ホールとレイのダンジョン脱出・堀田放の視点
2人でモンスターを倒しながら出口を目指した。
「ホールの穴をあけるスキルってすごいね。どんなモンスターも一撃だもん」
「でも手で触らないといけないから間合いが狭いのがネックだよ。素早い敵にはレイの魔法が頼りだよ」
通路の突き当りを左折した。
「あれ? さっきも左折したから逆方向に進んでるよ」
「ここの壁の向こうに行くにはぐるっと大回りしなきゃいけないのよ」
「だったら真っすぐ進もうよ」
壁に手をつくと、1メートル以上の穴があいて壁の向こうに繋がった。
「ええっ! そんなのあり!?」
レイの驚きっぷりがすごい。この世界の冒険者には、ダンジョンは通路を進むものという固定観念があるのだろう。僕は得意げに穴をくぐった。
「こうやって最短距離で進もうよ。出口はどっちの方角?」
レイは考え込んだ後、指で方向を示した。
「あっちよ」
今度は僕が前を歩いて次々と壁に穴をあけていった。もしレイが僕を罠に誘い込もうとしているのなら、こんなふうに進まれると当てが外れるだろう。
しばらく進むと立派な扉が現れた。
「ここの扉には鍵がかかっているのよ。中には貴重なアイテムがあるって噂だけど、誰も入ったことが無いんだって」
「誰も入ったことが無いのにどうしてそんな噂があるんだろ」
「昔誰かがここを造って大事なものを厳重に保管したけど、長い年月の間に中身を知る人がいなくなったんじゃないかな」
「何の部屋か書いてないなんて、昔の人も間が抜けてるね。もしかしたらここを造った人の恥ずかしい物が隠されてるのかもね」
「そんなの夢が壊れる」
「開けてみよう」
扉に手をついて念じると、バチッと音がして手が弾き返された。
「うわっ」
「あ、この扉には結界が張られているようね。魔法は効かないみたい」
「じゃあ扉じゃなければ効くのかな?」
扉の横の壁に手をついた。
「ホール、気を付けて。どこにどんなモンスターが潜んでるかわからないからね」
壁に大きな穴があいた。
「キシャアアア!」
突然の悲鳴にびっくりした。壁の断面にはモンスターの肉のようなものが見え、すぐに煙となって消えた。壁と一緒にモンスターにも穴をあけてしまった? というか、壁の中にモンスターが埋まってた?
「いくらどこにいるかわからないって言っても、壁の中は予想外すぎるよ!」
そして僕のレベルが上がった。
「えっ! 僕のレベルが13から41になった!」
「多分相当強いボスキャラが壁の中に潜んでたのね」
穴を通って部屋に入ると、ドロップアイテムとしてネックレスが3つ落ちていた。手に取ると「魔力のネックレス 防御力のネックレス 素早さのネックレス」とウィンドウに表示された。
「見てよ、すごくわかりやすい名前のアイテムが手に入ったよ」
「わっ、これ欲しい」
レイは喜びながら魔力のネックレスを首にかけた。
「すごい、魔力がすごく上がってる! これならもっと下の階層のモンスターも楽々倒せそう!」
僕は防御力のネックレスと素早さのネックレスを首にかけてみた。ステータスを見ると、防御力と素早さが激増している。試しに走ってみると、今までの何倍もの速さだ!
「体がものすごく軽いよ! レイ、僕を思い切り蹴ってみて」
レイはドン引きした顔になった。
「ごめん、私はそういう趣味無いから」
「僕もそういう趣味無いよ! 防御力を試そうってことだよ!」
レイは無言で僕の腹を蹴った。うん、大して痛くない。でもドン引きした顔のままで蹴られると心が痛いよ。
「うん、平気だ」
僕は何事も無かったかのように先に進んだ。
その後の戦闘は実に快適だった。瞬発力が上がっているので一気に間合いを詰めて敵に触れることができる。レイの魔法も威力が激増していて、大勢の魔物を一掃することができる。
そしてついに、まぶしい光が見えてきた。
「外だ!」
ダンジョンの外に出るとそこは草原で、すぐ近くに街が見える。
「あれが私たちの拠点の街、ボーケンよ」
冒険者の街がボーケン。わかりやすくて助かる。レイは街に向かって歩き出した。
「さ、一緒に行こう」
レイはちゃんと街までの道を案内してくれてたんだ、疑ってごめんよ。
ボーケンは小さな街らしく人通りは少ないけど、街並みや人々の服装は中世風ファンタジー世界を感じるのに十分だった。ゲームやアニメにしか無いと思っていた世界がここにある。店の看板が全部日本語に見えるのは、きっと脳内で自動的に翻訳されているのだろう。
2人で店に入り、それぞれ集めたドロップアイテムを売却した。ナイフ、コップ、鉛筆……。なんでモンスターから日用品がドロップするんだろう。
夕食をとってから宿に行った。
「ここがホールの部屋。私は隣の部屋に泊まるからね」
「お疲れさん」
ダンジョンではレイのことを少し警戒していたけど、さすがに宿では何もしてこないだろう。レイが魔族なのかどうか聞くなら今だ。
「あのさ……レイって、実は本当の姿を隠してるんじゃない?」
レイは驚いた。少し黙った後、視線をそらしながら言った。
「……やだ、何のこと?」
僕はレイに顔を近づけた。
「ごまかさなくていいんだよ」
レイはお尻をこっちに向け、震えた声で言った。
「私、隠し事なんてしないよ。ありのままの自分を見せてるよ」
スカートにわざと穴をあけてパンツを見せてるって事!? この世界だとそれが信頼される方法なのか?
「僕は、レイと……例えレイが普通の冒険者じゃなくても……普通の人間じゃなかったとしても、また明日一緒に冒険したいと思った。どうすれば信じてもらえる? パンツを見せればいいの?」
僕がズボンを下ろそうとしたらレイが止めた。
「ちょっ、パンツなんて見せなくていいから!」
嫌そうな顔をしている。どうやらパンツと信頼は関係ないようだ。
「……気づいてたんだ、私の正体」
「うん。本当は角としっぽがあるんでしょ。魔族なんでしょ」
レイは困惑した。
「わかった、本当の姿を見せてあげる。恥ずかしいからちょっと待ってて」
そう言って隣の部屋に行った。少しして叫び声が聞こえてきた。
「え――――っ!!」
レイが僕の部屋に駆け込んできた。頭には角があり、スカートの穴からしっぽが出ている。
「なんで私のスカートに穴があいてんの!?」
角があること以上に表情が鬼の形相だ。
「さあ……。出会ったときからあいてたよ」
「ということは今日ずっとお尻が見えてた!? 街の中でも!?」
「もし助け起こしたときにうっかり穴をあけてしまったとしたら、ごめん」
レイは走って出ていき、隣の部屋に入って扉を勢いよく閉めた。