魔族ギーテルとの戦い・堀田放の視点
フロアボスの部屋の先にある階段を降り、3階層目を探索した。白と黒と銀色の壁がやけにスタイリッシュ。あちこちに結晶が転がっていると思ったら、近づくとこっちに向かって飛んで来た。石のモンスターだ。とにかく硬くて普通の攻撃が通りにくいので、一発で倒せる穴あけスキルがとても役立った。
広い部屋に入ると、その真ん中に男が1人立っていた。冒険者……いや、頭に角があるから魔族だ。鋭い目つきはこっちを威嚇しているように見える。
「よお、レイ」
向こうから声をかけてきた。レイの知り合いか。
「何よ」
レイは相手をにらみつけた。会いたくなかった知り合いらしい。小声でレイに聞いてみよう。
「誰?」
「あいつはギーテル。魔族の中でも、人間の街を征服しようとしている過激派の一人よ。魔法がすごく強くてね、私たちなんかじゃ相手にならないから関わらないほうがいいよ」
カナエルはこんな奴らを止めることを僕に要求してたのか。ギーテルはこっちに近づいてきた。
「お前、人間に混じって冒険者ごっこかよ。くだらん事してるな」
馬鹿にした態度だ。こっちも腹が立ってくる。
「ほっといてよ、私は人間の街で仲良く暮らしたいの」
ギーテルはレイをにらみつけて言った。
「レイが勝手にそう思っててもな、果たして人間はお前と仲良くしたいと思ってるかな」
僕はレイと仲良くしたい。怖いけど、言うなら今だ。
「僕はレイが魔族だって知ってます。でも僕はレイと仲良くしたい! 信頼してるんです! 一緒に冒険したいんです!」
ギーテルは僕をにらみつけた。
「若いねえ、ヒヨッコ冒険者。お前は魔族をわかっちゃいない。魔族と人間が馴れ合うなんて絶対無い。刻み付けてやるぞ、魔族の恐ろしさってものをな」
その時、ココロが飛び出した! まずい、返り討ちにあってしまう! ココロはジャンプして飛びかかり、ギーテルにしがみついた!
「ギーテルかっこい――!! さすがギーテル!」
ココロは満面の笑みでギーテルにほおずりした。
「なっ!? バカ、やめんか!」
ギーテルは顔を赤くして取り乱しているが、されるがままだ。
「えっと、ココロってギーテルとどういう関係?」
「ココロととーってもラブラブな関係だよー」
「ち、違う! お、俺はお前のことなんか、なんとも……」
ココロはギーテルをひょいと持ち上げて抱きしめた。だいぶ身長差があるので持ち上げたほうが抱き付きやすいようだ。
「きゃー、照れるギーテルかわいー!」
「やめろ、虫になるー!」
ココロが自分から胸を押し当てるのは大丈夫でも、ギーテルが自分から触ると虫になってしまうのだろう。ギーテルはうかつに動けないようだ。
「ココロって魔族なの?」
「ううん、人間だよー」
ギーテルはココロに持ち上げられたままこっちを指さして言った。
「もう一度言う。魔族と人間が馴れ合うなんて絶対無い」
「今まさに馴れ合ってじゃれ合ってるんだけど!?」
「刻み付けてやるぞ、魔族の恐ろしさってものをな」
「今されるがままになってるよね!?」
ギーテルはこっちに手をかざした。手のひらが赤く光っている。次の瞬間、まぶしい光とともに強烈な熱さが襲ってきた!
「うわあっ!!」
僕の体から炎が上がっている! 炎魔法だ! 炎はすぐに消えたけどHPが半分以上減っている。レイが治癒魔法をかけてくれた。
「あいつの魔法、素早いでしょ」
「うん、防戦は厳しそうだ。だからこっちから仕掛けるよ」
僕は素早さのネックレスを活かして、フェイントをかけながらギーテルに迫った。手で触れようとした瞬間、避けられてしまった。ならば次の手、ギーテルの足元に大きな穴をあけた。これでギーテルは穴に飲み込まれ……ない! 空中で静止している!
