魔族ギーテルとの戦い・大塚怜の視点
3階層目の探索を始めた。予想よりずいぶん早く到達したけど、このフロアはもう出来上がってるのかな? こっそりウィンドウを開いて3階層目のマップを表示してみて驚いた。このフロアをマップで見ると、女の子の顔の形をしてる! こんなのふざけすぎだよ、不自然だってばれちゃうよ! いや、ダンジョンの中を歩いてる人から見たら、ダンジョンが顔の形って気づかないか。うん、私が言わなければ大丈夫。
杉輝が手抜きして造った丸や四角のモンスターと戦いながら進んで、女の子のほっぺたになる広い部屋に入ると、部屋の真ん中に杉輝が立っていた。頼んだ通り、角としっぽを付けている。
「よお、レイ」
「何よ」
「誰?」
放くんが小声で聞いてきた。杉輝はこのダンジョンのラスボスになるんだから、強敵だと言っておこう。
「あいつはギーテル。魔族の中でも、人間の街を征服しようとしている過激派の一人よ。魔法がすごく強くてね、私たちなんかじゃ相手にならないから関わらないほうがいいよ」
この後は少し戦闘をして杉輝の強さを見せつけて、それから杉輝は私を連れて立ち去るという筋書きだ。杉輝はいかにも敵らしい態度で私にからんできた。
「お前、人間に混じって冒険者ごっこかよ。くだらん事してるな」
いつもふざけている杉輝がちゃんと演技してくれている。私は警戒した顔をしながら内心ほっとした。
「ほっといてよ、私は人間の街で仲良く暮らしたいの」
「レイが勝手にそう思っててもな、果たして人間はお前と仲良くしたいと思ってるかな」
放くんが口を挟んだ。
「僕はレイが魔族だって知ってます。でも僕はレイと仲良くしたい! 信頼してるんです! 一緒に冒険したいんです!」
私は放くんに本当のことを言ってない。信頼してくれるのは嬉しいけど、私はその信頼を裏切っちゃってる、ごめんね。
「若いねえ、ヒヨッコ冒険者。お前は魔族をわかっちゃいない。魔族と人間が馴れ合うなんて絶対無い。刻み付けてやるぞ、魔族の恐ろしさってものをな」
ありがとう、予定通りのシナリオに戻してくれた。よし、これから戦闘開始! と身構えた瞬間、心ちゃんが杉輝に抱き付いた。
「ギーテルかっこい――!! さすがギーテル!」
しまった、心ちゃんにシナリオを邪魔された! 心ちゃんは杉輝を抱き上げてすりすりしている。猫じゃあるまいし、そんなにマーキングしなくても……いやそんなのどうでもいい、どうやって戦闘する空気に戻そう?
そんなことを考えていると、心ちゃんに抱き上げられている杉輝がこっちを指さして言った。
「もう一度言う。魔族と人間が馴れ合うなんて絶対無い。刻み付けてやるぞ、魔族の恐ろしさってものをな」
そんなに無理やりシナリオ通りのセリフを繰り返さないでよ! 不自然すぎて放くんもなんかツッコミ入れてるよ!
