3体のモンスター・根越瑛太の視点
俺はキザーオとショタンと3人でダンジョンに潜入した。
俺は盗賊のジョブを活かして、先頭で敵の気配や罠を探りながら慎重に進んでいく。が、今回はどうも敵に先に気付かれてしまう。後ろから来るキザーオがやたらキラキラ輝いてダンジョンを明るく照らすものだから、目立って仕方ないのだ。こうも照らされていると不意打ちなんて当然できないし、明るいから罠の位置は一目でわかる。盗賊の活躍する余地の少ないパーティーだ。
モンスターとの戦闘ではショタンが意外と活躍している。すばしっこく走りまわって、得意の蹴り技で文字通り蹴散らしている。ますます俺の活躍の場が無い。とはいえ魔法系2人が欠けた戦士系のみのパーティーでは、たくさんの敵を少しずつこつこつと倒していくしかないので体力の消耗が激しい。そのうえキザーオが目立つせいで戦闘の回避が難しいので、ショタンがへばってしまった。
「もうやだー、歩きたくなーい」
キザーオが左手を胸に当てて右手を前に出し、くるっと回って輝いた。
「おお、かわいそうな弟よ。お兄ちゃんがおんぶしてあげたいところだが、それでは敵と戦えなくなってしまう。ああ、どうしたらいいんだ」
そして俺のほうをじっと見た。俺におんぶしろと言いたいのか。仕方ない、おんぶしてやろう。俺はしゃがんでショタンに背を向けた。
「ほら、おんぶしてやる」
ショタンが俺の背中に乗ってきた。うん、軽い。
「おお、なんということだ。これではまるでショタンのほうがお荷物ではないか」
俺のほうがお荷物だと言いたいのかよ。キザーオ、お前が足を引っ張るから俺が活躍できないんだよ。でもあいつは依頼主だし、ここで言い返すのはデメリットしか無い。言わずにおいてやろう。
しばらく進み、例のオーガに襲われた場所に到着した。まず俺一人で偵察。教室くらいの広さの暗い空間に、何かがいる。こちらに気付いていない。
「あいつか?」
「いや、違う。あいつはトロールのようだね」
他にモンスターはいないようだ。人質もここにはいない。あのトロールは見張りだろう。とすると、人質はトロールが守っている所の先にいるはずだ。
「おそらく人質はこの奥にある別の部屋に捕らえられているんだろう。俺が魔法で壁や天井を伝って忍び込んで探してくる」
キザーオが俺の肩に手を置いた。
「ちょっと待ってくれ。君一人で行くつもりかい?」
「ああ。お前は目立ちすぎるからな」
「女の子がいる部屋に忍び込むというのかい? それでもし着替え中だったらどうするんだ」
ラブコメ展開かよ。キャーと叫ばれてビンタされるのかよ。
「急いで相手の口を手で押さえる。それから抱きかかえて部屋を出る」
「着替え中のまま外に出すというのかい!? だったらもしお風呂に入っていたら君はどうするつもりなんだ!」
「ダンジョンの中でお風呂に入ってる状況がおかしいだろ! お前はそんな事ばっか考えてんのか!」
ショタンが俺の服を引っ張ったので、俺は落ち着きを取り戻した。大声で怒鳴りあってる場合じゃなかった。
「ねー、あれ」
ショタンが指さす方向を見ると、トロールがすぐ近くまで来てこっちを見ている。なんか目が合ってしまった。とっさのことで俺は何もできない。お互いに見つめ合っている。なんだよこの状況。少ししてトロールが大声で叫んだ。
「来タゾ! ヤツラダ!」
その声に呼ばれてホブゴブリンが現れた。そして、トロールやホブゴブリンに比べて一回り大きいモンスターがゆっくり現れた。オーガだ。キザーオが小声で言った。
「あいつだ。仲間がいたとはな」
あのオーガに加えて2体のモンスターが相手となると、戦いではかなり分が悪い。相手はいつでも俺たちを全滅させることができるから、こちらが普通に交渉しようとすれば、相手にいいように押し通されてしまう。そういう劣勢が俺たちの態度に出れば、奴らは強気に出る。だから、まずはこっちに虚勢が必要だ。
「俺に任せろ。何とかしてやる」
俺はドヤ顔をしてみせた。そして堂々とした態度でオーガに近寄り、いかにも強キャラっぽく偉そうに言った。
「俺は冒険者のネゴシ。お前たちに武器と防具を持ってきてやったぜ。くれてやるから人質を返しな」
