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異世界転生、裏から見れば  作者: 黒魔
6章 ダンジョン交渉人
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人質奪還・根越瑛太の視点

 オーガが通路に入って行ったので、俺たち3人はその後について行った。曲がりくねった通路をしばらく歩くと広めの部屋に着いた。薄暗い部屋の奥に女が2人いて、手を(くさり)につながれている。


「アクヤ! プレーヤ!」


 キザーオが呼びかけると2人はこちらに顔を向けた。しかし返事はしない。沈黙魔法をかけられて声を出せないのだろう。俺は鎧を脱いだ。


「案内ご苦労。次はその2人を解放してくれ。そうすればこの鎧をやろう」


 オーガは俺をにらみつけてニヤリと笑った。何だ、この圧迫感。まずい、()おされそうだ。次の瞬間、オーガが突進してきた! 速い! 俺は避けることが出来ず、タックルをまともにくらってしまった! そして壁に激突! オーガと壁に挟まれ、俺は大きなダメージを負ってしゃがみこんでしまった。


「お前、本当は弱いな?」


 オーガに見透かされている。くそっ、このハッタリはここまでか、情けない。


「ワシらをたばかりおって、ただでは済まないのだ。今すぐお前らの防具と武器を全部渡すのだ。それからどうしてくれよう」


 まあいい、次のハッタリを見せよう。俺はカバンからスープの缶詰を出した。


「バレちまっては仕方ない。これだけはやりたくなかったんだがな……見ろ。この缶にはな、爆発魔法が込められている」


 もちろんそんな魔法などかかっていないただの缶詰なのだが、オーガは動揺しているようだ。


「まさか……その魔法とは、『フレア』なのか?」


 フレア? ゲームでそういう名前の魔法があるのは知ってるが、この世界にもあるのか? この世界のフレアの威力がどんなものかわからないから、ゲームの別の魔法名を言っておこう。


「フレアなんてチャチなもんじゃない。ここに詰まってるのはな、それよりもずっと上級の魔法……『メガフレア』だ」


「メガフレアだと!? バカな、そんなものをこんな所で爆発させたら、どうなるかわかっているのか!?」


 メガフレアもあるのかよ! 爆発させたらどうなるかなんて知らんよ!


「ああ、もちろんお前だけでなく俺も死ぬ。それどころか……あとはわかるな? だから使いたくなかったんだ。これを俺に使わせるような事だけは、絶対にしないでくれよ」


 オーガの様子から、かなり緊張しているようだ。オーガはゆっくり言った。


「人質を解放してほしければ、そっちの光っている男の装備も全部よこすのだ」


 くそっ、まだ条件を緩めないのか。


「俺の鎧はもう手放したんだ。それでもまだ要求するなんて、爆発魔法を発動してもいいのか」


「発動したらお前らも死ぬのだ。その鎧と剣と、お前らの命と、どっちが大事なのだ。ワシがお前らを無事に帰すだけでもありがたいと思うのだ」


「お前こそ、自分の命が大切ならこいつの鎧と剣はあきらめろ」


「全員に命の危険が迫るくらいでなければ、お前は爆発魔法を発動させないのだ。だからワシはお前らの命は取らない代わりに、装備は全部もらうのだ」


 ()が悪いな。これ以上こいつを刺激するのも良くないだろう。後で取り返すチャンスに()けて、今は相手の要求をのもう。俺はキザーオに言った。


「俺の負けだ。すまないが、その剣と鎧を手放してくれ。俺は報酬を受け取らない」


「そうか。残念だが、アクヤとプレーヤの命には代えられない。手放そう」


 キザーオは剣と鎧をその場に置いた。俺とキザーオが少し後ろに下がってから、俺はオーガに言った。


「さあ、剣と鎧はここに置いておく。人質の2人を解放してくれたら、お前は剣と鎧を回収しに来ていいぞ」


「いや、解放するのはまだなのだ。そのカバンに入っている武器や服は全部出すのだ」


 俺のカバンに入っている装備はたいした金額じゃない。問題はキザーオだが……キザーオはせっせと武器や服をカバンから出している。とっくにあきらめているようだ。ショタンもカバンから服を出している。


「おい、そこのチビ。お前の服は小さすぎるからいらないのだ」


 俺たちの服は無理して着るのかよ。俺は仕方なくナイフと服を放り投げた。


「さあ、持っている装備は全部出したぞ」


「いや、まだお前たちの着ている服があるのだ」


「全部脱げというのか!?」


 アクヤとプレーヤがずっとこっちを見ている。女子の前で裸になれと?


