侵入者を捕まえろ・麩酒杉輝の視点
その翌日、百合園町が今どうなっているのか気になったので調べてみた。すると、「百合園町裏チャンネル」という動画チャンネルが見つかった。18歳未満禁止のいかがわしい情報を配信しているらしい。再生してみると、佳奈子が映った。2メートル以上ある袋から頭と手だけ出している。何だろう。
「百合園町・裏情報~! こんにちは、おっぱいがふかふかベッドになる谷原佳奈子です」
その袋の中身、おっぱいなのかよ! この変態、まさか自分のおっぱいをそこまで大きくするとは、エロい事をするための覚悟が半端ない!
「ここは女しか入れない百合園町の地下にある、秘密の18禁エリア。えっちな事が大好きな女たちが、思う存分いちゃいちゃしちゃってます。その秘密をちょっとだけお見せしちゃいましょー!」
そこで繰り広げられている光景は、まさに俺の理想のエロさだった。でも肝心な所は映ってなくてもどかしい。あいつら俺の入れない所でこんなうらやましい事してるのかよ! くそっ、俺も混ざりたい! あいつら、キャラクターデザインを女キャラにしているだけで本当は男なのに。
……じゃあ、俺も女キャラにすれば入れるんじゃないか?
俺は百合園町の前に転移した。キャラクター設定で俺好みのおっぱいの大きい女を選んで、俺の外見を変えてみた。体が細くなって、胸に重みを感じる。恥ずかしいけどなんか心地いい。そのままバリアに向かって進むと、何事も無く通り抜けられた。やった!
バリアの中にはのどかな住宅街が広がっている。道を歩いている人や公園にいる人はみんな若い女性。あの地下エリアはどこから入れるんだろう? あちこち歩いて探してみるか。
SNSにメッセージが届いた。怜からだ。
「杉輝、今どこ?」
「何だよ急に」
「今、百合園町に来てるんだけど、杉輝が女キャラになって入っていくのが見えたんだよね」
見られてたのかよ! 真面目な怜のことだ、エロ目当てで来たことがわかったら絶対やめさせようとしてくる。
「視察だよ、なんか気になるから、街づくりの参考に」
「だめだって、女だと偽って入るなんて」
ここは誰もが女だと偽ってる街なんだよ。なんで本物の女が来るんだよ。
「そういうお前は何で百合園町に?」
「私は百合園町の動画を見て来たくなったから」
あの裏チャンネルのふかふかベッドになるおっぱいに、怜も興味があるのか!?
「あの動画を見たのか? 来て何をしたいんだ?」
「ゆったり体を温めて、首まで埋もれて、じっくり揉まれて、ふかふかベッドに身を預けて。気持ちよさそうでしょ」
なんて気持ちよさそう! 怜にそんな趣味があったのか! 俺もやりたいよ!
「お前がそんな休日の過ごし方をするなんて知らなかった。うらやましすぎる」
「でも男がいるのは嫌だなあ。出て行ってほしいなあ」
自分だけ楽しんで俺には邪魔するつもりか。今は怜に見つかるわけにいかない。日を改めて出直そう。
それから時々百合園町に行ってくまなく歩きまわってみたが、地下への入り口は見つからなかった。街の人に聞いてみよう。女らしい言い方で。
「ごめん、ちょっと聞きたいんだけど……」
美しい。目が合った瞬間にそう感じてドキッとしてしまった。これが魅了魔法の効果か。
「あの、この街に地下施設があるそうだけど、どこにあるか知らない?」
「いえ、知りませんねえ……」
困り顔も美しい。ちょっと会話しただけで舞い上がった気分になる。こんなにいい気分になるなら、他の人にも声をかけていってみよう。
百合園町に来るようになって2週間経ち、街の人からついに有力情報を得た。温泉施設に地下の18禁エリアへの入り口があるという。温泉から出入りするということは、地下ではみんな基本的に裸なんだろうな。よし、行ってみよう。会った人には用は無くても声をかけながら。
温泉施設は結構大きな建物だ。せっかく女になってるんだ、女湯を楽しもう。中に入ると、裸の女がちらほらといた。素晴らしい。これはぜひ間近で見に行こう。地下への入り口の場所を尋ねるという建前で。
