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憧れたその背中③

「まさかあの重力エリアに飛行種がいるとはね」

 

 霧島が洸達が持ち帰って来た情報を見ながら言う。

 

「いや先生、本当に恐ろしかったですよ。隣のバカはケタケタ笑ってましたけど」

「はっ!お前がビビりすぎなんだよ」

「上空から弾丸より早いスピードで落ちて来てビビらない奴いるか!」

「無傷だったんだから良いじゃねぇか」

「そう言うことじゃない!てか、なんであんた“雷刃”使わなかったの!?あの降り注いでくる鳥の群れを前に笑いながら逃げてるなら“雷刃”で一掃出来たでしょ!?」

「そうか。これは教えてなかったか、恭介」

 

 不意に見せる真面目な表情に、淡墨も居住まいを正す。


「覚えておけ、恭介」

 

 洸は胸の髑髏のアクセサリーを握りしめて

 

「切り札ってのは隠しておくもんなんだぜ?」

 

 不敵に笑ってそんなことを言った。

 

「……もしかして、あの時もそんな理由で使わなかったんですか?」

「あったりまえだ!!あんな雑魚雷刃が出るまでもねぇ!」

「……ちなみに、なんで隠しておくんですか?なんか制限があるとかなんですよね?そうですよね?」

「あ?んなもんねぇよ。隠しておいた方が格好いいからに決まってんだろ?浪漫だろ!?」

「ふざけんなバーカ!!」

「あでぇ!!」

 

 渾身の淡墨の右ストレートが炸裂する。

 

「テメェ恭介!いきなり何しやがる!?乱心か?」

「真っ当な乱心だ!命かかってんの!正気ですか!?」

「あんなぁ恭介」

 

 大した威力が出なかったようで、洸はやれやれと両手を上に上げた。

 

 しかしその後に放った言葉は重みがあった。

 

「あの程度、命の危機じゃねぇ。そうだろ?」

「いや、結果としてそうだっただけで」

「そうじゃねぇぞ恭介。あのレベルの魔物は別に俺らの敵じゃねぇ。例え攻撃を喰らっても大した怪我は負わない。驚いたとか、恐れとかはあってもそれはピンチじゃねぇ。実際その後ボコボコにしてやったろ?」

「まぁ、その通りなんですけど……」

「いいか恭介。エリアで起こること全てがピンチな訳じゃねぇ。もっと冷静に対処、判断、決断をしろ。度胸をつけろ。ビビってばかりじゃいつまで経っても成長しねぇぞ」

「……すみません」


 突然の正論に淡墨はしゅんとして頭を下げる。

 

「そのビビリ癖、もう少しなんとかしろよ。今日は一度目だったから浅い所しか潜ってねぇけど、次回はもう少し進むぞ。それまではまた訓練だ。んじゃ、俺は先帰るぜ」


 そう言って洸は先に帰って行った。


 淡墨は真っ当な正論に唇を噛んで反芻する。


 確かに冷静ではなかった。驚いて、翻弄されて、洸が立ち向かったのを見てそれに着いて行ったに過ぎない。


 人の事を責める場合ではなかった。

 

 と、反省している淡墨にお茶をずるずる啜った霧島が言う。

 

「丸め込まれたねぇ、恭介くん」

「え?」

「論点ずらされたうえに、正論言われたから飛んじゃったかもしれないけど」

 

 首を傾げる淡墨を可笑しそうに霧島は笑う。

 

「元々洸君が雷刃を使わなかったって話でしょ?」

「あ」

「彼はああ見えて本当に口が達者だよね。そうやってよく話をすり替えて論破されてるもんねぇ」

「あの野郎!!」

 

 やられた!と憤懣やる方ない淡墨だが霧島にお茶を出されて言われる。

 

「しかし、彼が言っていたことは間違いなく事実だ。それは正しく受けておきなさい」

「そうですね、間違いなく大事なことです。だからこそ腹が立つんです」

 

 そう言いながら八つ当たり気味にお茶を啜る恭介を、霧島はふふふと笑いながら諌める。

 

「洸君は強い敵と楽しんで戦う。だから1人では不安だった。けど君がいれば彼は楽しむよりも勝つ事を優先させる。命の取り合いを楽しむのではなく、勝って帰る事を第一にする」

「その言い方だと足手纏いがいるから枷になるみたいに聞こえるんですけど」

「はは、そう聞こえたのなら精進しなさい。洸くんは向こう見ずな所があるし、恭介君は石橋を叩いて渡るタイプだ。2人はいいバランスが取れていると思うよ。良いチームだ」

「ありがとうございます」

 

 照れながら淡墨は礼を言う。

 

 尊敬する人に褒められるというのは嬉しい。


 そしてそれを、残念ながら尊敬してしまっている人と良いチームだと言われたのだから尚更だ。

 

「だけどまだなにが起こるかわからないエリアだ。君の慎重さが必要になる。不服かも知れないけど彼の足枷になって欲しい」

「えぇ無謀なことしたら引っ叩いて止めてやりますよ」

「それは頼もしい」

 

 そう言って2人は笑い合った。


♦︎♢♦︎♢


「それにしても、デケェ魔石だな」

 

