人質奪還・根越瑛太の視点
オーガが通路に入って行ったので、俺たち3人はその後について行った。曲がりくねった通路をしばらく歩くと広めの部屋に着いた。薄暗い部屋の奥に女が2人いて、手を鎖につながれている。
「アクヤ! プレーヤ!」
キザーオが呼びかけると2人はこちらに顔を向けた。しかし返事はしない。沈黙魔法をかけられて声を出せないのだろう。俺は鎧を脱いだ。
「案内ご苦労。次はその2人を解放してくれ。そうすればこの鎧をやろう」
オーガは俺をにらみつけてニヤリと笑った。何だ、この圧迫感。まずい、気おされそうだ。次の瞬間、オーガが突進してきた! 速い! 俺は避けることが出来ず、タックルをまともにくらってしまった! そして壁に激突! オーガと壁に挟まれ、俺は大きなダメージを負ってしゃがみこんでしまった。
「お前、本当は弱いな?」
オーガに見透かされている。くそっ、このハッタリはここまでか、情けない。
「ワシらをたばかりおって、ただでは済まないのだ。今すぐお前らの防具と武器を全部渡すのだ。それからどうしてくれよう」
まあいい、次のハッタリを見せよう。俺はカバンからスープの缶詰を出した。
「バレちまっては仕方ない。これだけはやりたくなかったんだがな……見ろ。この缶にはな、爆発魔法が込められている」
もちろんそんな魔法などかかっていないただの缶詰なのだが、オーガは動揺しているようだ。
「まさか……その魔法とは、『フレア』なのか?」
フレア? ゲームでそういう名前の魔法があるのは知ってるが、この世界にもあるのか? この世界のフレアの威力がどんなものかわからないから、ゲームの別の魔法名を言っておこう。
「フレアなんてチャチなもんじゃない。ここに詰まってるのはな、それよりもずっと上級の魔法……『メガフレア』だ」
「メガフレアだと!? バカな、そんなものをこんな所で爆発させたら、どうなるかわかっているのか!?」
メガフレアもあるのかよ! 爆発させたらどうなるかなんて知らんよ!
「ああ、もちろんお前だけでなく俺も死ぬ。それどころか……あとはわかるな? だから使いたくなかったんだ。これを俺に使わせるような事だけは、絶対にしないでくれよ」
オーガの様子から、かなり緊張しているようだ。オーガはゆっくり言った。
「人質を解放してほしければ、そっちの光っている男の装備も全部よこすのだ」
くそっ、まだ条件を緩めないのか。
「俺の鎧はもう手放したんだ。それでもまだ要求するなんて、爆発魔法を発動してもいいのか」
「発動したらお前らも死ぬのだ。その鎧と剣と、お前らの命と、どっちが大事なのだ。ワシがお前らを無事に帰すだけでもありがたいと思うのだ」
「お前こそ、自分の命が大切ならこいつの鎧と剣はあきらめろ」
「全員に命の危険が迫るくらいでなければ、お前は爆発魔法を発動させないのだ。だからワシはお前らの命は取らない代わりに、装備は全部もらうのだ」
分が悪いな。これ以上こいつを刺激するのも良くないだろう。後で取り返すチャンスに賭けて、今は相手の要求をのもう。俺はキザーオに言った。
「俺の負けだ。すまないが、その剣と鎧を手放してくれ。俺は報酬を受け取らない」
「そうか。残念だが、アクヤとプレーヤの命には代えられない。手放そう」
キザーオは剣と鎧をその場に置いた。俺とキザーオが少し後ろに下がってから、俺はオーガに言った。
「さあ、剣と鎧はここに置いておく。人質の2人を解放してくれたら、お前は剣と鎧を回収しに来ていいぞ」
「いや、解放するのはまだなのだ。そのカバンに入っている武器や服は全部出すのだ」
俺のカバンに入っている装備はたいした金額じゃない。問題はキザーオだが……キザーオはせっせと武器や服をカバンから出している。とっくにあきらめているようだ。ショタンもカバンから服を出している。
「おい、そこのチビ。お前の服は小さすぎるからいらないのだ」
俺たちの服は無理して着るのかよ。俺は仕方なくナイフと服を放り投げた。
「さあ、持っている装備は全部出したぞ」
「いや、まだお前たちの着ている服があるのだ」
「全部脱げというのか!?」
アクヤとプレーヤがずっとこっちを見ている。女子の前で裸になれと?