「メガフレアを発動させてもいいのか!」


「やれるものならやってみるのだ!」


 どんだけ服が欲しいんだよ、こいつは。キザーオのほうを見ると、さっさと服を脱いでいる。


「この僕の見苦しい姿をお見せするのは大変心苦しいのですが、あなた方を解放するためでしたら何でもして差し上げましょう」


 なぜか(うれ)しそうに全部脱いだ。なんか輝きが強くなってるぞ。そしてなぜ股間がひときわ明るく輝く。アニメでたまに大事な所を隠している謎の光かよ。


「よしよし、あと少しなのだ。ワシも歩み寄ってやるのだ」


 オーガはアクヤとプレーヤの手枷(てかせ)を外し、2人の手を引いて俺の前まで連れてきた。


「あとはお前がその服を脱ぎさえすれば、ワシは2人を解放してやるのだ」


 人質解放まであと少しにしてくれたのはありがたいけど、今俺の前に女子を連れてこられたら、俺は余計に脱ぎづらいんだけど!? そして連れてこられた2人も、顔を赤くして伏し目がちなのはいいんだけど、こっちを見てないで顔をそむけてくれないかなあ?


「お姉ちゃんたちを解放してあげてよー、お願い」


 ショタンにせがまれてしまった。仕方ない。俺は服を全部脱いで放り投げた。


「よろしいのだ。取引成立なのだ」


 オーガが手を放し、アクヤとプレーヤが駆けだした。オーガが剣や鎧を拾おうとした瞬間、俺は(きり)魔法を放った! あっという間に霧が充満し、1メートル先も見えなくなった。


「走るぞ!」


 俺はアクヤとプレーヤの手を引いて通路をダッシュした。キザーオがショタンを連れて走っているのがぼんやり光って見える。


「キザーオ、糸を引け!」


 キザーオの腰に釣り糸を結び付けてあり、その端をキザーオの剣と鎧に結びつけてある。走りながら糸を手繰(たぐ)り寄せ、剣と鎧を取り返すことができた。


 俺たちは小部屋に飛び込んで、そこに隠れて敵をやり過ごすことにした。ただし霧魔法は使い続け、通路のずっと先まで霧で満たしておく。これで敵は俺たちがここにいることに気付かず、ずっと先まで走って行くだろう。


「みんな無事だな。じゃあこれから沈黙魔法の解除をしよう。解除するにはキスをすればいいそうだ」


 霧のせいでぼんやりとした人影しか見えない。そのうち、光ってなくて小さくもない人影に近づいていくと、だんだん見えてきた。黒髪の治癒師プレーヤだ。


「俺はダンジョン交渉人ネゴシ。君にかかっている沈黙魔法を解除したい。俺とキスしてくれるか」


 プレーヤは取り乱した。霧でよく見えないが、顔が赤そうだ。でもすぐに覚悟を決めたのか、こちらを向いて小さくうなずいた。俺はプレーヤの両肩をつかんで、顔を寄せ、そっと(くちびる)を重ねた。彼女の息が俺の口に入ってくる。


「これで君は自由だ」


「あ……」


 プレーヤは自分が声を出せることを確認してから言った。


「ありがとうございます。助かりました」


 霧の中から別の声がした。


「わたくしも声を出せるようになりましてよ。プレーヤさんも回復なさったようですわね」


 キザーオがアクヤにキスしたようだ。


「うん、もう平気」


「わたくしのお着替えをキザーオ殿下に差し上げますわ。プレーヤさんはネゴシさんに差し上げるお召し物をお持ちでして?」


「あ、うん、持ってる」


 プレーヤはカバンから服を出した。


「ネゴシさん、こちらを着てください」


 俺は黒いローブを着た。魔法系のジョブが好んで使うローブは(すそ)がひらひらして動きにくいが、無いよりましだ。


「ありがとう、助かった」


「こちらを付けると動きやすいです。靴もどうぞ」


 白い布製の防具と黒い靴を渡してくれた。なるほど、ローブの上から防具の帯を締めることで裾が広がりにくくなる。靴はかなり小さいが仕方ない。


「こちらも、失礼します」


 プレーヤが顔を近づけてきた。一瞬ドキッとしたが、彼女はそのまま俺の頭上に手を伸ばし、防具を付けてくれた。うん、これでダンジョンを脱出できそうだ。


「よし、行くぞ」


 俺たちは霧の中を駆け抜けた。この先にある出口に向かって。


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