オーガはニヤリと気持ち悪い笑いを浮かべて言った。
「よく来たのだ。まずお前たちがその防具と武器をすべてよこすのだ。そうすれば望み通り人質は解放してやるのだ」
やはりそう来たか。俺たちが装備をすべて失えばとても抵抗できない。奴らは安全に俺たちを全滅させようとしてるんだ。実際の実力差はそんなものだろう。だけど俺のほうが圧倒的に強いと思わせれば、奴らは要求を取り下げざるを得なくなる。
「言っておくがな、俺は気が短いんだ。あまりナメたこと言うとお前の首が飛ぶからな。そっちが先に人質を解放しろ。俺たちが人質の無事を確認したら装備はくれてやる」
「それはできないのだ。先に人質を解放したら、お前たちは全員で襲い掛かってくるのだ。ワシらの安全のために、防具と武器は先に預からせてもらうのだ」
あまり動じていないな。もっと怖がらせないと。
「俺の暗殺術なら素手でもお前の腕をへし折るくらい簡単だがな」
「オーガの腕を折るなんてできないよねー。ここまで全然モンスター倒してないのに」
後ろからショタンが口を挟んだ。くそっ、せっかく演出した強キャライメージが台無しじゃないか。
「俺の暗殺術は子供には刺激が強いから見せてなかったんだ」
ホブゴブリンが割って入ってきた。
「オマエ、ホントニ素手デモ強イノカ確カメテヤル。オレノ腕ヲ素手デ折ッテミロ」
オーガの腕ほどではないが、ホブゴブリンの腕も太い。とても折れそうにない。
「腕を折ってみせたら要求を聞いてくれるのか?」
「モシデキタラ、ヒトツ情報ヲヤロウ。人質ノ魔法ヲ封ジルタメニ人質ニ沈黙魔法ヲカケテオイタ。ソノ解キカタヲ教エテヤロウ」
「ああ、それでいい。後悔するなよ」
俺はホブゴブリンの腕をつかんでから、服の袖に隠してあったメスでホブゴブリンの腕を切り裂いた。
「グアアアアアアッ!!」
実際に切ったのは靭帯と神経だが、骨が折れたと思うくらい痛いだろう。ホブゴブリンはその場にしゃがみこんだ。
「沈黙魔法の解除方法、教えてくれるか」
「……クチヅケダ」
「口付け? キスって事か?」
「ソウダ」
キザーオが嬉しそうに叫んだ。
「つまりアクヤとプレーヤにキスをすればいいって事なのかい!? 治療のためだから僕が女の子にキスするのは仕方ないよね!」
お前はもっと緊張感を持てよ。
「アクヤとプレーヤでキスしてもいいんじゃないか?」
「そんな事言わないでくれよ! 魔法を封じられた人同士だと、きっと効き目が無いんだよ!」
その理屈だと、俺がプレーヤにキスをして、それからプレーヤがアクヤにキスをしてもいいはずだが。これ以上言わないでおこう。
「さあオーガさんよお、早く人質を解放してくれ」
「お前の装備を解除するのが先なのだ」
相手の譲歩を引き出すために、こちらから少し譲歩しておくか。俺が一番弱いから、武器を持っていてもあまり役に立たない。
「俺が強すぎるのが困るんなら、俺の斧は先にくれてやるよ。その代わり、人質のいる場所まで案内しろ。人質の無事の確認が先だ」
するとトロールが俺に迫ってきた。俺は斧を構えた。が、トロールは意に介さず間合いを詰めてくる。俺が強いというハッタリはばれているのだろうか? でも動揺を見せるわけにはいかない。お互いにすぐ攻撃できる間合いになったが、トロールは構えない。俺は後ずさりしていった。そしてトロールがパンチ! と思いきや、トロールの拳は俺の頬をかすめた。ただの脅しかよ。
「ショボイ斧ダナ。ソッチノ金ピカ小僧ノ剣モクレタラ案内シテヤロウ」
斧が安物だと見抜かれてしまった。キザーオの剣は高級品だから簡単には渡したくないな。俺は斧をトロールに向けた。
「この斧がしょぼいかどうか、お前で試してみるか?」
俺がトロールに顔を近づけてにらみつけると、トロールはたじろいだ。ハッタリはまだ有効のようだ。
「ワカッタ、ソノ斧ダケデイイ。斧ヲ渡シテクレ」
俺は斧を横に放り投げた。
「案内してもらわなければ渡せない。そこに置いておくから、案内後に回収しろ」
するとオーガが言った。
「ワシが人質の所に案内してやるのだ。ついてくるのだ」