 倒した魔物の魔石を拾いお手玉のように手遊びをしながら洸は呑気に言う。

 

「ランクAは伊達ではないってことですね。敵が強い、魔石がでかいと言うのは他の高ランクエリアに見られる特徴ですから」

 

 それに対して淡墨もさほど緊張感はなかった。

 

 既に12度目の潜入である。

 

 現れる魔物も知らない種類がいなくなって来ていて、本来の目的情報収集は完了しつつあった。

 

 情報は既に各国に行き渡り、そのニュースは拡散された。


 日本は評価され、そしてその立役者の洸の名声は鰻登りだ。

 

実際多くの番組や動画主から誘いをかけられているが、そのほとんど断っている。


 その理由を

 

「口で語るよりも成果で語った方が格好いいだろ?」

 

 とドヤ顔でかつ本気で言っているから口を閉ざす淡墨である。

 

 大事なのは顔と名声が売れることなので、チヤホヤされるのは今回に限り二の次らしい。

 

 そうすると淡墨も矢面に立たされるので、これには賛成した。


 知らない人に声かけられるのは普通に怖いという、臆病な彼らしい理由だった。

 

「んじゃそろそろアイツの所行くか?」

「エリアキングですか?本気で言ってます?」

「バーカ倒す気はねぇよ?流石にアレはキツイ」

「遠目から見てもヤバそうでしたからね。あの(さい)

「一切合切踏み潰す、ってか?犀だけに」

「はっ、それは()()()ですね」

「かー!うぜー返しして来やがる!」

 

 ぺっと唾を吐く仕草だけする洸。

 

 この前実際唾を吐いたのだが、その唾が重力により想像以上に飛ばなくて自分にかかるというアホなことをしたからだ。

 

 というか実際にかかったのはレオであったので、その瞬間レオはブチギレて鎧化を強制解除するということがあった。

 

 こんなヤバいエリアでも相変わらずな2人に、その後映像を見た霧島とレグからたっぷりとお説教と暴力という名の教育が行われるハメになった。

 

「もうエリア内のはほとんど周りましたからね。これで終わりでもいいと思いますけど」

「重力に対応した植物もあったし、水源付近は重力がかなり弱まってるしな。あの辺りからなら研究は捗るだろう。発見は色々とあったけど、魔物の能力もほぼ重力系しかいない。重力がなければ単純なエリアだな」

「その重力が難解なんですけどね。エリアキングもどうやら完全拠点占拠型。鎌倉のエリアキングと一緒で定位置から出て来ませんね。遠目から見る分には警戒するだけで襲って来ませんでしたし」

 

 視界の先の黒い靄がより深い場所を見つめる。

 

 そこにはエリアキングであろう大きな犀がいた。

 

 以前近づいた時に、淡墨達に気付いているのかこちらを見つめていたが、襲いかかっては来なかった。

 

「縄張りに入ったら即攻撃してくるだろうな。なんならあそこ、重力がよりキツくなるぜ?それに少しでも入ったら縄張り外まで追ってくるかもしれん。しつこそうなタイプに見えたぜ」

「勘のいい洸さんが言うならその可能性高いですね、尚のことやめときましょう」

 

 ここは断固として否定するべきだ、そう確信した淡墨はキッパリと言い放つ。

 

「かー!つまんねーつまんねー!!…が、一理ある。アイツとやるならもうちょいメンツ揃えないと話にならん」

「…珍しく素直ですね、大人になりましたね。えらいえらい」

「おうおう凝りねぇな恭介、またここで喧嘩して先生に怒られてぇのか?」

「なんで自分から止めるって選択肢がないんですか。ま、今回は僕が失言だったことにしましょう。引いてくれるのならそれで構いません」

「カカカ、引く気全然ねぇセリフだなぁ、おい。今回は大人の俺が一歩譲ってやるよ、なんせ大人だからな、らさらに言えばもうすぐ父親だからな!器は大きくねぇとな」

「8ヶ月でしたっけ?未だに洸さんが父親になるの信じられませんよ」

「もうベビー用品も揃えてあるぜ!」

「ゆりさんが愚痴ってましたよ、気が早いって。そんなん揃えるなら名前を早く決めろって」

「…名前はなぁ、難しいんだぜ?画数とか色々考えてたら頭おかしくなる」

「はいはい、じゃあ名前決めるのにも時間が必要でしょう。もうここの探索は終わりにして休みましょう。この半年ほんと疲れましたよ」

「その分金も名誉も手に入っただろうが。しばらくは休暇だな、ゆっくり休もうや」

「はい」

 

 そう言ってエリアから帰ろうと踵を返した時、それは起こる。

 

 ズドンと、エリア全体の重力が強まった。


「ぐ……!」

「お、なんだなんだ!?」

 

 辺りを慌てて見回すと、エリアキングが居るであろう場所から黒い靄がどんどん広がりたちまち淡墨達を飲み込む。

 

 さらに圧力が強まり、ついに淡墨は膝から崩れ落ちた。

 

「チッ」

 

 淡墨が崩れるのを見て、舌打ちをした洸はゴツンと拳を合わせる。

 