いろんな人に声をかけてまわっているうち、ずっとこっちを見ている少女がいるのに気付いた。結構かわいい。あの子にも声をかけてみよう。
「うぉわっ!?」
近づいたらなんか驚かれた。
「あなた、ずっとあたしの事見てたよね。なになに、あたしに見とれちゃった?」
「あなたの美しさに見とれていました」
たまんないねえ! こんなかわいい裸の女の子にこんな事言われて盛り上がらないはずがない! 中身は男なんだけど。
「あなたもきれいな裸してるよ、この。あたしは旅する冒険者の照乃。あなたは?」
「私はこの街の魔道具店で働いている、まくりといいます」
まくりともっと話をしたい。とはいえ素性を明かすわけにはいかないので、適当にでっちあげた冒険譚を語ると、まくりは目を輝かせて聞いた。
「照乃さんってすごい冒険してるんですね。いいなあ、憧れちゃうなあ」
こんな狭い世界で冒険の旅なんてできるわけないのに信じちゃってるよ。もう一押し親密度を上げれば、体を触れるだろうか。中身男だけど。よし、仲間に誘おう。
「あたしと冒険の世界に踏み出そうよ。この温泉にはね、秘密の地下施設があるって噂があるんだ。あたしと一緒に秘密を解き明かして、めったにできない体験してみない?」
「まくりちゃんにそんな事させません!」
二人の女がまくりの後ろに現れた。まくりが二人に駆け寄ると、二人のうち背が高いほうがまくりの頭をなでた。まくりの笑顔から、この3人の親密さが透けて見える。くそっ、俺は要らないのかよ、悔しい。まくりの中身は男だけど。
「なーんだ、仲良しがいるんじゃん。妬いちゃうなあ。ねえ、この温泉の秘密の地下施設って、どこにあるか知らない?」
背の高い女がぴくっと反応した。知っているという顔だ。視線の先には扉がある。あの巨大おっぱいでも通れそうな大きさだ。
「へーえ、あそこかあ。ありがとねー」
扉のほうにダッシュしようとしたら、背の高い女に邪魔された。
「どけぇ!」
俺は炎魔法で牽制したが結界魔法で防がれた。そしてロープ型の魔道具が向かってきた。こいつらバトルもできるのか。こんな所で本気で戦わないほうがいい。俺はジャンプでかわし、あの扉の前まで行った。そして扉を開けようとした瞬間、結界に手が弾かれた。
「このドアには結界が張られているな。鍵が要りそうだ」
一部の魔法が制限されるバリア内なので強行突破はできない。出直すとするか。せっかくだ、帰る前にこの3人の裸をじっくり見ておきたい。でも大きな袋で胸を隠している。女同士なのにどうして隠すんだ。お互い中身は男だけど。
「おい、何を隠してるんだ? 見せてみな」
まくりが袋の中からボールを出してこっちに投げた。
「照乃さんが探してるのはこれですかね」
そうじゃない。何なんだこのボールは。
「何だこれ」
「扉にかざしてみてください」
ひょっとして、あの扉の鍵なのか? 扉にかざしてみると、急に意識が遠のいた。
苦しい。まるで溺れているようだ。何かの魔法攻撃なのか? 意識がはっきりしてきて目を覚ますと、目の前に怜がいた。
「おはよ、杉輝」
「げっ! なんでここに!」
「それを聞きたいのはこっち。どうして女湯にいたのかなあ?」
俺は温泉施設のバックヤードで眠っていたようだ。怜がここにいるということは、怜はあの地下施設に行ったことがあるのだろうか? 怜に頼めば入れてもらえるんだろうか? いやそんなはずはない、怜は俺に出て行ってほしいと言った。俺は出て行くどころか女湯にいたんだから、これ以上怜に何か頼むのはやめたほうがいい。
「ごめんなさい」
「私に謝っても仕方ないからね。この街に二度と入らないって誓う?」
もう手詰まりだ。地下に行くのはあきらめよう。
「誓います」
百合園町の住人たちは、みんな中身が男だということは知らずに、惚れ合って仲良く暮らしている。俺は邪魔しないでおこう。
後日、百合園町と同じ仕組みで男しか入れない「ローゼンブルグ王国」が誕生し、女たちが男として転生していった。しかし「一番好きな人」をめぐって争いが絶えないらしく、うまくいっていないらしい。




