モテモテ転生・茂手大河の視点
気が付くと、俺は真っ白な空間にたたずんでいた。上から天使が舞い降りてきた。俺は死んでしまったらしい。
「茂手大河くんですねぇ」
天使が薄気味悪い顔をして話しかけてきた。
「はい、そうです」
「私はあなたの願望を叶える天使カナエルですぅ。あなたは残念ながら死んでしまいましたがぁ、日ごろの行いが良かったせいでぇ、こうして天国に来ることができましたぁ。天国で叶えたい願いはありますかぁ?」
俺は今まで、女の子と仲良くなった事が無い。ずっと冷たい視線を浴びせられてきた。
「俺は、たくさんの女の子にモテたいです!」
カナエルはニヤリと笑った。
「あらぁ。私は男なら誰でもいいビッチなんですよぉ。こんな私はどうですかぁ?」
さすが天国! カナエルは俺の願いを叶えてくれるんだ!
「気が合いますね。俺も女なら誰でもいいです。あなたとエッチなことをしたいです」
カナエルはぷぷっと噴き出して軽蔑の眼差しを向けた。
「さすがにそんな事言われたら私でもドン引きですねぇ。男なら誰でもいい私のストライクゾーンから外れるなんてぇ、並外れたキモさですぅ」
天使すら俺を蔑むのかよ。これだから他人と関わるのは嫌なんだよ。
「なんだよ! 願いを叶えるとか言って期待させておいて、突き落とすのかよ!」
「いえいえ、これから叶えてあげますぅ。異世界に女しかいない所があるんですけどぉ、そこにあなたを特別に転生させてあげるのですぅ。しかも誰でも一目ぼれしてしまう、魅了魔法が自動で発動するんですよぉ」
「えっ! 俺、モテモテになるんですか!?」
「そうですぅ。見とれてしまうほど見た目が良くなりますしぃ、相手を見るだけで魅了しちゃいますぅ。それにさっきみたいなキモい発言とはおさらばしてぇ、女の子にモテる気遣いができる能力もあげちゃいますぅ。そんな異世界に行きますかぁ?」
「最高じゃないですか! 行かせてください!」
「わかりましたぁ。ではまずぅ、この中でどの女性がお好みですかぁ?」
目の前にウィンドウが現れた。女の子の画像がたくさん並んでいる。この中から気に入った人と交際できるという事なのだろう。画面をスクロールすると100人以上から選べるようだ。見た目しかわからないから、直感で選ぶしかない。俺は茶髪の小柄な少女を選んだ。
「じゃあこの子で」
「はぁい、では手続きしますねぇ」
手続きを済ませ、いよいよ異世界に行く時が来た。
「ではいってらっしゃいませぇ」
目の前が真っ暗になった。いや、ここは黒い部屋だ。壁も床も天井も黒くて、照明だけがある。その中に1人の少女が立っている。さっき俺がリストから選んだ茶髪の少女だ。俺が少女に近づくと、同時に少女が俺に近づいて来た。
「あの……」
俺がそう言った瞬間、少女も同じ言葉を発した。いや、少女の声がするだけで俺の声は聞こえなかった。俺が手を動かすと同時に少女も手を動かした。まるで鏡のようだ。
いや、鏡なんじゃないか? 俺は自分の手を見て、少女と同じ服装なのに気付いた。華奢な手だ。下を見ると、胸に膨らみがある。本当に鏡だ! 俺、女になってる!
またウィンドウが現れた。「警告 転生前の情報を決して他人に話してはならない。特に自分が男であったことを知られてはならない」とある。俺はこれから女として生きていかなきゃならないって事なのか!? なんでだよ! 俺はたくさんの女の子にモテたいって願ったのに、なんで自分が女の子になってんだよ!
突然、体がふわっと浮き上がるのを感じると同時に周囲が青空になった。猛烈な風が吹きつけてくる。頭上に街が見える。わかったぞ、俺、真っ逆さまに落下中!!
