伝説の武器防具・麩酒杉輝の視点
怜たちが仲間になるイベントはこれでよしとして、次は伝説の剣を引き抜くイベントだ。この奥の部屋には伝説の剣を岩に突き刺してある。誰も引き抜けない剣を勇者が引き抜いて見せるというのが定番だけど、それだけだとあまりにお約束通りでつまらないので、ダミーのめちゃくちゃ長い剣、名付けてトゥーロングソードを隣に突き刺してある。さらに「伝説の剣」と書いたパネルを掲げることで、伝説の剣っぽい雰囲気をぶち壊しておいた。
「これが伝説の剣だな。そう書いてあるから間違いない」
「そう書いてある事で伝説の剣っぽく見えなくなってるんだけど」
俺が期待した通りのツッコミを返してくれてありがとう。
「俺が引き抜いてみる」
雄烈が伝説の剣を引っ張ってみたが抜けなかった。あまりにも簡単に抜けたら拍子抜けだと思って少し力が要るように刺してみたんだが、少しきつすぎたか。
「こっちは抜けねえな。もう1本も試してみるか」
雄烈はトゥーロングソードを引き抜き始めた。よし、今のうちに伝説の剣のほうを抜けやすく調整しよう。
「なあ心。剣をちょっと抜けやすくしたいから、この岩にパンチでひびを入れてくれないか?」
「いいよー」
心がしゃがんで岩を叩いてみた。でも割れない。
「うーん、これ邪魔」
心は剣を引き抜いて放り投げ、今度は力を込めて岩を殴った。すると岩に亀裂が走った。
「割れたよー」
「お前が剣を抜くなよ。剣を戻しておけ」
心は剣を岩の割れ目に差し込み、雄烈に呼び掛けた。
「ねーねー、剣のそばの岩を壊してみたよー。抜けやすくなってないかなー」
雄烈が剣を引っ張ってみたけど抜けなかった。心が深く差し込みすぎたか。レベル99ってどんだけ非力なんだよ。雄烈はまたトゥーロングソードを引き抜きだしたので、もう1回調整しよう。
「心、もうちょい抜けやすくしようか」
「うん」
心が再び岩を殴ると、岩は粉々に砕けて剣が倒れた。
「まずいまずい、倒れないようにしないと」
俺と心は岩の破片を積み上げて剣が倒れないように支えた。うん、剣が岩に刺さっているようにかろうじて見え……なくもない……かも?
「まあこれでよしとしよう」
また心が雄烈を呼んだ。
「ねー、岩をもっと壊してみたよー」
「よくここまで壊したな、おい! なんかもう抜けねえほうがおかしいじゃねーか」
雄烈はあっさりと伝説の剣を抜いた。
「おめでとー! 剣を引き抜いたから、オレツェーは伝説の剣にふさわしい勇者だよー!」
「いやほとんどお前が抜いたも同然だろ!」
残念、ばれたか。
「まあいい、これで俺は世界でひと振りの伝説の剣の所持者だぜ。俺の名が世界に知れ渡るぞ。俺を崇め奉っておくんだな」
伝説の剣を持つことで雄烈がいい気になってくれたから、これはこれで成功だとしよう。
「それはすごい。ちなみに僕のこの矛は伝説の矛だよ」
堀田よ、今回のミッションは雄烈が主人公だ。せっかく雄烈がいい気になってくれたのを台無しにするんじゃない。そしてこの矛は何でも貫くそうだが、万能穴あけスキルとあまり変わらないじゃないか。どうしてそこまで穴をあけることにこだわるんだよお前は。
その伝説の矛で怜の持つ伝説の盾を突いたらどうなるかという話になり、俺が伝説の矛で伝説の盾を突いてみた。そしたら盾の手前で空間がねじ曲がって矛が俺に突き刺さった。怜め、こうなるとわかってて止めなかったな。
ダンジョンから街に戻る道すがら、雄烈に気付かれないようにこっそり心に尋ねた。
「なあ、伝説のナイフはお前が作ってあるんだろ。どこにあるんだ?」
「さっきのダンジョンでモンスターからドロップするように設定したよー」
俺たちは手に入れられなかったけど、別の冒険者が手に入れて売り払ったかもしれない。
「もう街に出回ってるかもな。案外、店で伝説のナイフが普通の値段で売られてるんじゃないか?」
怜が話に割り込んできた。
「もー、杉輝ってばすぐ雰囲気を台無しにする展開ばっかり考える」
「お約束の展開ばっか予想してたら、そこから外れたときに対処できんだろ。こういう事態も想定しておくもんだ」
そして事態は予想の斜め上をいく展開を迎えた。夕食でステーキを食べるときに使ったナイフが伝説のナイフだったのだ。俺たちはそのナイフを買い取った。
それからも俺たちは時々雄烈とパーティーを組んで冒険に出掛けた。雄烈のレベルは99のままだが、戦いの腕前は上達してきているようだ。
そんなある日、オフィスにロリババアがやって来た。
「今取り組んでおるレベル99勇者の冒険、なかなか面白い動画になりそうじゃのう」
「レベルの事はなんとか本人にばれてないけど、いつもヒヤヒヤしてるぞ。この世界の全員に口止めできるシステムを作ってくれよ」
「そんなの今すぐにできるわけなかろう、2週間はかかるわい。それよりな、動画の脇役に使える役者を修羅道から召喚することができるようになったのじゃ」
人の死後に向かう先は色々ある。ここは「天道」。もう一度人間に生まれ変わる「人間道」、動物に生まれ変わる「畜生道」などもある。「修羅道」もその一つで、争いの絶えない厳しい世界らしい。
「なんでそんな所から」
「天道すなわち天国は善い行いへの褒美として存在するものじゃからのう、つまらぬ仕事をさせるわけにはいかぬ。修羅道はあまり善くない者どもが行く場所じゃから、こちらから命令してこき使うことのできる立場なのじゃ」
「だったら何でお前は俺たちをこき使ってんだよ」
「たわけが。ここは天国の中で最もランクの低い、大した善人でもない者どもの来る場所じゃ。それゆえ天国といっても労働の義務がある中で、わらわはそなたらに面白い仕事を用意してやっておるのじゃぞ。感謝するがよいわ」
横道にそれかけた話を怜が引き戻した。
「で、その修羅道から召喚する人たちをどう使うおつもりですか?」
「そう、それじゃ。あの勇者にふさわしいレベルの悪役を用意してやりたいのじゃ」
「なるほど、この世界の人だとレベルが高すぎて、いかにも手加減してる演技になりがちですからね」
「それに召喚された者は死んでも元の世界に戻されるだけじゃからのう、気兼ねなくやっつけられるのじゃ」
「でもあのレベルの悪役ってどんな役だ? ガキ大将役か?」
「馬鹿者、魔族役じゃ。見た目だけは街を滅ぼす脅威にせんでどうするか」
結局、レベル60から100くらいの魔族キャラの設定やデザインを5体分用意した。




