乙女ゲームの世界へ・大塚怜の視点
「ときに怜よ、そなたは乙女ゲームはやった事があるかのう?」
オフィスで女神様が唐突に私に聞いてきた。
「はあ、『癒しの聖女と契りの指輪』なら結構やりましたよ」
「うむ。であればそのゲームのキャラの個性とか舞台とかも知っておろうな」
「そうですね」
「決まりじゃ。そのゲームの舞台を造るがよい。今流行りの悪役令嬢への転生をわらわたちもやるのじゃー!」
心ちゃんと杉輝もこっちに来た。
「なになにー? なんか新しいことやるのー?」
「そうじゃ、わらわが完璧で斬新な計画を思いついたのじゃ。今、この世界で学校を始める計画が進行中であろう。それを乙女ゲームの舞台にしてしまうのじゃ」
「心がゲームの世界の学校に通えるってことー? やったー!」
「そこにのう、乙女ゲームの主人公と悪役令嬢として女子を転生させてのう、それから攻略対象として男子を転生させるのじゃ。そうしたら転生者同士で勝手にイチャイチャして楽しんでくれるわい。わらわたちはカメラを回すだけで面白い動画ができるのじゃ、かーっかっかっ」
「攻略対象の男子たちにはどうやってゲームのシナリオ通りに動いてもらうんですか?」
「そんなもん適当でよかろう。大体の雰囲気が『いやしい聖女となんとかかんとか』に似ておれば十分じゃ」
杉輝が口を挟んだ。
「その『いやらしい聖女とあんな事やそんな事』なんて乙女ゲームをやった事がある男なんてそんなにいないだろ」
そんなタイトルの乙女ゲームがあってたまるか。
「ここにおる怜がやった事あると言っておるんじゃ。怜がシナリオを教えて演技指導してやればよかろう」
「え――っ! 私、教えられるほどゲームの内容を覚えてませんよ!」
「ねー、神様の力でそのゲームをここに出してよー」
「むう、現世から情報を転送することは出来んでのう、知らぬものは作れぬのじゃ。まあ怜が覚えておる範囲でよいのじゃ、大して似ておらんでも何とかなるわい」
どこが完璧な計画だ。女神様ってほんと能天気で無茶振りばっかり。
私はうろ覚えでキャラクターや建物のデザインをした。ゲームのパクリだけど、現世とは世界が違うから著作権は適用されないだろう。そしてゲームのイベントに合わせて学校のカリキュラムを組んだり、ダンジョンとかで発生するイベントを準備したりした。そうしてついに魔法学院の開校準備が整った。
そんな中、カナちゃんが困り果てた様子でやって来た。
「あーもう、困りましたぁ。乙女ゲームの世界への転生予定の男の子が1人しかいませんよぉ」
杉輝がカナちゃんの頭をなでた。
「よしよし。やっぱこの計画は男にとってのメリットが無さすぎるよな。乙女ゲームなんて知らないし、シナリオ通りに動かないといけないし、4人の男が2人の女をめぐって争うわけだし」
そりゃそうだよね。希望者が1人現れただけでも奇跡だよ。
「男女比については心配要りませんよぉ。転生予定の女の子は8人いますぅ」
「そっか、なら男は女を選び放題だな」
私は二人を制止した。
「ちょっと待って! 女役は2つなのに、なんで女子を8人も確保してるの! そっちのほうが問題だよ!」
「女の子はみなさん食いつきがいいんですぅ。適性ありそうな希望者に許可してたら8人になっちゃったんですぅ。今は皆さん眠ってもらっていますぅ」
「どうすんのよ!」
「このまま永遠の眠りについてもらおう」
「現世で永遠の眠りについて天国に来た人たちだよね」
「女の子たくさんの乙女ゲームだねー。にぎやかで楽しそうだなー」
心ちゃんは乙女ゲームが何なのかわかってなさそうだ。
「主人公や悪役令嬢に転生してもらうってぇ、転生予定者にはもう説明しちゃいましたぁ。主人公4人、悪役令嬢4人でやるしかありませんよぉ」
このままだと女子8人が1人の男子を奪い合うという悪夢のような乙女ゲームになってしまう。こんな状況の原因を作った女神様に何とかしてもらおう。私は女神様に状況をメールした。少しすると返信が来た。
「女が多くても何とかなるじゃろ、8人でやるがよい。男役が3人足りぬというのであれば、杉輝・怜・心を割り当てよ。誰とも付き合えぬ女がおらぬよう、男役は一人で複数の女を楽しませるのじゃ」
状況が悪化した――!!
