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魔石狩りという職業

 子供の憧れの職業No. 1の魔石狩りだというのはほとんどの国に共通している。

 が、この職業には危険が付き物だ。その分の危険手当てが国から補償されるが、それは自分の命を晒している対価である。

 

 エリアの攻略を動画配信で稼ぐ人もいた。

 日本の高額納税者ランキングは、半分近くが魔石狩りを占めている。

 

 この魔石生物学部で受ける授業は、子供の頃憧れてきた魔石狩りという職業の生々しさを知ることでもある。

 

 現実を。

 苛烈さを。

 艱難辛苦を。

 

 その為の学校であり、その為の授業だ。

 

 身体を、技を、連携を、そして精神を鍛えるのが大事だと、この学校はそれを本気で、必死で教えようとしていると言うのが()()()に通っていればよくわかる。

 

 理解させられる。

 しかしそんな学校でも、学校生活を楽しんでいる、所謂エンジョイ勢と呼ばれる生徒は存在する。

 それは別に悪いことではない。学校とは学び、遊び、交友を深める場所だ。

 

 しかしそれを優先し過ぎるのは、この学部においてはそれは致命的なミスである。間違いと断言しても良い。

 

 そんな生徒に止めを刺す授業があった。

 いや、正確には試験である。

 

 試験がない代わりに映像を見ろ、という試験があった。

 

 なんだ最高じゃないか!と意気揚々とその期末試験に参加した生徒は、その試験後、1人残らず暗い顔をして教室から出ていった。

 

 その映像は、とある魔石狩りチームの映像だった。

 

 4人組でバランスの取れた構成のパーティは、順調に魔物を倒して行く。チームの構成は理想的で隙がない。

 攻撃も防御も索敵も遊撃も、全て兼ね備えた優秀な魔石生物と、それを補佐する優秀な人間だった。

 

 途中まではそのパーティの連携の取れた行動に舌を巻き、なるほどこう言うやり方もあるのかとメモをとる者もいた。

 

 そして、その映像は突如として悲劇で終わる。

 

 上空から突如現れた複数の飛行型の魔物が、パーティの1人の首を掻っ切った。

 

 不運なのは、悲鳴をあげて倒れた男は、そのパーティの要だった。

 リーダー的な存在であり、指示もその男が出しいた。もし違う誰かだったらその後の展開は変わっていたかもしれない。

 その後の悲劇は起こらなかったかもしれない。

 

 現実は残酷だ。

 

 あまりの光景に、口を抑えて教室から飛び出そうとした者に、講師はわざわざ映像を止めて呼び止める。

 声を荒げて止める。

 

「この映像を見れないのであれば、魔石狩りになどなろうとするな!逃げたのならこの授業は不可とします!必修のこの授業は必ず単位を取らなければいけません。逃げ出すのならその覚悟を」

 

 トボトボと席に戻った生徒を見届け、シーンと静まり返った教室に映像は再生される。

 

 その後の展開は、地獄絵図だった。

 

 叫び、嘆き、怒り、泣き。

 

 悲劇を煮詰め、真っ黒にしたような、地獄。

 

 血が画面いっぱいに散らばって。

 

 地面に滴り落ちて。

 

 主人を庇おうとした魔石生物が犠牲になって。

 

 その映像は、死で溢れていた。

 

 この撮影者だけが辛くも生き残る。

 

 足を負傷して動けなくなった仲間を見捨てて逃げて。

 

 仲間からの絶叫を、怨嗟をその背に受けながら、相棒の魔石生物もその男を庇って死んだ。


 男だけはと、なんとか守りきって死んだ。


 

 

「そうして生き残った男性は、2日後自殺しました」



 

 その悲劇を見せ終わった後、その講師はさらに絶望を叩きつける。

 その顔に、表情はない。

 

「その人は私にとって、頼れる先輩でした。強い人で、魔石生物とも深い絆で結ばれていました。パーティの関係も良好で、喧嘩はあってもそれを解決出来る力のあるパーティでした」


 しかし。

 

 と講師は続ける。

 

「恐怖は人を変えます。目の前に死が迫った時、冷静になれる人は少ないでしょう。恐怖から逃げて逃げて、そして冷静になった時、彼は絶望しました。親友を、恋人を、相棒を見捨てて逃げたその先輩は我に返り、絶望しました。皆さんは彼を弱い人間だと思ったでしょう。仲間の死に奮い立つことも出来ず逃げ、足を怪我した恋人を置いて逃げたこの人を」

