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ー幕間④ー

 幼い頃から、自分は恵まれている。そう男は感じていた。

 

 裕福な家庭で、さらに他の子供より成長が早かったことから周囲から注目を集めていた。

 

 極め付けは初期ガチャとして選ばれた魔石生物。

 

 幻想種で、翼もある移動型でありながら、水属性という攻撃の性能を併せ持っていた。

 

 ――麒麟児だ!

 ――流石私の子だ!

 ――〇〇くんすごい!

 

 そう言って周囲は男を持て囃した。

 

 悪い気分ではなかった。

 

 期待に満ちた目を向ける親に、目を輝かせて自分を見つめる同級生達。

 

 鼻が伸びるには充分な環境だった。

 

 傲慢に育つのには充分な材料が揃っていた。

 

 仮に陽太が男の幼少時代を知ったのならば、羨ましさと妬ましさのあまりに震える程の怒りを感じていただろう。


 それくらい、男は恵まれていた。

 

 そして、それを腐らせたのは当の本人でもあった。

 

 中学生になる頃には、その才能に胡座をかいた結果同学年と大差のない人間になっていた。

 

 それは決して悪いことではない。

 

 しかし傲慢に育った男は認められなかった。

 

 周囲が自分を持て囃してくれなくなった事が気に食わなかった。


 男はある時気に食わなかったという理由で暴力を振るう。

 

 別に殴ったわけではない。気に食わないことを言われ、相手を突き飛ばしたそんな程度のこと。

 

 しかしその相手が自分に恐怖し、謝罪したどころか媚びた。


 

 それが、とても気持ちよかった。


 

 そこから男は容赦なく躊躇なく暴力という選択肢を選ぶようになった。

 

 落胆と叱咤の声も聞こえたが、自分に従いヘコヘコとする声の方が耳触りが良く教師や親の声は聞かなくなった。


 たびたび問題を起こした結果、両親は匙を投げて彼にマンション一室贈り、男を遠ざけた。

 

 けれど男は寂しくなかった。

 

 自分の言うことを聞く子分共はいるし、何より最愛の家族が、パートナーがいた。

 

 周囲を威圧して来た男だが、パートナーのことは溺愛していた。可愛い弟のようであり、頼りになる兄のようなイオンのことが男は大好きだった。

 

 毎日の毛繕いを欠かしたことはない。

 

 食事も男が手ずからあげていた。

 

 イオンも男が大好きで、甘えていたし、男の危険が迫れば助けに入った。

 

 二人は仲睦まじく、二人揃えば無敵だと信じていた。


 そう確信していた。

 

――しかし、そんな甘えが通用するほどシンボルエリアは甘くなかった。



「ギャァァァァア!!!」


 

 背中から火が上がり、イオンの背中から転げ落ちた。イオンは反射的に男の元に駆け寄ろうとするが、それは悪手でしかなかった。

 

 イオンは男に気を取られ、自分も背後から狙われていることに気付いていなかった。

 

 男の背中にすぐに水をかけようと必死で、周りに気を配ることが出来なかった。

 

 水を精製している最中に、イオンは背後から集中砲火される。

 

「ギュオオオおおお!!」

 

 イオンは自分が攻撃に合いながらも、水を精製しきり男の火を消すことに成功する。

 

「いおん?いおん!!」

 

 自分の背の火を消してくれたイオンが崩れ落ちるように倒れるのを見て、男は痛みも忘れて慌てて駆け寄る。

 

 その背は毛が焦げているどころか、所々が炭化していた。

 

「っざけんな!てめぇら!!」


 イオンの背後にいる魔石生物に男は怒鳴りつけた。

 

 地面から上半身を半分程出したモグラに似た魔石生物。

 

 その口には火がメラメラと揺らめいている。しかもそれが三体。男達を伺うようにこちらを見ている。

 

「こっちくんじゃねぇぇ!!!」

 

 怒声を浴びせる男だったが、すぐに顔を青くさせる。

 

 地面がボコボコと膨れ上がり、そこから3体同じモグラが現れた。さらにもう3体、3体と増えていき男はようやく自分が囲まれていると気づいた。

 

「あ、ああぁ……」

 

 汗が噴き出るほど暑い場所で、男は歯をガタガタ振るわせるほどの寒気に襲われていた。

 