 淡く光出した拳で地面を殴りつけた。

 

支配権は俺にある(マインワールド)!」

 

 カッと地面が輝くと、途端に重力が軽くなった。

 

 いや、通常の重力に戻った。

 

 エリア外と同じ状態に。

 

 どのような状況、状態でも自分の()()()()()()()を押し付けることが出来るレオの能力だ。

 

 この能力をかられて、洸はスカウトされたと言っても過言ではない。

 

「ありがとうございます」

 

 安堵したように礼を言う淡墨に

 

「礼はいい。この事態への対処を考えろ」

 

 冷たく洸は言い放つ。

 

 それは元々の役割分担でもあった。

 

 作戦戦略を考えるのが淡墨、実行するのが洸。

 

 即座にスイッチを切り替え、周囲を見渡して警戒モードに入った洸に遅れながら、淡墨は思考を回す。

 

 なんせここは助けを呼ぼうにも呼ぶことが出来ないエリア。頼れるのは自分達のみ。

 

 首を回し視界から情報を得つつ、アプリを複数同時に起動し、音の波動と地面の振動を感知する。

 

 視界は悪くなったが、とりあえず魔物が近づいてくることはなさそうだ。

 

 地面の振動を検知しても、近づいてくる気配はない。むしろこの重力のせいでもがいているのか動きがない。


 大きな揺れを検知してもその後反応がないのは鳥系の魔物が地面に落ちた振動だろう。

 

 音の検知も似通った反応なので間違いない、が

 

「上空!3時方向に何かがいます!」

 

 一定のリズムの音の波動を検知して目線を向けつつ、洸に警戒を促す。

 

「……」

 

 洸は無言でその先を見つめる。

 

 淡墨もズームのアプリを起動し、視界をカメラのレンズのように拡大する。

 

 黒い靄の中、慌てずしかし急いで。

 

 そうして見つけた。

 

 黒い靄を掻き分けるようにバサバサと羽音を立て、それはいた。

 

 この凄まじい重力をもろともせず、あろうことがそれは飛んでいた。

 

 力強く羽ばたきを繰り返している。重力に抗うように大きく羽ばたいていた。

 

 その身体はまるで石で出来ているかのようにゴツゴツとしている。

 

 鋭い牙や、尖った角。


 こんな状況で笑い声が聞こえてきそうなくらい歪んだ口元は、悪魔と呼ぶのに相応しい程不気味だった。

 

 そんな空想上の生物はガーゴイルと言った。

 

 ガーゴイルは淡墨達を目掛けて、真っ直ぐ向かってきていた。

 

 唐突に現れる、まさしくレイドボスの襲来である。

 

「かかか、この状態でレイドボスかよ。笑えねぇな」

 

 流石の洸も苦笑いである。

 

「いいから走って!」

 

 余裕の無い淡墨は悲鳴を上げるように言う。

 

 レイドボスは戦うか逃げるかその2択しかないのだ。


 この場合は一択しかない。

 

「わーってるよ!着いてこい恭」

「ブモォオオオオ!!!」

 

 そこに。

 

 淡墨の言葉を遮ってそれは現れた。

 

 ドッドッドと力強く地面を揺らして現れたのはエリアキングだ。

 

 その雄叫びからは怒りが伝わってくる。

 

 その犀が出てきた瞬間、淡墨は死を悟ったがしかしその犀は淡墨達とは別方向に走って行く。

 

 真っ直ぐにレイドボスに向かって、そしてその鈍重な身体で跳躍立し大きな角で相手を刺す。

 

「ギィェ!?」

 

 思わぬ方向からの攻撃にガーゴイルは悲鳴を上げて地面に落ちた。

 

「ブモォ!!!」

 

 なおも鼻息荒く、エリアキングはガーゴイルに攻撃を仕掛ける。

 

「おいおい仲間割れかッ!?」

「レイドボスとエリアキングは魔物の中で唯一争う生物でしょ!好都合です!今はそんなことより走りますよ!!」

「りょーかい!行くぞレオ!!」

 

 拳を光らせて再び地面を叩く。

 

 2人の逃走が始まった。

エリアキングとレイドボス


魔石怪物はエリア内において基本的に争うことはない。

というのも食物連鎖というものが魔物にはない。互いに食い合う関係でもないし、さらに言えば魔石生物、魔石怪物共に共通しているが生殖行為をしないということも敵対関係が発生しない理由になる。

縄張りの意識はあるようだが、そもそもそのエリアの主はエリアキングなので互いに殺し合うようなことはない。少なくとも現段階では確認されていない。

確認されているのは、エリアキングとレイドボスの争いだ。レイドボスは勝手にシンボルエリアに現れて人間と交戦し、エリア内を破壊する。それが許せないエリアキングは一定数おり、世界各地でエリアキングとレイドボスの争いが確認されている。

そしてそれと同時に、エリアキングとレイドボスが協力するという例も存在する。

個性の強いエリアキングとレイドボスだが、だからこそ馬が合うと仲良く談笑しているのを確認されている。

我々人類からすれば、史上最悪の組み合わせだ。


参考文献

人類の敵を知れ!

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