 

 誰もが何も言わずに講師だけを見つめる。

 

「当時から教職を目指していた私に、彼はこの映像を送ってきました。一言だけ添えて」

 

『俺のようなクソの。調子に乗った男の二の舞が、今後二度と現れないようにお前に託す』


――と。


「そうして彼は自分で命を断ちました。長く苦しむやり方で」

 

 瞑目した講師は一呼吸置いて口を開く。

 

「もちろん。これはただの一例に過ぎません。さらに言えば最悪の一例と言っても過言ではありません。こんなことは滅多に起きないでしょう。こんな悲劇が常に起きているということはありません。しかし改めて知っておいてください。皆さんがこれからなろうとしている魔石狩りという職業は命がかかっていることを。その命は自分の命だけではありません。仲間の命、パートナーの命、それを背負っているんです」

 

 そこで講師は言葉を切る。

 

 静まり返った教室には、嗚咽をする人、鼻を啜り涙を耐える人、それを堪えられず声を出して泣く人。

 

 変わらないのは皆自分の将来について来るのは栄光だけではないということを、その目でまざまざと思い知らされたという純然で暗然たる事実だった。

 

「自分の命を失う覚悟なんて誰でもできることではありません。恐怖に打ち勝つことは容易ではありません。しかし、魔石狩りになりたいのであれば、必要な心構えです。自分の信念を、何故魔石狩りになりたいのかを今一度自分に問いただしてください!」

 

 事務的に話していたその講師に、熱が篭る。

 

「この授業、“精神論”はその命を、そして精神をどう守るか。苦しみ、悲しみ、恐怖をどう適切に対応するか。それを授ける科目です。先程の映像は、もしかしたらいつか自分の目の前で起こり得ます。それを乗り越えるように、乗り越えられるように私はこれから貴方たちにその術を教えていきます」

 

 しかし、と言葉を区切る。

 

「先程の映像を見て、怖くなったのならば、無理だと思ったのであれば辞めなさい。諦めなさい。夢を諦めるのにも勇気がいります。この学校にはメンタルケア専門の先生が何人も居ます。不安のある方は頼ってみて下さい。諦めることは決して悪いことではないのですから」

 

 そうして、その試験は終わった。

 

 終わったと同時に駆け出す者が何人かいた。

 

 トイレに向かったのだろう。

 

 何人かは机に伏して震えており、その背を友人に撫でてもらっている。

 

 陽太はチラリと、横目で友人たちを見る。

 嵐はギラギラと目を見開き、鳴矢は俯き、銀太は手のひらを顔に当てて項垂れている。

 

 陽太は席を立つ。友人を励ます、それか奮起させるか……もしくは諦めさせるために。

 

 以前自分に発破をかけてくれたが、実際現実として死が直面しているのを見せられて動揺しない人間などそういはしない。

 

 衝撃の映像を見たせいか、立ち上がる物は少数だった。


 嵐達に声をかけて、陽太は3人を連れて教室を出る。

 

 教室を出て、その棟を出てもしばらく無言だった。

 

 誰も言葉を発さなかった。

 

 陽太は空気を読み、今は何かを言うべきではないと感じ取って無言を貫く。

 

 そこに。

 終わるのを待っていたのか、淡墨が壁に背を預けて立っていた。

 

 淡墨が目をこちらに向ける。

 

 この試験の内容を知っていたのだろう。淡墨は陽太達に、いや、正確には陽太に目線を定める。

 

 それを見て、陽太は淡墨が何をしに来たのか察した。

 

 その目は何を言いたいのか明らかだった。

 

『どうする?』

 

 そう言っているように陽太には聞こえた。辞めるのか、続けるのかそう問うているように見えた。

 

 あの映像を見て陽太がどう判断するか、決断するのかを見に来たのだろう。

 

 それも当然だ。

 

 陽太と淡墨はチームを組んでいる。

 

 そのチームメイトが辞める可能性があるのであれば気になるだろう。

 

 だからこそ、陽太は応える。

 

 試験の結果を。

 

 そのテストの解答を、陽太は答える。

 

「辞めませんよ、淡墨さん」

 

 その声に迷いはなかった。

 