 自分の死を明確に感じていた。

 

「ギュオオッ!!!!」

 

 それを遮るようにイオンが男の背中を嘴で摘んで飛び立つ。

 

「イオン!?」

 

 火事場の馬鹿力か。

 

 傷を負ったとは思えぬ速度でイオンは飛び出した。その背中に重傷を負いながらも、男を守るために。


――しかしそれは徒労に終わる。


 全部で20体集まったモグラの魔石生物は、イオンの逃走を許さなかった。

 

 4、5発程の火の玉を食らいイオン達は力尽きるように墜落した。

 

「痛い!熱い!痛いよぉいおん!!」

「ヒューヒュー……」

 

 イオンと同じく火の玉を食らった男は、服が燃え上がり、なんとか消そうと地面を転がっていた。

 

 その横でイオンは苦しそうに呼吸をしているが、すでに虫の息だ。

 

 そしてもう一度モグラに囲まれた男たちの周囲全方向からボッボッボッと合計20個火が灯る。

 

 またさっきの攻撃が来ることを、明確に予感させた。

 

「いやだぁぁあ!!やめろぉ!!!」

 

 イオンを守るように、男はとっさに覆いかぶさった。

 

 イオンの体は燃えていたが、それでも。

 

「カヒュー…カヒュー」

「だめだ!しぬな!イオン!!」

 

 そんな二人に、モグラの魔石生物は無慈悲に火の玉は発射する。

 

 自分達の縄張りを犯したものに罰を与える為に。

 

「ぎゃぁぁぁああ!!!あづいあづいぃい!!」

 

――二人は確かに強かった。

 

「いやだぁ!あづいいだいやめでぇぇ!!!!」

 

――二人の絆は本物だった。

 

「しにだくない!!じにだくないぃぃ!!!」

 

――しかしだからと言って、生き残れるとは限らない。

 

「アァぁぁぁあアあ!!!!」

 

――ここは強いものが生き残る残酷な世界だ。


 十分後。

 

 あまりにも強い火力は肉体を炭化して終わることなく、その全身を焼き尽くした。

 

 そこには骨だけが残されていた。

 

 モグラ達は燃え尽きるのを見守ることもなく、動かなくなった男を見て去っていた。

 

 自分達のテリトリーに無断に入り荒らした者への鉄槌。

 

 彼らの行動理念はそれだけであった。

 

 たったそれだけの理由で、1人と1体の生命は絶たれた。

 

 ヒビ割れた魔石が崩れていき、亡骸の横でサラサラと風に舞っていく。

 

 寄り添うように。

 付き添うように。

 サラサラと。


 男の名は、広瀬大志。

 

 享年18歳。

 

 幼い頃は麒麟児と持て囃された男は、己を顧みることが出来きなかった。

 

 その人生の結末であり屍は、誰に見守られることもなく、丁重に葬られることもなく、その地に無残に晒されることになる。

 


――彼が鼻で笑った看板にはこう書いてある。


 

 “シンボルエリア”は資格無きものは立ち入り禁止である。

 無断侵入は違法行為である。即刻立ち去ること。

 安易な気持ちで入る場所ではない。

 少年少女たちよ、その命を粗末にするな。

 盗石を企む者よ、その欲望に飲まれるな。

 命は一度のみ。その奇跡を思い返せ。

 今一度省みろ。

 ここが最後の戻り道。

 恐れることなかれ。

 踏み入れることなかれ。

 ここは“シンボルエリア”。

 全世界で年間数万人の命を喰らう、現代の魔窟である。


『魔石生物の恩恵』


魔石生物は人類に禍福を与えた。

魔石生物によって人類は激減し、そして現在激増している。

要因は多岐にわたるが、大きく3つある。

魔石生物は人類同士の戦争をなくした。

魔石生物は人類を飢餓から救った。

魔石生物は人類の資源枯渇問題を解決した。


以上において魔石生物がもう人類においてなくてはならない存在だとわかる。

アフリカ大陸において、魔石生物は神の如く扱われており、魔石生物主体の宗教も興っている。

魔石生物はメシアなのではないか。

ポストアポカリプスは、ノアの方舟再来で、生き残った人類は選ばれた存在ではないか。

などと言う宗教家もおり、現在各国で混乱を巻き起こしている。



参考文献

魔石生物という存在

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