最初からレベル99・麩酒杉輝の視点
俺、麩酒杉輝の新しいダンジョン製作もずいぶん進んだある日のこと。オフィスで仕事をしていると、天使カナエルが転移魔法でやって来た。
「皆さーん、また新しい冒険者の仲間になる当番がやってきましたぁ。男の子ですよぉ」
最近は続々と新しい転生者を冒険者として受け入れていて、最初に仲間になって導く役割は当番制になっている。怜がカナエルに近寄った。
「カナちゃん、なんか頭にコブがあるよ」
「今度の転生者にやられたんですぅ」
「ひどい人だね、よしよし」
怜はカナエルに治癒魔法をかけた。殴るのはひどいと思うが、カナエルの性格からして自分に落ち度はあっただろうな。
「カナエルがキスを迫ったりしたんじゃないか?」
「私をなんだと思ってるんですかぁ。私がキス程度で満足するわけないですぅ」
「もっととんでもないこと要求してたのかよ!」
「それより、その転生者の願いは何?」
「最強になってちやほやされたいそうですぅ」
「そういう願いは受け入れないということになってたよね」
異世界転生というと、最強になってハーレム作って思うがままの勝ち組人生を送るというイメージが強いから、こういうことを願う人は多い。でもそれで最強になった人が世界に2人以上いたら最強じゃなくなってしまうから、この願いは1人しか叶えられない。
「それがですねぇ、この人はレベル99になりたいそうですぅ」
心がやってきて言った。
「たった99なの? 心なんてレベル2千……えっと、いーっぱいあるよー」
「2800でしょ」
俺はレベル3500以上ある。怜も3200はあったはず。ボーケンの街の人の平均レベルも2000を超えている。堀田のときはレベル8から始めたけど、周囲の人に比べてレベルが低すぎると面白くないというのが堀田のテストプレーの結果だったので、その後転生してきた冒険者は最初からレベル500以上はあるようにしている。
今度の転生者はレベルは99が最高だと思い込んでるんだろう。このままレベル99で転生させたら、周りとのレベル差に絶望するだろうな。
「低いレベルから急激にレベルを上げさせて、成長を楽しんでもらうことにする?」
「レベル99が上限なのを望んでるそうですぅ」
レベル99で固定で、それ以上上がらないのかよ。そんなの、周りのレベルを知った日には……
待てよ? 知らなきゃいいんじゃないか?
「それでいこう。本人がレベル99を最強と思ってるんなら、ずっとそう思わせておこう」
「天国って、善い人生を送った人へのご褒美でしょ? これだと都合のいいようにだましてるだけで、ご褒美になってないよね」
「自分が世界最強って信じてりゃ幸せだろ。バレない間はご褒美だ」
そもそもこんな人を見下すような願いをしたり、カナエルに暴力をふるったりする奴が天国に来るのがおかしい。そんな奴には相応の対応で十分だ。
「この前造ったダンジョンだったらレベル99でもなんとか攻略できるだろうけど、他のダンジョンは歯が立たないだろうね」
「だったら最強の武器でも持たせてやろう。核ミサイルとか」
「最強すぎ。街ごと破壊してどうすんのよ。ダンジョン攻略の最強の武器っていったら伝説の剣でしょ、普通」
「エクスカリバーとかじゃなくて『伝説の剣』かよ。俺は好きだぞ、お前のわかりやすさ重視のネーミングセンス」
「かっこいー! じゃー心は伝説のナイフを使いたーい」
怜は顔をそむけた。
「そういう名前の剣って意味じゃないんだけどな」
その冒険者、雄烈栄を異世界に転生させ、俺と心はその近くで雄烈を待ち構えた。心がトレントに捕まっているところを雄烈が助けて、俺たちが仲間になるという筋書きだ。セリフを心にしっかり覚えさせてから、トレントの蔓で心をぐるぐる巻きにして釣り上げてみた。
「おー、高ーい」
「平気か? きつくないか?」
「きつくないよー。なんかおもしろーい」
胴体と脚に巻いた蔓がうまく体重を支えられているようだ。これで問題ない……いや待った。蔓が胸の所に食い込んで、おっぱいの形がくっきりしている。これはこれで危険なのでは? いや服は破れていないから問題ないはずだ、今のうちにじっくり観察しておこう。でももし服が破れたら、俺は虫にされてしまうのか?
「大丈夫か?」
不意に後ろから声をかけられた。いつの間にか雄烈が俺の後ろにいる。俺は用意してあったセリフを慌てて言った。
「すまない、仲間がトレントに人質にとられた! 俺は魔法使いギーテル。炎の魔法が得意なんだが、それだとあいつを巻き込んでしまう」
そして心が「きゃー、助けて―」と言うはず。
「はじょろーん。武闘家のココロだよー。お兄さーん、ココロたちと一緒に冒険しよー」
そのセリフはもっと後だ! 俺が困っていると先に雄烈が言った。
「そんな捕まってる状況なのにずいぶん余裕じゃねーか」
「あっそうだった、順番間違えちゃった。てへ。きゃー、助けて―」
雄烈は剣を構えて踏み込んだ。ちょっと待ってほしい、まだ心のおっぱいをじっくり観察できていない。俺は雄烈を制止した。
「なあ、巨乳美女が触手に絡まれてるこの状況、このままだとどうなると思う?」
「恥ずかしい目に遭いそうだぜ。服が破けるとか」
トレントに心を攻撃させない設定にしてあるから、実際には服は破れない。俺はこのまま時間稼ぎをしたいんだ。
「だよな。じゃあもう少し様子を見てみないか?」
「ちなみにねー、ココロのおっきなおっぱいを見たり触ったりした男の人は虫になっちゃうんだよー」
その言葉を聞くやいなや、雄烈が蔓を切って心を解放し、トレントを切り倒した。だよな、わかるぞその気持ち。
心は雄烈に何やら順番のめちゃくちゃなセリフを言って戸惑わせている。もうセリフなんてどうでもいいや、俺がアドリブで話を進めよう。
「助かった。なんかココロが先走ってすまないが、俺たちは新たな冒険者パーティーメンバーを探してるんだ。どうだ、俺たちの仲間にならないか?」
「そうだな、俺はこの辺りに来たのは初めてで、色々教えてくれると助かる。俺のことはオレツェーと呼んでくれ」
「よーし、オレツェーは今から俺たちのパーティーメンバーだ! レッツ・パーティー!」
俺はちょっとしたジョークとしてバーベキューコンロを出した。でも雄烈の顔には笑いのかけらもなく、完全に引いている。
「すまん、そういうパーティーなら俺は参加しねえ」
雄烈は背を向けた。まずい! ジョークが滑るだけならともかく、立ち去られるのはまずい! 俺はコンロをしまいながら雄烈の肩をつかんだ。
「冗談だ。一緒に冒険する仲間って意味のパーティーだって」
「わかった。じゃあ街に案内してくれねえか?」
「よし、行こう」
「えー、お肉食べないの、お肉ー」
どうやらノリの悪い奴のようだな。こいつを笑わせるのには苦労しそうだ。