「メガフレアを発動させてもいいのか!」
「やれるものならやってみるのだ!」
どんだけ服が欲しいんだよ、こいつは。キザーオのほうを見ると、さっさと服を脱いでいる。
「この僕の見苦しい姿をお見せするのは大変心苦しいのですが、あなた方を解放するためでしたら何でもして差し上げましょう」
なぜか嬉しそうに全部脱いだ。なんか輝きが強くなってるぞ。そしてなぜ股間がひときわ明るく輝く。アニメでたまに大事な所を隠している謎の光かよ。
「よしよし、あと少しなのだ。ワシも歩み寄ってやるのだ」
オーガはアクヤとプレーヤの手枷を外し、2人の手を引いて俺の前まで連れてきた。
「あとはお前がその服を脱ぎさえすれば、ワシは2人を解放してやるのだ」
人質解放まであと少しにしてくれたのはありがたいけど、今俺の前に女子を連れてこられたら、俺は余計に脱ぎづらいんだけど!? そして連れてこられた2人も、顔を赤くして伏し目がちなのはいいんだけど、こっちを見てないで顔をそむけてくれないかなあ?
「お姉ちゃんたちを解放してあげてよー、お願い」
ショタンにせがまれてしまった。仕方ない。俺は服を全部脱いで放り投げた。
「よろしいのだ。取引成立なのだ」
オーガが手を放し、アクヤとプレーヤが駆けだした。オーガが剣や鎧を拾おうとした瞬間、俺は霧魔法を放った! あっという間に霧が充満し、1メートル先も見えなくなった。
「走るぞ!」
俺はアクヤとプレーヤの手を引いて通路をダッシュした。キザーオがショタンを連れて走っているのがぼんやり光って見える。
「キザーオ、糸を引け!」
キザーオの腰に釣り糸を結び付けてあり、その端をキザーオの剣と鎧に結びつけてある。走りながら糸を手繰り寄せ、剣と鎧を取り返すことができた。
俺たちは小部屋に飛び込んで、そこに隠れて敵をやり過ごすことにした。ただし霧魔法は使い続け、通路のずっと先まで霧で満たしておく。これで敵は俺たちがここにいることに気付かず、ずっと先まで走って行くだろう。
「みんな無事だな。じゃあこれから沈黙魔法の解除をしよう。解除するにはキスをすればいいそうだ」
霧のせいでぼんやりとした人影しか見えない。そのうち、光ってなくて小さくもない人影に近づいていくと、だんだん見えてきた。黒髪の治癒師プレーヤだ。
「俺はダンジョン交渉人ネゴシ。君にかかっている沈黙魔法を解除したい。俺とキスしてくれるか」
プレーヤは取り乱した。霧でよく見えないが、顔が赤そうだ。でもすぐに覚悟を決めたのか、こちらを向いて小さくうなずいた。俺はプレーヤの両肩をつかんで、顔を寄せ、そっと唇を重ねた。彼女の息が俺の口に入ってくる。
「これで君は自由だ」
「あ……」
プレーヤは自分が声を出せることを確認してから言った。
「ありがとうございます。助かりました」
霧の中から別の声がした。
「わたくしも声を出せるようになりましてよ。プレーヤさんも回復なさったようですわね」
キザーオがアクヤにキスしたようだ。
「うん、もう平気」
「わたくしのお着替えをキザーオ殿下に差し上げますわ。プレーヤさんはネゴシさんに差し上げるお召し物をお持ちでして?」
「あ、うん、持ってる」
プレーヤはカバンから服を出した。
「ネゴシさん、こちらを着てください」
俺は黒いローブを着た。魔法系のジョブが好んで使うローブは裾がひらひらして動きにくいが、無いよりましだ。
「ありがとう、助かった」
「こちらを付けると動きやすいです。靴もどうぞ」
白い布製の防具と黒い靴を渡してくれた。なるほど、ローブの上から防具の帯を締めることで裾が広がりにくくなる。靴はかなり小さいが仕方ない。
「こちらも、失礼します」
プレーヤが顔を近づけてきた。一瞬ドキッとしたが、彼女はそのまま俺の頭上に手を伸ばし、防具を付けてくれた。うん、これでダンジョンを脱出できそうだ。
「よし、行くぞ」
俺たちは霧の中を駆け抜けた。この先にある出口に向かって。