「俺が浮遊魔法も使えないとでも思ったか」
ギーテルの手が赤く光った。あの炎魔法が来る! とっさに左に避けたらかろうじてかわすことができた。
「お前はレイを置いて失せろ」
レイの表情から葛藤が感じられる。僕の安全のためには相手に従わざるを得ないけど、それでもギーテルの仲間にはなりたくないという迷いがあるのだろう。なら僕はレイを護りたい。
「僕が足止めする。レイは逃げて」
「そんなわけにはいかないよ! ホールこそ逃げて」
「ココロが変身してレイちゃんの身代わりになるよー」
ココロの外見がレイそっくりに変わった。こんな魔法も使えたんだ。
「ココロが二人のために仕方なく残ってあげるからねー、二人はちゃんと逃げてねー」
顔を赤くしてにやけながら言うな! 下心しか感じないよ!
「バレバレだよ! 変身してる所を見られちゃってるし!」
ココロは元の姿に戻った。
「早くレイを置いて立ち去らないとな、俺の究極魔法『力の差を見せつけるものすごい威力の攻撃だけどなぜか一命はとりとめる魔法』をお前らにくらわせるぞ」
「ラノベのタイトルじゃないんだから、名前で内容を説明するなよ!」
「この魔法はな、同じ部屋の中の全員のHPを1にするぞ。超強力だから発動条件が厳しくてな、魔法の効果を説明してから20秒たってからじゃないと発動しない。はい20。19」
まずい! HPが1ってまともに動けない重傷のはずだ。でも20秒の猶予があるって事は何か回避方法があるはずだ。何か穴は無いか。
穴? 僕の能力は触れたものに穴をあける。今、僕は奴の魔法の理屈に触れた。よし、なんとかしてみせる!
「オープン! お前の魔法の理屈に穴をあけてやる!」
ウィンドウからテントを選択すると、テントがかばんから飛び出て広がった。
「この中へ!」
僕たち3人はテントの中に飛び込んだ。
「ここは別の部屋だから、同じ部屋の中じゃない!」
「5、そんな屁理屈4、通じるか3」
僕の能力は穴をふさぐこともできる!
「『同じ部屋の中の全員』にはお前も含まれる!」
「なにっ!」
テントの外がまばゆい光に包まれ、次の瞬間に衝撃が伝わってきた。光が収まってから外に出ると、ギーテルが倒れていた。
「いやあっ! ギーテルしっかりしてー!」
駆け寄ろうとするココロをレイが引き留めた。
「今抱き付くととどめになっちゃうよ」
レイはギーテルのそばに座った。
「私は人間を征服することには反対する。でもあなたを殺しはしないし、隷属させたりもしない。わかってほしいの、力で相手をねじ伏せることはさらなる争いを呼んでお互いを滅ぼすって」
レイが手をかざすとギーテルは光に包まれた。治癒魔法だ。
「俺が悪かった。認めてやるよ、お前らの強さを」
ギーテルが起き上がった。
「だがな、人間と馴れ合うのは俺の中の正義に反する。次に会った時はお前らを倒してやるからな」
「ああ、僕ももっと強くなって、今度は真正面から倒してやるよ」
ココロがギーテルに抱き付いた。
「きゃ――ギーテルかっこい――! かっこよすぎる演技にキュンキュンしちゃったー!」
「演技?」
ギーテルとレイの顔が引きつった。
「あ。ごめーん、言っちゃったー。てへ」
ココロはおどけて言った。この3人、グルになって僕をだましてたって事!?
「君たち一体何者なんだ?」
「ココロたちがこのダンジョンを造ったんだよー」
レイが頭を抱えてため息をついた。
「ごめんなさい。本当はもっと冒険を楽しんでもらう予定だったんだけど、これじゃ興ざめよね。オープン」
レイがウィンドウを開いて何やら操作すると、空中に扉が現れた。
「私たちはこの世界の運営者よ」
扉を開けると、そこは喫茶店だった。ごく普通の……いや、この世界には似合わない現代的な内装だ。窓の外にはビルが並んでいる。
僕たちは扉を通って喫茶店に入り、席に着いた。レイがどこからか紅茶を持ってきてくれた。
そしてレイはこれまでのことを語ってくれた。