そんな不自然さはお構いなしに、杉輝は炎魔法で放くんを攻撃した。不本意だけど、もうこのまま戦闘でいいや。とりあえず治癒魔法で放くんを治しておこう。
「あいつの魔法、素早いでしょ」
「うん、防戦は厳しそうだ。だからこっちから仕掛けるよ」
放くんはフェイントをかけたり炎魔法をかわしたり、結構善戦した。なすすべもなくやられるかと思ってたから予定が狂うな。私は早く杉輝と一緒に立ち去って仕事の続きをしたいのに。
「僕が足止めする。レイは逃げて」
そんな事ほんとにしなくていいっての! 放くんが逃げれば予定通りなんだから。
「そんなわけにはいかないよ! ホールこそ逃げて」
放くんの顔が真剣だ。こりゃ聞く耳持ってくれないな。
「ココロが変身してレイちゃんの身代わりになるよー」
心ちゃんが自分のキャラクターデザインを私と同じものに変更した。
「ココロが二人のために仕方なく残ってあげるからねー、二人はちゃんと逃げてねー」
「それってギーテルと二人きりになりたいだけだよね! 余計なことはやめて!」
ツッコミが放くんと同時になってしまったけど、心ちゃんは察して元の姿に戻ってくれた。
「早くレイを置いて立ち去らないとな、俺の究極魔法『力の差を見せつけるものすごい威力の攻撃だけどなぜか一命はとりとめる魔法』をお前らにくらわせるぞ」
そういうふざけた名前の魔法は世界観を台無しにするからやめてほしい。
「この魔法はな、同じ部屋の中の全員のHPを1にするぞ」
杉輝は魔法の説明をしてからカウントダウンを始めた。あれ? これって私もHPが1になっちゃうよね? こんなの打ち合わせに無かったよ!
放くんはテントを出しながら叫んだ。
「お前の魔法の理屈に穴をあけてやる!」
えっ、どういうこと? 穴あけスキルで理屈にまで穴があくわけないよね。私はウィンドウを開いて杉輝の魔法の設定を表示してみた。さっき杉輝が自分で説明した内容が、もっと詳しく書いてある。
放くんがテントに入りながら私を呼んでるので、私も慌てて入った。放くんは真剣な顔で叫んだ。
「ここは別の部屋だから、同じ部屋の中じゃない!」
そんなわけない! でもここで放くんの狙い通りにならなかったら嫌な思いをさせちゃうよね。杉輝の魔法の設定に「テントの中までは届かない」と書き加えておいた。するとまた放くんが叫んだ。
「『同じ部屋の中の全員』にはお前も含まれる!」
あっ、この魔法の設定には「同じ部屋の中の術者本人以外の全員」って書いてある。これが放くんの狙いか。よし、「術者本人以外の」を消しちゃおう。
設定の更新ボタンを押した次の瞬間、テントの外がなんかものすごい事になった。杉輝には悪いけど、でも杉輝はこの魔法を私たち全員にくらわせようとしたんだから自業自得だよね。
テントから出ると案の定杉輝は倒れていた。HPが1の状態って初めて見たけど、思ったほど外傷はひどくない。見た目がおぞましくならないよう、体の内部が大ダメージという設定にしてあるのだろう。心ちゃんが抱き付こうとしていたので止めておいた。
さて、この後どうしよう。杉輝はこのダンジョンのラスボスだからこんな所で出番が終わると困る。何か適当な理由を付けて治しておこう。
「私は人間を征服することには反対する。でもあなたを殺しはしないし、隷属させたりもしない。わかってほしいの、力で相手をねじ伏せることはさらなる争いを呼んでお互いを滅ぼすって」
そう言って治癒魔法をかけると、杉輝は起き上がりながら言った。
「俺が悪かった。認めてやるよ、お前らの強さを。だがな、人間と馴れ合うのは俺の中の正義に反する。次に会った時はお前らを倒してやるからな」
予定とは違うけど、これはこれでかっこよく収まった気がする。
「ああ、僕ももっと強くなって、今度は真正面から倒してやるよ」
放くんも満足してるようだし、これでよしとしよう。あとは、私がパーティーから抜ける機会を失っちゃったから、この後の仕事をどうするか考えなきゃ。この後私たちの代わりにパーティーに加わる仲間の手配は杉輝がやってくれるかな?
心ちゃんが杉輝に抱き付いて言った。
「きゃ――ギーテルかっこい――! かっこよすぎる演技にキュンキュンしちゃったー!」
まずい!! 「演技」って言っちゃった! それを放くんに知られたら全部台無しだよ!