「なんで女が男役として女と恋愛することになってんの! わけわかんないよ!」
「俺はわかるぞ、ロリババアの意図。いいか、俺たちは異世界転生の裏方だ。転生者をもてなして楽しませるのが仕事だろ」
「うん」
「ということは、転生者たちが楽しんでくれさえすれば目的は達成だ」
「どうやって?」
「女たちが『女2人が男4人から選び放題』って信じていれば問題ない。実際は男2人女2人が女8人と付き合っていてもな」
「それは浮気者の理屈! 二股されたほうはたまったもんじゃないってば!」
「これは現実じゃない、乙女ゲームだろ。乙女ゲームの男たちは1人のプレーヤーしか愛さないか? 何万人ものプレーヤーを愛してるはずだ」
状況は底なし沼に沈んでいくようにもがけばもがくほど悪化し続けている。転生者をもてなすどころか犠牲者にしようとしている。
その後、私は抵抗むなしくクール第2王子の役をすることになった。キザーオ第1王子役は木崎礼介という転生者だ。杉輝はノーキン第3王子役、心ちゃんはショタン第4王子役。心ちゃんは女子小学生の姿で学校に通うので、王子の姿と切り替えながら学校生活を送ることになる。
私は王子役のみんなにゲームの王子の性格や行動を細かく説明した。ゲームをプレイした人が見ても違和感無いようにするために、これから練習しないといけない。
「キザーオ王子はずいぶんぶっ飛んだキャラだから演じるのは難しいと思うけど、ごめんね」
「確かに難しい役どころですけど、まさに天国を体現したかのような美しさの怜様のため。例えこの身が砕けるほどの厳しい修行であっても、キザーオ王子役を体得してみせましょう」
「うん、練習いらない。もう完璧」
この木崎くんという人、元々こんなセリフを素で言える人なんだ。
いよいよ魔法学院の入学式の日。主人公同士や悪役令嬢同士が出会わないように、入学式はクラスごとに別の時間に行うようにしている。
私は自分のキャラクターをクール王子に変更した。男キャラとして行動するのは初めてで恥ずかしい。クール王子は背が高いから、普段より目線が高くて落ち着かないな。
「怜ちゃんかっこいー」
心ちゃんもキャラクターをショタン王子に変更している。
「心ちゃん、かわいい! なんでだろ、こっちが本当の心ちゃんに思えてくる」
「えー! 心は女の子だもん!」
杉輝と木崎くんと一緒に校門に行くと、生徒たちの中に悪役令嬢のアクヤを見つけた。さっそく木崎くんが声をかけた。
「これはこれは、クレージョー侯爵のご息女のアクヤ殿ではありませんか。王立魔法学院へようこそ」
「これはキザーオ王子殿下、このようなわたくしめにお声をかけていただき光栄ですわ」
「あなたの美しさはまさに太陽フレア。周りにオーロラが発生してしまうほどの眩さを、どうして無視できましょう」
「まあ、お上手ですこと」
何なの、この会話。ゲームの中ではこんな雰囲気が当たり前だったけど、リアルで聞くと非日常感がものすごい。こんなセリフがすっと出てくる木崎くんもすごいけど、このアクヤ役の人もどうしてこんなにスムーズに貴族令嬢っぽく話せるのよ。私もクール王子らしく、中指をメガネに当てて言わなきゃ。
「兄上、新入生女子とあれば美しさを褒めるのは、いかがなものかと思います」
恥ずかしい。誰とも目を合わせたくない。目をそむけると、主人公プレーヤが来るのが見えた。今度は私から声をかけよう。
「おや、あなたは確か『癒しの聖女』ではないか。あなたもこの魔法学院に通うとは」
プレーヤが答える前に木崎くんが大声で言った。
「初めまして、第1王子のキザーオです。あなたの笑顔の美しさには百万本の花束も霞んで見えてしまいます」
「初めまして、プレーヤといいます」
「およしになって、このようなつまらない顔をお褒めになるのは」
うわぁ、アクヤがきっついセリフを言ってプレーヤをにらんでる。ゲーム通りに悪役になる必要なんて無いんだから、もっと仲良くするよう忠告しておこう。
「アクヤ殿。プレーヤ殿は平民とはいえ我々と同じ魔法を学ぶ学友の立場だ。それを『つまらない顔』などと蔑むのは感心しないな。そして兄上ももっと節操を持っていただきたい」
するとプレーヤが制止してきた。
「よして下さい。私が褒められるに値しない存在なのは事実ですので、アクヤ様はこれっぽっちも悪くありません。それでもキザーオ殿下が褒めてくださるご慈悲、大変ありがたく頂戴します」
この人、第一印象で好感度を上げようとしてるな。攻略する気満々だ。プレーヤは私にもっと寄ってきた。
「ですのでクール殿下、私のことは遠慮なさらず蔑んでくださって結構です。いやむしろ積極的に蔑んでください。というか罵ってください」
違った――! 私、これからこんな人たちと恋愛しなきゃいけないの?
それからは、私は休み時間だけこの学校に行き、毎回A組からD組のどれかでプレーヤかアクヤと話をするようにした。A組のアクヤは悪役令嬢っぽさが断トツで、プレーヤにトランプ勝負を持ちかけたりと、何かと張り合っているようだ。私は冷淡なキャラを演じ続けている。仲良くなってきたらだんだんデレていく予定だ。




