表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生、裏から見れば  作者: 黒魔
5章 だれもがカノジョ
33/39

モテモテ転生・茂手大河の視点

挿絵(By みてみん)

 気が付くと、俺は真っ白な空間にたたずんでいた。上から天使が舞い降りてきた。俺は死んでしまったらしい。


茂手大河(もてたいが)くんですねぇ」


 天使が薄気味悪い顔をして話しかけてきた。


「はい、そうです」


「私はあなたの願望を叶える天使カナエルですぅ。あなたは残念ながら死んでしまいましたがぁ、日ごろの行いが良かったせいでぇ、こうして天国に来ることができましたぁ。天国で叶えたい願いはありますかぁ?」


 俺は今まで、女の子と仲良くなった事が無い。ずっと冷たい視線を浴びせられてきた。


「俺は、たくさんの女の子にモテたいです!」


 カナエルはニヤリと笑った。


「あらぁ。私は男なら誰でもいいビッチなんですよぉ。こんな私はどうですかぁ?」


 さすが天国! カナエルは俺の願いを叶えてくれるんだ!


「気が合いますね。俺も女なら誰でもいいです。あなたとエッチなことをしたいです」


 カナエルはぷぷっと噴き出して軽蔑(けいべつ)眼差(まなざ)しを向けた。


「さすがにそんな事言われたら私でもドン引きですねぇ。男なら誰でもいい私のストライクゾーンから外れるなんてぇ、並外れたキモさですぅ」


 天使すら俺を(さげす)むのかよ。これだから他人と関わるのは嫌なんだよ。


「なんだよ! 願いを叶えるとか言って期待させておいて、突き落とすのかよ!」


「いえいえ、これから叶えてあげますぅ。異世界に女しかいない所があるんですけどぉ、そこにあなたを特別に転生させてあげるのですぅ。しかも誰でも一目ぼれしてしまう、魅了魔法が自動で発動するんですよぉ」


「えっ! 俺、モテモテになるんですか!?」


「そうですぅ。見とれてしまうほど見た目が良くなりますしぃ、相手を見るだけで魅了しちゃいますぅ。それにさっきみたいなキモい発言とはおさらばしてぇ、女の子にモテる気遣いができる能力もあげちゃいますぅ。そんな異世界に行きますかぁ?」


「最高じゃないですか! 行かせてください!」


「わかりましたぁ。ではまずぅ、この中でどの女性がお好みですかぁ?」


 目の前にウィンドウが現れた。女の子の画像がたくさん並んでいる。この中から気に入った人と交際できるという事なのだろう。画面をスクロールすると100人以上から選べるようだ。見た目しかわからないから、直感で選ぶしかない。俺は茶髪(ちゃぱつ)の小柄な少女を選んだ。


「じゃあこの子で」


「はぁい、では手続きしますねぇ」




 手続きを済ませ、いよいよ異世界に行く時が来た。


「ではいってらっしゃいませぇ」


 目の前が真っ暗になった。いや、ここは黒い部屋だ。壁も床も天井も黒くて、照明だけがある。その中に1人の少女が立っている。さっき俺がリストから選んだ茶髪の少女だ。俺が少女に近づくと、同時に少女が俺に近づいて来た。


「あの……」


 俺がそう言った瞬間、少女も同じ言葉を発した。いや、少女の声がするだけで俺の声は聞こえなかった。俺が手を動かすと同時に少女も手を動かした。まるで鏡のようだ。


 いや、鏡なんじゃないか? 俺は自分の手を見て、少女と同じ服装なのに気付いた。華奢(きゃしゃ)な手だ。下を見ると、胸に膨らみがある。本当に鏡だ! 俺、女になってる!


 またウィンドウが現れた。「警告 転生前の情報を決して他人に話してはならない。特に自分が男であったことを知られてはならない」とある。俺はこれから女として生きていかなきゃならないって事なのか!? なんでだよ! 俺はたくさんの女の子にモテたいって願ったのに、なんで自分が女の子になってんだよ!


 突然、体がふわっと浮き上がるのを感じると同時に周囲が青空になった。猛烈な風が吹きつけてくる。頭上に街が見える。わかったぞ、俺、真っ逆さまに落下中!!