「演技?」
放くんが気付いてる。まずいまずい、どうやってごまかそう? 何かの言い間違いだと指摘しようか? 「演技」じゃなくて「セリフ」? あんまり変わってない気がする。
「あ。ごめーん、言っちゃったー。てへ」
心ちゃん、そんな事言ったら言い間違いだとごまかせないよ! どうしよう、杉輝との戦いが仕込みだった理由を考えなきゃ。
「君たち一体何者なんだ?」
放くんが核心をついてきた。そうだ、実はこれが冒険者認定試験で、私たちは冒険者ギルドの試験官。これでいこう。
「ココロたちがこのダンジョンを造ったんだよー」
なんで正直に答えちゃうかな! あっそうか、子供は「嘘をついてはいけない」って教わるものだった。いやそんな事はどうでもいい、どうやってごまかそうか……。
……無理! もうごまかせない! この冒険はここでおしまい! 全部打ち明けてしまおう。
「ごめんなさい。本当はもっと冒険を楽しんでもらう予定だったんだけど、これじゃ興ざめよね」
私はウィンドウを開き、私の住んでいる端鞠町のカフェを検索して、そこに転移する扉を出現させた。
「私たちはこの世界の運営者よ」
扉を通って放くんをカフェに案内した。カフェといっても店員はいなくて休憩室のような場所。私は給茶機で全員分の紅茶を注いで持って行った。
そして私は語った。私たちは転生者を楽しませるために街やダンジョンを造っていること。スキルやモンスターも私たちが用意したこと。初めて受け入れる冒険者が昨日急に決まったこと。放くんと一緒に冒険する仲間を私たちが演じたこと。魔族と誤解されちゃったからそのまま魔族という設定で押し通したこと。2階層目の動物たちは本当は攻撃してきてないこと。杉輝との戦いも仕組んであって、私がこっそりスキルを変更してたこと。
放くんは残念そうな顔をした。
「そっか、魔法の理屈に穴をあけることって本当はできてなかったんだ」
「放くんは私を守ろうと必死に頑張ってくれた。かっこよかったよ」
「えへへ、そうかな」
「ああ、俺に向かってくるお前はかっこよかったぞ。そして俺が魔法をくらったのは……怜、お前の仕業だったのか、許さん」
「杉輝は私と心ちゃんも巻き込むつもりであの魔法を放ったんでしょ。私が責められる筋合いはないよ」
扉が現れ、女神様が入ってきた。
「皆、お疲れじゃったのう。ちと短いが、最初の冒険としては良かったのではないかのう」
「なんだ見てたのかよロリババア」
相変わらず杉輝は女神様に対して口が悪い。
「うむ、見ておったわい。そしてずっと録画しておったわい。せっかくチート能力付きで異世界転生したのじゃ、これを動画にして配信せんでどうする。天国は働かぬ者が多いでのう、娯楽コンテンツが大幅に不足しておるのじゃ」
じゃあ私たちの冒険を天国中で見てもらえるんだ。私たちの戦う姿を……あれ?
「それって私のスカートに穴があいてたのをずっと撮られてたって事!?」
「安心せい、編集のときに謎の光で隠しといてやるわい」
「ごめん、僕がうっかり穴をあけてしまったかもしれなくて」
「そなたが放か。わらわは女神、呂里馬場比女命じゃ。そなたは謝る必要は無いぞ、あのスカートの穴は杉輝がデザインしたときからあったからのう」
「そっかあ、全部杉輝のせいか。ふざけんな――――!!」
私は杉輝を思い切り殴った。杉輝は窓をぶち破って空高く飛んで行った。それを見て放くんがぼそっと言った。
「レイって実はすごく強いんだね……」
「弱いふりしててごめん。自分のステータスを設定できるから、結構何でもできる設定にしてるんだよね」
「放よ、そなたはこの世界を発展させる開拓団の一員になるがよい。ダンジョンのテストプレーヤーなんてのはどうじゃ」
「そうですね、考えてみます」
そうだ、あのダンジョンにももうすぐ次の冒険者がやって来るだろう。その時のためにもっと造りこんでいかなきゃ。
1章終わり




