2階層目の武闘家ココロ・堀田放の視点
翌日、僕の部屋にレイが入ってきた。角としっぽは無いし、スカートのお尻に穴は無い。
「昨日は取り乱してごめん。私、今日もホールと一緒に冒険したい」
良かった、レイが怒って出て行くかと心配してた。
「僕もだよ」
2人で昨日のダンジョンに行った。
「私たち強くなったし、今日は下の階層に行けるかな。多分フロアボスも倒せると思うんだ」
「フロアボス? 倒さなくてもいいんじゃない?」
床に手をつくと床に大きな穴があいた。覗いてみると危険は無さそうだったので飛び降りた。
「大丈夫だよ。レイも来なよ」
「え……。これっていいのかな」
2階層目は結構明るく、水色の壁にホイップクリームのような模様があって華やかだ。レイも飛び降りてきて、そのまま通路を進むとモンスターに遭遇した。羊のモンスターのようだけど、球体に近い丸っこさでかわいい。飛び跳ねて近づいて来た。
「気を付けて。この子たちは単独だと弱いけど、群れると一斉にのしかかってきて動けなくしてくるそうよ」
周りを見回すと、あちこちから丸い羊たちが近づいて来ている。群れになりそうだ。
「広い場所だと個別撃破しにくいな」
この場を離れよう。壁に穴をあけて通り抜けようとしたら、レイに腕をつかまれて止められた。
「危ないっ!」
え? 穴の向こうを見ると、真っ暗で何も見えない。レイは氷魔法で羊たちを一気にやっつけた。
「その向こうに行っちゃだめよ。見てて」
レイは穴の中に向かって光の魔法を放った。光はどこまでもまっすぐに進み、何も照らされない。この奥に壁も床も存在しないようだ。
「これは虚空の深淵って言って、落ちたら絶対に戻って来られないと言われてるの。ダンジョンの外には虚空の深淵が広がっているらしいよ」
「確かに危なかった。ありがとう、気を付ける」
この穴をこのままにしておくと危険だな。ふさげないだろうか? そう思って穴に手をかざすと、穴はみるみるうちにふさがっていった。万能穴あけスキルは穴をふさぐこともできたんだ。
少し進むと分かれ道が多い場所に来た。あちこちから丸っこい猫、牛、鳥などが近づいて来ている。
「今のうちに個別撃破するよ。私はこっちの道のをやっつけるから、ホールはそっちの道のをお願い」
「わかった」
僕は丸っこいモンスターたちを次々とやっつけていき、この近くは全滅させた。隣の道の敵をやっつけよう。壁に穴をあけて驚いた。ものすごい数の丸っこいモンスターが密集している! 壁際ではレイが追い詰められていて、もう一人の女性冒険者がしゃがみこんでいる!
「任せろ!」
僕は穴に飛び込んで近くの敵に穴をあけ、すぐに床に手をついて10メートルくらいの大穴をあけた。床の下は虚空の深淵になっていて、モンスターたちは遥か下まで落ちていった。
「虚空の深淵だ。もう大丈夫」
振り向くと、レイは呆然としていて、もう一人の冒険者は泣き出した。あれだけのモンスターに囲まれたんだから、おそらく死を覚悟していたんだろう。その恐怖から解放された安心感で泣くのも無理はない。レイはすぐに緊張した顔に戻って言った。
「私はこの人が落ち着くまで護ってるから、ホールは向こうの敵をやっつけてきて」
「ああ、任せた」
床の穴をふさいでから、僕は周辺のモンスターたちを個別撃破で一掃していった。さっきの場所に戻ると、冒険者は落ち着きを取り戻していた。
立つとすごく背が高い。190センチ近くあるんじゃないか。美しい顔と茶髪も気になるけど、何よりものすごく大きな胸が目を引く。これぞまさにファンタジー。この世界に来て良かった。
「はじょろーん。武闘家のココロだよー。助けてくれてありがとー」
はじょろーんって何なのかわからないけど、笑顔がかわいい。
「僕はホール。無事でよかった」
「あんな穴をあける魔法なんて初めて見たんだよー。すごかったからねー、もっと見せてほしいなー。ココロも一緒に行っていいかなー?」
こんな巨乳が……いや、モンスターに襲われていた人が仲間になるのを断るわけがない。
「もちろん、いいよ」
「私もいいけど……ねえホール、私とパーティー組んだ時と比べてずいぶん乗り気じゃない? そんなにおっぱいが大きいほうがいいの? 私も結構大きいほうだと思うんだけどな」
まさか、ココロの胸をちらちら見ていたのに気付かれた?
「ココロのおっきなおっぱいを見たり触ったりした男の人は虫になっちゃうんだよー。気を付けてねー」
なんだよその呪い! トラップかよ! まあ今後僕が触る機会なんて無いだろうから関係ないけど! でも悔しい! 横でレイがくすくす笑っているのがさらに悔しい。
3人でダンジョンを探索した。丸っこいウサギに遭遇すると、ココロは素早くウサギを捕まえ、そのままぎゅっと抱きしめた。あの胸を押し当てられるなんてうらやましい……と思っていたらウサギは煙になって消えた。腕で締め付けるだけでやっつけたらしい。ココロの力や素早さは結構なものだけど、隙だらけで危なっかしい。
「そうだ、これ3つあるから1つ使いなよ。防御力が上がるよ」
僕は防御力のネックレスをココロに手渡した。
「ありがとー! ねーえ、ココロきれい? ココロおとな? くふふっ」
ネックレスを見せつけてきてるけど、それより他の所が大人すぎるよ!
そして2層目のフロアボスにたどりついた。ボスは3メートルほどのウサギのモンスター。穴あけスキルで楽勝できるかと思いきや、僕が手で触れようとした瞬間にジャンプでかわされ、顔面にキックを受けた! 衝撃で床に倒れてしまった。
「ココロに任せて!」
後ろ足で立ち上がっているウサギの顔面に向かってココロがジャンプし、長い脚でムチのようなキック! のけぞるウサギの顔面にさらにパンチやキックを連続で繰り出していく。すごいすごい、何十発決まった? ついにウサギは煙となって消え、ココロが着地した。……って、ココロはいったい何十秒間空中にいた!?
「やったよー!」
「ココロって強いんだね。で、どうしてずっと空中に浮かんでたの?」
「ふふーん、聞きたい?」
「うん、聞きたい」
「じゃーココロが教えてあげるねー。ウサギさんの顔が高い所にあったからだよー」
どうも話が通じにくい人だな。
「そうじゃなくて、普通はジャンプした後落ちるよね。どうして落ちずに空中にとどまっていられるのって事」
「落ちなくても怒られないよー」
「いや、そうじゃなくて。どうやって落ちないようにしてるのって事」
「んっとねー、冬魔法? っての」
「浮遊魔法でしょ」
レイからツッコミが入った。
「へえ、ココロも魔法を使えるんだ」
「そだよー。でも得意な魔法があんまり無いから武闘家やってるんだよー」
魔法は魔法使いでなくても使えるわけか。僕もそのうち魔法を覚えられるかな。というか、僕はまだジョブを決めてないな。
フロアボスからはテントがドロップした。HPやMPが徐々に回復する効果のあるテントで、野外での冒険に役立ちそうだ。