「いやあああああっ!!」


 なんて金切声(かなきりごえ)出してんだよ俺! みるみる地面が迫ってきて……激突!! あれ、思ったほど痛くない? 何かふわふわの大きな袋の上にいる。これはエアマットかな?


 俺がいるのは公園の中。周りは日本の普通の住宅街っぽい。


 遠くで女の人が走っている。背が高くて細身の魅力的なスタイルだ。と思ったらこっちに向かってきた。揺れる長い黒髪、漫画のような大きな黒目に細い(あご)。美しい。その女の人は、息を切らしながら俺に話しかけてきた。


「あなた今、空から落ちてきたわよね?」


 俺の心臓が高鳴っている。こんな美女と会話していいのだろうか。いや、答えないと失礼だ。……あれ、正直に「はい」と答えて問題ないんだっけ。どこからが話してはいけない転生前の情報なのか、判断に困る。そんなことを考えているうちに彼女は続けて言った。


「私、女の子が空から降ってくるのを見たのは初めてよ。ここは女の子が降ってくる場所として有名だから、時々来てたのよね。降ってきたら私が連れて帰るんだって。そしたら遠くであなたが降ってくるのが見えたものだから、急いで走って来ちゃったわ。あ、ごめんなさいね、私の事ばっかりべらべらしゃべっちゃって」


 こっちは自分の状況がまったくわからないので、相手から一方的に情報を教えてくれるのは助かる。こんなきれいな声で話してもらえるなんて幸せだ。なんか体が震え出した。これって恋? 一目ぼれってやつか? 俺には誰でも一目ぼれしてしまう魅了魔法があったはず……もしかして俺が誰にでも一目ぼれしてしまう魔法って事か!?


「私は著路院(ちょろいん)(こい)。この街で魔道具職人をやっているわ。それでこの街ってのが……いけない、また私の事ばっかり。あなた、お名前は?」


 ここは正直に答えたらいけない場面だ。女の名前を答えないと。えーと、茂手(もて)……茉莉(まつり)。妹の名前。


「……俺……私、……茂手……まくり……といいます」


 緊張しすぎて()んじゃったよ! もういいや、茂手まくりで!


「まくりちゃんね。もう、なんてかわいいの!」


 恋さんは俺の両肩をつかんできた。顔が近い。なんか理性が崩壊しそうにドキドキする。


「それでね、この街は百合園(ゆりぞの)町っていって、女しか入れない街なのよ。暮らしているのは全員女性」


 女しか入れないから、俺が女にならないとここに転生できなかったって事か。いやそこは特例で俺だけ男でも入れるようにしてくれよ!


「そしてこの街では時々ね、記憶の欠けたかわいい女の子が空から降ってくるの」


 転生者が俺以外にもたくさんいるって事か。


「降ってきた女の子を見つけた人は、できるだけ保護してあげることになってるわ。だから……」


 恋さんが急に抱き付いてきた!!


「ひゃうっ!」


 何なになに!? あったかくて柔らかくて、心が満たされる。こんなの心臓が持たないよ!


「まくりちゃんは、私が捕まえたわ! 私の獲物(えもの)だから、私が持って帰るの!」


「ええっ!? さっき、保護することになってるって言ってましたよね? 保護と私物化は違いますよね?」


「そう、保護よ保護。うちの子になってもらうわ。一緒にご飯食べて、一緒の部屋で寝て、一緒に手をつないでお出かけして……」


 恋さんは顔を赤くして嬉しそうにまくし立てている。これって俺の魅了で一目ぼれしてるって事だろうか? 女同士でも効くのかな?


「どう? 私と一緒に暮らすの、嫌かしら?」


 こんな魅力的な人と暮らすのは願ったり叶ったりだ。


「全然嫌じゃないですよ! こちらからお願いしたいです」


「嬉しい! これでまくりちゃんは私のものよ!」


 恋さんは俺を抱きしめたまま歩き出した。引きずられる。結構身長差があるから、ほとんど持って行かれている感じだ。


「だから私物化しないでくださいって――!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