 冷静に言葉を紡ぐ。

 

「続けます」

 

 陽太はそう言い切る。

 断言する。

 

「――そうかい」

 

 そう言って目を閉じた淡墨の感情は、陽太には読めなかった。

 

 その横で巻尾が声を上げる。唸るように言う。

 

「俺もっ!俺も辞めねぇぞ……!そもそもそんなの覚悟してこの学校を選んでんだっ」

 

 そうだろ?嵐がそう聞くと2人は答える。

 

「ま、その程度で諦めてんならとっくの昔に止めてるわ。確かにツラい話だった。しょーじきメンタルやられた」

「……でも引き返すつもりもないな?散々悩んで決めた道だしな?それに……我ら生まれは違えども死ぬ時はスグルから生贄な?って約束したもんな?」

「そんな義理も人情もぶん投げた桃園の誓いなんて交わしたことねぇよアホか」

 

 そんなやり取りに陽太は表情が緩む。

 

 映像はキツい内容だった。

 聞いていて逃げ出したくなるほどには。陽太も何度となく目を逸らした。

 

 しかしそれでも、と思う。

 

 あの日。

 

 あの日雨に打たれながら小鬼と戦った時、誓った事を。

 

 陽太は忘れてなどいない。

 

 クロとシロと共に生きることが、陽太の原動力だ。

 

 それがブレることはない。

 

 「これからもご指導よろしくお願いします」

 

 陽太は頭をペコリと下げる。

 それを見た淡墨は色んな感情がない混ぜになった表情で嘆息して言う。

 

「夏休みの間にCランクに潜る。僕とチームを組むならそれくらいは覚悟して貰うよ?」

 

 その言葉に陽太は驚愕する。

 同様に嵐達がどよめくのが分かる。

 

 Cランク。

 

 それは魔石狩りの初心者が入ることは出来ないエリアだからだ。

 そして淡墨という男は無理な人間にそんな無茶振りをする人間ではない。

 

 陽太なら出来る。

 そういう判断をしてくれたのがわかる。

 

 その信頼が嬉しくて、その信頼にプレッシャーを感じながらも陽太は笑って応える。その笑顔はぎこちなかったが、その信頼に真正面から応えた。

 

「望む所です!」


 そうして、大学は夏休みに入る。

 

 夏休みの間もこの学校は稼働しており、授業こそないが演習場や図書室等は開放されており、そしてその利用率は休み前よりも格段に上がっていた。

 

 あの試験で、多くの生徒が気付いた。

 

 自分が目指す場所が綱渡りであることに。

 

 自分の将来が自分の命に直結するしていることに、改めて気付かされた。

 

 憧れと現実のギャップにようやく理解が追いついてきた生徒は、夏休みの間にその遅れを取り戻さんと必死に知識を吸収し、身体を鍛えて相棒(パトクリ)と訓練し、チームを作り始める。

 

 それがこの学校の毎年の恒例行事のようなものだった。

 

 そして同時に、生徒の3割がこの学校を去っていった。

 

 これもまた、毎年恒例のことであった。

 

 憧れと現実のギャップに耐えきれなかった生徒だ。

 

 そしてそれは決して悪いことではない。むしろ賢い選択肢だろう。

 

 魔石狩りと言う職業は、命を懸けるということは、嘲弄して出来るものではない。

政府の陰謀説


魔石狩りになどなるな!

現在日本では自国のみで全ての魔石生物の魔石をまかなえることが出来る!

しかし、豊富な魔石を輸出して各国に排出し、日本は早い段階で世界的に魔石輸出大国になった。

それはナナシの英雄の功績である!

断じて国の成果ではない!

それを我が物顔で利用し、他国に輸出。そのせいで自国の魔石が足らなくなり、魔石を得るために魔石狩りという職業が出来てしまったのだ!

全ては国が自国の権威や金のために勝手にやっているのだ!

国に騙されるな!

魔石狩りが人気職業なんてあり得ない!

それを証拠に私の友人の子は皆んな成りたくないと言っている!

一部を拡大解釈して報道しているに過ぎない!

政府のプロパガンダだ!!

騙されるな!

人の自由な職業選択を!

輸出をせず、魔石生物に正しく分配すれば、我々は安全に平和に生きていけるのだ!

輸出反対!

魔石狩り反対!


参考文献

魔石狩りになど絶対になるな!!!

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