幸せの街を目指して・呂里馬場の視点
異世界がゼロから徐々に成長していく様子を編集した動画を天国中に配信すると、なかなかの人気を博しおった。チャンネル登録者数もどんどん増えていっておる。コメントもたくさんじゃ。どれどれ……
「こんな狂った企画に7歳児を投入して面白がるとか、人権感覚無さすぎ」
わらわは心をいじりたいわけではないのじゃ、心の望みを叶えてやりたかったのじゃ。わらわにできる事には限りがあるのじゃが、心の幸せのために出来る限りのことはしたつもりじゃ。
「ロリババア、何もしてないくせに態度でかすぎwwwwww」
子曰く、オマエモナ――――!! 鏡の向こうに言うておれ、たわけが!
「新しい世界を創るのってわくわくする。私も参加してみたい」
む? 新しい世界に転生するのにふさわしい魂が来るのを待っておったが、実はすでに天国におる者たちにも適した者がおるのではなかろうか? コメントをもっと見てみると、この異世界に行きたいという者がちらほらおるようじゃ。ようし、ならば募集じゃ!
冒険者を楽しませるための異世界を創り上げていく開拓団のメンバーを、わらわの動画を通じて募集したのじゃ。すると12人がすぐに集まりおった。皆、やる気に満ちておる。これまでの天国暮らしが退屈で仕方なかったのであろう。
異世界の様子を見てみると、この人数が不自由なく暮らせるくらいには街が出来上がっておるようじゃ。よし、住人を増やすことを怜たちに告げておこう。転移魔法を使うと、怜たちは仲良く食事中じゃった。
「転生者が暮らせる街が出来つつあるようじゃのう」
「女神様。女神様からの試練、答えを考えましたよ」
試練? 何か試練を与えておったかのう?
「転生者みんなが協力しながら楽しむ方法でしたよね」
そういえば何かそんな事を言うたような気がするわい。ああ思い出した、放っておくと転生者同士が争うて荒廃してしまうから、何か転生者同士を協力させる策が要るのじゃった。わらわがその場で思いつかなかったから怜たちに考えさせたのじゃ。
「うむ。答えを聞こう」
「その答えは、みんなが仕事をしてお互いの役に立つ街にすることです。誰か一人が頑張ってみんなを幸せにするんじゃだめなんです」
「俺もそう思う。役に立つ方法は何だっていい。ダンジョンで冒険してアイテムを集めるのでも、変なものを作って面白がらせるのでもいい」
「かわいいものたーくさん作ったらねー、みーんなニコニコするんだー」
ふむふむ、皆真剣に考えておったようじゃのう。なんとなく良さそうな気もするのじゃが、これで転生者同士が仲良くやっていけるという理屈がよくわからんわい。でもそれを聞いては、わらわが何も考えておらんのがバレバレじゃ。
「それがそなたらの答えか。よくわかったのじゃ」
上手くいくかどうかなど、やってみんとわからん。こやつらに全部任せてみるとしよう。
「良かろう、合格じゃ! これなら安心してこの世界の運営をそなたらに任せられるわい」
「やったあ!」
試練を与えるつもりなど端から無かったのじゃが、怜の喜びようがすごいのう。これはいい動画になりそうじゃ。おっと、本題を言うておかねば。
「そろそろ転生者をたくさん送り込んでも良さそうじゃのう。彼らと協力してこの世界を大きくしてゆくのじゃ。開拓団じゃ!」
「開拓団か。いいな、にぎやかになりそうだ」
「そしてゆくゆくは転生者を冒険者として受け入れられるようにするのじゃぞ。この世界は異世界転生を楽しむのが目的じゃからのう、冒険を楽しめる仕掛けをたくさん用意しておくのじゃ」
そして5日後、開拓団を異世界に送り込んだ。異世界での様子を見てみると、怜たちに自己紹介しておるようじゃ。会話を聞いてみるとしよう。
「私、怜さんたちの仕事ぶりをずっと動画で拝見していまして、憧れていたんですよ。どうか私も視聴者数獲得に貢献させてください」
「え? 動画って、何のですか?」
怜が戸惑っておる。
「呂里馬場さんが配信されている動画ですよ。皆さんが異世界創造に奮闘されている軌跡をまとめた動画です」
「私、そんな動画を撮られてるって聞いてませんよ?」
「ええっ!? 呂里馬場さんに騙されていたんですか?」
どよめきだしおった。何だかわらわが悪いという空気になっておる。わらわは動画を撮っておることを怜たちに告げておらんかったが、それは怜たちが動画の面白さを目標にしてしまうと茶番じみた内容になってしまいそうじゃったからじゃ。わらわは皆が暮らしやすい世界を本気で創ってほしいのじゃ。
む、杉輝が転移魔法を発動しおった。行先は……わらわの目の前じゃ――!!
「おい、ロリババア、どういうことだ」
杉輝が他の全員を連れて来おった。すごい剣幕じゃ。
「どうして俺たちに黙って動画を撮った」
「そ、それは……」
そのほうが面白いから、などと言うては火に油じゃ。確かにわらわは配慮が足らんかった。何か良い言い訳は……思いつかぬ。
「本人に内緒で勝手に動画にして視聴者数を稼ごうだなんて……」
杉輝はテーブルをバンと叩きおった。まずいのじゃ。
「最初から言ってくれれば、もっと面白い事を色々やったのに!」
動画にされたことを怒っておるのではないのか――!
「わかっておらぬのう、杉輝よ。異世界創造に本気で取り組むのが面白いのであって、ふざけてしもうては視聴者が白けてしまうのじゃ」
「わかってないのはそっちだ。視聴者に気付かれないように自然な流れでネタを台本に仕込むのがプロってもんだ」
「そなたはプロの放送作家ではなかろう! よいか、この異世界創造は、多くの者が楽しく暮らせる世界にすることが第1の目的じゃ。動画配信は副産物であって、ただのついでじゃ。ふざけて世界を面白おかしくするでないわい」
「じゃあ、異世界に暮らす人にとっても面白かったらいいんだな」
「それであれば、わらわは構わぬ」
実際のところ、動画の内容がだんだんマンネリ化してきておった。開拓団の投入はテコ入れになるじゃろうが、その後の展開を杉輝が面白くしてくれるのじゃったら、わらわは楽ができるわい。
そうそう、開拓団の第2陣の選考もせねばならぬし、これから天国に来る者から転生者候補をスカウトせねばならぬ。これではわらわのやりたいように動画配信する暇が無いのう。誰か代わりに選考してくれぬものか……そうじゃ、わらわが転生者を選ぶのではなくて、転生者を選ぶ者をわらわが選べばよいのじゃ。後の事はそやつに任せれば、わらわは動画配信に専念できるわい。
とまあ、こうして成り行き任せで始まった異世界創造じゃが、わらわは時々口出しする程度でうまく回っておる。この1年後に慧羅僧菩薩に仕事の成果を報告したときは、また色々取り繕うことになったのじゃが、何とか納得してもろうた。そしてさらに1年後、ようやく転生者を冒険者として受け入れられるまで世界が発展したのじゃ。これが新しい異世界転生のあり方として定着してほしいものじゃのう。




