこから発生させる超高温の水蒸気は、生物であればひとたまりもない。
故に、必殺――
落下した水球は、火球とぶつかり合いそれはとある現象を起こす。
水の体積を爆発的に千倍以上にも膨らませる現象。
その名も
「“水蒸気爆発”」
ドォン!!
激しい爆発音が響く。
「ゲキョォオオオオオ!!?」
悲鳴のような叫びと同時に陽太の元へ爆風の衝撃が届く。
「ぐっ」
2体を抱えて身体を丸くして、瓦礫を背にしても轟音のような衝撃と爆音が陽太から聴覚を奪う。
嵐のような衝撃が過ぎるとキーンという耳鳴りが陽太を襲う。
そんなことより状況はどうかと、陽太は砂埃だらけになった身体を起こす。
そして脱力する。
「げ、げきょ」
身体中の至る所が高温の水蒸気に晒されて溶けているが、この領域の王は未だ健在だった。
陽太は思わずため息を吐く。
「王手にはまだ未熟か」
かなりの爆発であったはずだが、所々千切れていたり、溶けていたりとかなり痛々しい姿ではある。
「でも無事で何よりだよ、グリードプラント」
「ゲキョ!!」
どこがだ!!と怒る王は、立ち上がる元気はないようで、その場に身体をへにゃへにゃにして倒れている。
しかし茎の鞭をパチパチとしながら陽太に抗議してくるので、どうやら身体の主導権は取り戻したらしい。
そんな動作が不気味でそしてどこか滑稽で陽太はクスリと笑う。
花の咲いた巨大なタコが森にいるというイメージをしてくれればその異質さが伝わるだろうか。
そんな生物がペチペチと鞭で地面を叩いているのだ。
陽太は可愛らしさすら感じてきていた。
ひとしきり静かに笑ったあと、陽太は大きくため息を吐いた。
「正直倒すぐらいのつもりでこっちはやってたんだけどなぁ」
残念そうにいう陽太に
「ほうほほう!」
勝ちは勝ちだ!とシロが言い
「うぉん!」
クロがそうだそうだと同調した。
「あぁ、そうだな」
3人は互いにハイタッチを交わし、
「俺達の勝ちだ!!」
「ほう!!」
「ばう!!」
勝鬨を上げた。
「だけど、終わってない」
陽太は頭上の闇を睨みつける。
未だレイドボスは健在らしい。
「クロ!俺を乗せて走れるか?」
クロに更なる鞭を強いることになるが、今は一分一秒を争う。
一刻も早く恭介の状態を知りたい。
カッと輝くとクロは進化した姿で現れる。
「ガル!」
乗れ!と頼もしい台詞を言うクロに陽太は遠慮せず乗る。
今はクロの精一杯の強がりに甘えるしかない。
生きて帰る為に。
「悪いけど置いていく!大人しくしてろよ!」
振り向き様にグリードプラントに声をかける。
返事を聞く余裕はなかった。
少しでも早く加勢しなければならない。
相手はレイトボス。
人類の敵と称される怪物だ。
そうして。
クロが必死に駆けた先に見えた光景に、陽太は叫んだ。
「恭介ぇぇえ!!!」
視界に映ったのは首を掴まれ宙吊りにされた恭介と、その近くに力無く倒れたシンラの姿だった。
陽太の疑念
こと真面目な場において、シロの知力は僕を遥かに超えます。最適な判断を導き出す能力と、冷静さは凡百を凌駕しているように見受けます。
例えば僕らが実験のつもりで行った水蒸気爆発は、本来ならば火球が瞬時に消えて爆発すら起きないはずです。もしくは水を火球が貫くはずであんな爆発現象は起きないと思います。
もちろん魔石生物は人間の物理や科学を飛び越した存在ですので一概には言えません。
恐らくシロは気付いていないでしょうが、シロが無意識に水を元素に変換しているのではないでしょうか?
“水素”に。
だから本来起こしている現象は“水蒸気爆発”ではなく、“水素爆発”。
シロは水の状態変化の能力を持っているのではなく、水素を操る能力である可能性を憂慮し、念の為霧島先生に報告します。
これから能力を検証していくので、また何かあれば報告します。
追加報告①
すいません、真面目な時以外アイツバカすぎて能力の解明が進みません。しばらく時間をください。
追加報告②
シロに将棋で勝負して勝ったらちゃんとやってくれるって勝負したんですけど、負けました。先生は将棋が強いと聞いたので今度勝負してあげてくれませんか?能力解明の為にもお願いします!
追加報告③
…先生、どうして負けちゃったんですか?
シロの能力解明についてのレポート