「いやあああああっ!!」
なんて金切声出してんだよ俺! みるみる地面が迫ってきて……激突!! あれ、思ったほど痛くない? 何かふわふわの大きな袋の上にいる。これはエアマットかな?
俺がいるのは公園の中。周りは日本の普通の住宅街っぽい。
遠くで女の人が走っている。背が高くて細身の魅力的なスタイルだ。と思ったらこっちに向かってきた。揺れる長い黒髪、漫画のような大きな黒目に細い顎。美しい。その女の人は、息を切らしながら俺に話しかけてきた。
「あなた今、空から落ちてきたわよね?」
俺の心臓が高鳴っている。こんな美女と会話していいのだろうか。いや、答えないと失礼だ。……あれ、正直に「はい」と答えて問題ないんだっけ。どこからが話してはいけない転生前の情報なのか、判断に困る。そんなことを考えているうちに彼女は続けて言った。
「私、女の子が空から降ってくるのを見たのは初めてよ。ここは女の子が降ってくる場所として有名だから、時々来てたのよね。降ってきたら私が連れて帰るんだって。そしたら遠くであなたが降ってくるのが見えたものだから、急いで走って来ちゃったわ。あ、ごめんなさいね、私の事ばっかりべらべらしゃべっちゃって」
こっちは自分の状況がまったくわからないので、相手から一方的に情報を教えてくれるのは助かる。こんなきれいな声で話してもらえるなんて幸せだ。なんか体が震え出した。これって恋? 一目ぼれってやつか? 俺には誰でも一目ぼれしてしまう魅了魔法があったはず……もしかして俺が誰にでも一目ぼれしてしまう魔法って事か!?
「私は著路院恋。この街で魔道具職人をやっているわ。それでこの街ってのが……いけない、また私の事ばっかり。あなた、お名前は?」
ここは正直に答えたらいけない場面だ。女の名前を答えないと。えーと、茂手……茉莉。妹の名前。
「……俺……私、……茂手……まくり……といいます」
緊張しすぎて噛んじゃったよ! もういいや、茂手まくりで!
「まくりちゃんね。もう、なんてかわいいの!」
恋さんは俺の両肩をつかんできた。顔が近い。なんか理性が崩壊しそうにドキドキする。
「それでね、この街は百合園町っていって、女しか入れない街なのよ。暮らしているのは全員女性」
女しか入れないから、俺が女にならないとここに転生できなかったって事か。いやそこは特例で俺だけ男でも入れるようにしてくれよ!
「そしてこの街では時々ね、記憶の欠けたかわいい女の子が空から降ってくるの」
転生者が俺以外にもたくさんいるって事か。
「降ってきた女の子を見つけた人は、できるだけ保護してあげることになってるわ。だから……」
恋さんが急に抱き付いてきた!!
「ひゃうっ!」
何なになに!? あったかくて柔らかくて、心が満たされる。こんなの心臓が持たないよ!
「まくりちゃんは、私が捕まえたわ! 私の獲物だから、私が持って帰るの!」
「ええっ!? さっき、保護することになってるって言ってましたよね? 保護と私物化は違いますよね?」
「そう、保護よ保護。うちの子になってもらうわ。一緒にご飯食べて、一緒の部屋で寝て、一緒に手をつないでお出かけして……」
恋さんは顔を赤くして嬉しそうにまくし立てている。これって俺の魅了で一目ぼれしてるって事だろうか? 女同士でも効くのかな?
「どう? 私と一緒に暮らすの、嫌かしら?」
こんな魅力的な人と暮らすのは願ったり叶ったりだ。
「全然嫌じゃないですよ! こちらからお願いしたいです」
「嬉しい! これでまくりちゃんは私のものよ!」
恋さんは俺を抱きしめたまま歩き出した。引きずられる。結構身長差があるから、ほとんど持って行かれている感じだ。
「だから私物化しないでくださいって――!」




